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水面 光さん

■ホームページ「水面文庫」 http://www.minamo-bunko.com/ 忙しい中でも身を粉にして執筆活動しております。ジャンルとしては現代ファンタジーが中心でございます。よろしくどうぞー

性別 男性
将来の夢 物書きでメシを食う
座右の銘 人の心は変わらないから自分が変われ

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ねえ誰か

16/10/10 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:0件 水面 光 閲覧数:845

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「ねえ? 僕たち生きてるよね? 君の声を聞くことができて、僕の声が聞こえるということは、間違いなく生きてるよね? 僕は、老いているし、病気持ちだし、身も心もボロボロだけど、それでも確実に生きてるよね? だったら、君に何か言えるのは──生きてくれ──ってことだと思うんだ。大丈夫、心配は要らないって」道端で老人とすれ違ったとき、お互いに顔を確認し、すぐに目をそらし、黙って通り過ぎる。あれは幻聴だ。私の無意識の声だ。しかし、なぜだか私はとても安心した。普通は嘲弄しか聞こえてこないんだけど、あのときは違った。「待たれよ、ご老人」「ん? 何か言ったか? わしは耳が遠くてな。蚊の鳴くような声しか聞こえん」私は能力を使うことにした。「聞こえますか?」「ああ、はっきり聞こえるよ。どうかしたかね?」「私は生きていていいんでしょうか?」「ワッハッハ! 悩み多き若者よ、大いに生きたまえ! それにいつかどうせ死ぬんだから、前向きに生きろよ。これは約束しておく、絶対に損はないと。悪態をつくのは一向にかまわん。しかし、必ず前を向いておけ。そうすれば間違いはない」──この世界では争いが絶えない。命を無理やり奪われることがたとえなかったとしても、何かしら争っている。これがもし私の単なる勘違いであるなら、「平和」などというものを求める人たちはこの世界から居なくなるに違いない。その言葉自体顧みられなくなるだろう。「ないものねだり」という言葉通り、ないから求めるのだろう? 自分が生きていていいのかと疑問に思うのは、ないからだ。生きていていい理由がこれといって。ただ同時に、死んでいい理由もこれといってない。だったら、前向きに生きたほうが少なくとも生きる理由ができる。そういうことでしょ、ご老人? 「ワッハッハ! 考え過ぎはよくないが考えるのは大事なことだ。とくにわしくらいの歳になると、考えようと思っても考えることができなくなるからな。今のうちに精一杯考えることだ。たとえ実らずとも、お前さんが言ったように少なくとも生きる理由ができる」──「終われよジジイ。あんたはもう誰からも愛されてない。愛されてない者に生きる理由はない。だから終われ」「よせ!」「お前も猫をかぶるのはほどほどにしておけ。お前の本性は悪そのものだ。認めろ。そして素直になれ。そうすればお望み通り世界は終わる」「いやだ! 私は悪じゃない! 良心と善意を──」「ツァハハハ! そんなものが役に立ったことがあったか? お前は憎まれているんだぞ? それに応えるには悪を解放するしかない。お前には素質がある。オレは心底期待してるんだよ。お前ならやってくれるって。このくだらない世界を滅ぼしてくれるって」「──フフ、フハハハ! 私は良心と善意を受けて育った。母さんから、先生から、友達から、みんな持っていた! 良心と善意を! 私は応えねばならない! 良心と善意で!」「ふう、それだけか? ご託はたくさんだ。考える必要はない。お前が受けてきた悪に応えるには何度も言うようだが悪を解放するしかない。な? 素直になれ。お前はいじめられていたじゃないか。忘れたのか? お前は悪を受けて育った。いいように解釈しようとするのは逆だったからだろ? オレは間違ったことを言ってない。お前はもうわかってるはずだ。この世界がどういうものか」「私は! 絶対に! お前を認めない!」「うん、強がってもいいけど、実際のところどうだ? お前なにか施しを受けたことがあるか? むしろ奪われているじゃないか」「そんなことは関係ない!」「いや、関係はあるんだよ。愛も結局のところ奪われっぱなしじゃないか。そんな無意味なことは今すぐやめろ。な? 破壊したほうがよっぽど意味があるぞ。おばちゃんに買ってもらったおもちゃを破壊したじゃないか。かあちゃんが大事に育てた野菜を破壊したじゃないか。お前が破壊したときに感じたすっきりした気分。そっちのほうが何の見返りもない愛を持っているよりよっぽど意味があるじゃないか。意味があるとしたらそれがお前が生きていていい理由だ。お前が生きていていい理由は破壊することで生まれるんだよ。奪うことで生まれるんだよ。悪を解放することで生まれるんだよ」「たのむ、やめてくれ」「限界か? 全力を出したいんだろ? その力は正しいことに使わなきゃな。今オレが言ったことがこの世界で一番正しいことだ。そう思うだろ?」「私は──」「どうした? 言ってみろ」「私は──お前の提案は絶対に承認しない。なぜなら──」「ん?」「なぜなら──」「理由なんてない。意味なんてない。そうだろ?」「──本当の本当に理由や意味がないならお前にもないんだ!」──気付くと私は深夜に照明をつけたまま、布団に横になっていることを認識した。ねえ誰か──私の意見が正しいと言ってくれ! たのむ!


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