1. トップページ
  2. 女たちの咆哮

宮下 倖さん

宮下 倖です。 楽しくたくさん書いていきたいです。

性別 女性
将来の夢 誰かの心にひとつでも響く言葉が紡げたら幸せです。
座右の銘 臨機応変

投稿済みの作品

3

女たちの咆哮

16/10/10 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:0件 宮下 倖 閲覧数:984

この作品を評価する


 女は俯いていた。細い肩が力なく落ち、時折小さく震えている。 

「親として無責任だとは思いますけどね、いつかこんな日がくるんじゃないかって考えてましたよ。自分の産んだ娘がわからないんです。あの子が何を考えてるのか、まったく理解できない。だからいつかこんな日が……娘が犯罪者と呼ばれる日がくるんじゃないかって、ねえ。そんなこと思うなんて酷い親ですよ。ええわかってます。……あれは小学校高学年の頃でしたか。雑誌の占いでラッキーアイテムが猫だって書いてあったらしいんです。ふつうは猫の模様の鉛筆とかノートとか、そういうものを考えるでしょう? でもあの子は近所で生まれたばかりの仔猫を捕まえてランドセルに押し込んで学校に行ったんです。目も開かないような仔猫ですよ。ランドセルの中で教科書に潰されて……。あの子は何が悪いのかも理解していないふうでした。友だちが寒いと言えば家に火をつけようとしたり、ピーマンが嫌いだと言えばスーパーの青果コーナーをめちゃめちゃにしたり……。ふつうに育てたつもりです。善悪だって教えたつもりでした。でもあの子の尺度とあたしの尺度はまったく違ってたんですね。こんなことになっても可愛い自分の娘……そう思おうとしたけど無理です。あたしはあの子が怖い」

 向かいに座っていた男が何事か言い、女は空を切るように鋭い動作で顔を上げた。

「本当ですか!? あのシステムを使わせてもらえるの? 是非お願いします。二十年前に戻って、あの子が授からないように何でもします。だから過去に戻らせて! ……えっ、システムを使うのは娘のほう? 反省しているからチャンスを与える? ダメです! 反省なんてあり得ない! あの子は生まれないほうがいい人間なんです!」

 女は幽鬼のように目を血走らせ、髪を振り乱し、腹の底から悲鳴をあげた。


―― * * * ――


 女が俯いている。細い肩からは力が抜け、時折引きつけのように細かく肩が震えた。

「そうですか。母がそんなことを……。ええ仕方ないです。母の望むような子になれなかった私が悪いんです。でも考え方が違うのは仕方ないじゃないですか。私は私で、母は母。ぜんぜん違う人間なんだもの。考えることが同じなんて気持ち悪い。猫? 小学校のとき? ああ……猫ね。あのときは大騒ぎでした。どうしてみんなが泣いたり逃げたりするのかが不思議だったなあ。ラッキーアイテムが猫だって書いてあったから持ち歩いてただけだったのに。可愛かったなあの仔猫。可愛いものはどんな姿になったって可愛いじゃないですか? みんなのほうが薄情だと思いましたよ。……家に火? スーパーを壊す? 母ったらお喋りですね、そんな昔のことまで。でも大事な人が嫌がるものを遠ざけたいと思うのはふつうじゃありませんか? ……だから私たくさん刺したんです。恋人が人混みが苦手だっていうから、少しでも人を減らそうと思って。九人減りましたよね。九人。…………でもね、さっきからずっと言ってますけど、本当に心から悔やんでるんです。ええ、死ぬほど後悔してます。私がバカでした。やり直せるものならやり直したい!」

 向かいに座っていた男が何事か言い、女は空を切るように鋭い動作で顔を上げた。

「ホントですか!? 過去に戻ってやり直せるの? 嬉しい! 本当に本当に後悔してるんです、最後のひとり! あの人を刺さなければ八人だった。あの日、私のラッキーナンバーが8だったんです。ちゃんと数えてればよかった。ああ、でもやり直せるのね! 嬉しい!」

 女は幽鬼のように目を血走らせ、髪を振り乱し、腹の底から哄笑した。




コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン