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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

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将来の夢 プロ小説家になること!
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平和主義者の牙

16/10/10 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:1件 海見みみみ 閲覧数:1004

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「この野郎!」
 大柄な男が俺に殴りかかる。それよりも先に俺が腹に蹴りをいれると、男は白目をむき倒れた。地面には他にも不良達が転がっている。
「はい、おしまい」
 俺は不良とのケンカを終え、その場を後にした。

 ケンカを終え家に帰る。そこにはお袋と親父の姿があった。
「あんた、また不良とケンカしたんだって?」
「なんだよ急に。絡まれたからしたけど、何か問題でも?」
「問題あるに決まっている!」
 普段温厚な親父が珍しく声を張り上げる。
「先ほど高校から連絡があった。お前を停学処分にするそうだ」
「マジかよ」
 さすがにやり過ぎたか。俺も少しだけ反省する。
「そこでお母さん達、相談したの」
「シンゴ、お前を平助じいさんの元に送る」
「ちょっ、ウソだろ!」
 平助じいさんと言えば極度の平和主義者として親戚の中で知られる変人だ。
「平助じいさんの元でしっかり更生してこい」
 親父はそう言うなり、俺を無理やり車に押し込み走り出す。俺は文句を言う暇すら与えられなかった。

 それから一週間後。
「シンゴ、一緒に買い物へ行かんかね?」
 このいかにも弱々しいジジイが平助じいさんだ。着ているダサいシャツには『ラブ&ピース』と書かれている。
「はいはい、行きますよ」
 俺は平助じいさんに従い立ち上がる。俺は早くここから脱出するために、この一週間上っ面だけ平助じいさんに従っていた。

 外に出て、平助じいさんと町を歩く。
 途中、二匹の猫がケンカしているところに出くわした。
「これこれ、ケンカはよさんか。同じ猫同士仲良くするのが道理じゃ」
 猫のケンカに平助じいさんが割って入る。猫のケンカすら止めようとするとは、さすがは極度の平和主義者だ。
 しかし猫達はケンカをやめない。逆に余計興奮して、平助じいさんの顔を引っ掻いた。
「痛っ!」
 平助じいさんが自身の顔を押さえる。
 まったく、こんな茶番付き合ってられるか。俺は平助じいさんを置いて一人歩き出した。

 一人きりになると、やっぱり俺は不良に絡まれるらしい。俺は路地裏で複数の不良とケンカになった。
 不良達を次々なぎ倒していく。
「なんだ。大した事なかったな」
 数分後。そこには返り討ちにあった不良達の山があった。
「源五郎さん、こっちです!」
 そこに逃げたと思っていた男が、援軍を連れて戻ってくる。源五郎と言ういかにもチンピラ風の男だ。
「坊や、調子に乗るのもこれまでだ」
 そう口にすると、源五郎が殴りかかってくる。
――速い。
 気づくと俺は殴られ、吹き飛んでいた。鼻血が出る感覚。更に源五郎が追撃してくる。手も足も出ないとはまさにこの事だった。
 ケンカでここまで敵わない相手に出会うのは初めてだ。俺は心の底から恐怖する。
「さて、お返しに指の骨を一本ずつ折っていこうか」
「や、やめっ」
 源五郎が俺の指に力を込めようとする。もはやこれまでか。そう思った時だった。
「待ってくれんかのう」
 明らかに場違いな声。割って入ってきたのは、なんと平助じいさんだった。
「なんだ、ジジイ」
「その子はわしの親戚でな。これで許してもらえんかのう」
 そう口にすると、平助じいさんは財布から札束を出し、源五郎に渡した。
「物分かりのいいじいさんじゃねーか」
 源五郎が倒れていた仲間達を起こし、その場から立ち去る。路地裏には俺と平助じいさんだけが残された。
「大丈夫かのう」
「なにしてんだ、クソジジイ!」
 俺は鼻血をぬぐいながら声を張り上げた。
「負けはしたが、俺は戦っていた。それなのにあんたは金で物事を解決しちまった。あんたの平和主義とやらはプライドがないのか!」
「わしの戦いはもう終わっておるよ」
 それだけ口にして、平助じいさんが手を差し出す。俺は納得できず平助じいさんの手を払った。

 その晩、俺はボーッとテレビを見ていた。
 ケンカであそこまで負けたのは初めてだ。その上あんな屈辱的な幕引きをしたのももちろん初めて。俺は苛立っていた。
『続いてK県S市に関するニュースです』
 K県S市ってこの町のことじゃないか。テレビに集中する。
『本日午後四時頃、コンビニでニセ札を使おうとした罪で、堺源五郎容疑者が逮捕されました。堺容疑者は犯行を否認していますが、他にも余罪があるものと見て、警察は調査を続けています』
 待て、堺源五郎ってさっき俺がケンカした相手だよな。源五郎なんて名前は他にいないだろう。しかも犯行時刻は俺とケンカした後。という事は、つまり。
『わしの戦いはもう終わっておるよ』
 平助じいさんの言葉が蘇る。平助じいさんの戦いは確かに終わっていた。源五郎にニセ札を掴ませるという戦いが。
 真正面から殴り合わなくても、他に戦い方がある。俺は平和主義者の牙を見たような気がした。


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このストーリーに関するコメント

16/10/22 林一

最後の落ちがおもしろかったです。
護身用に武器ではなくニセ札を持ち歩くような時代がいつかくるかもしれませんね。

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