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鮎風 遊さん

訪問していただき、ありがとうございます。 この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 このためひとり脳内で反応を起こし、投稿させてもらってます。 されど作品は次のシリーズものに偏ってしまってます。。。 ツイスミ不動産。。。 刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)。。。 未確認生物。。。 ここからの脱出、時には単品ものも投稿したいと思っております。気が向いた時にでも読んでいただければ嬉しいです。    

性別 男性
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訳あり物件に穴吹時津風君がいた

16/10/09 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:0件 鮎風 遊 閲覧数:840

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 少女を誘拐し、マンションに6ヶ月間監禁。
 今朝9時のことだった。私は琴音(ことね)ちゃんを連れて交番に向かうところ誘拐犯として逮捕されました。
 即座に身柄は拘束され、その後何時間もの取り調べを受け、すでに深夜となってしまいました。現在はやっと解放され、ただ今鉄格子の冷たい部屋の中です。
 もちろん私は犯人ではありません。
 しかし、なぜこんな顛末になってしまったのでしょうか。そもそもこの少女との出会いは昨夜が初めてであり、名前を知ったのも、「お名前は?」と尋ねて教えてくれたからです。
 あ〜あ、これはホントに災難です。いや冤罪です。
 それでもよくよく考えてみれば、どうも1年前にマンションを購入したところが始まりで、そこからこの結末に至る運命があったのではないかと思えてきました。

 そう、私は某貿易会社の独身サラリーマン、入社して10年、私なりに頑張ってきました。お陰で、給与査定はいつもそこそこ、将来をまあまあ期待されています。
 しかし、ここへきてちょっとネガティブ思考、毎日が味気なくなってきました。そこで一念発起、近未来に結婚し家族を持つことを前向きに考え、今から自分の城を持っておこうと決意致しました。
 とは言っても、家は高い買い物。勤め人10年の蓄えなんて知れたものです。やっぱり無理かと諦めかかった時のことです、駅前の不動産屋の掲示に、高級マンション驚愕の8割引きとあったのです。
 もちろんそれは――訳あり物件。
 だけど私はその安さに飛びつき、早速営業マンに現地へと連れて行ってもらいました。30階の高さのせいか、眼下に公園が広がり、眺望が…素晴らしい!
 とは言っても訳あり物件ですから確認がいりますよね。そこで私は「殺人事件でもあったのですか?」と販売員の顔を覗き込みますと、男は沈黙したまま私を寝室へと案内し、指差しました。

「えっ、穴、うっうっう…、穴?」
 私はその意外さに声を詰まらせてますと、スタッフは「はい、直径80センチの穴、時々ここの壁に貼り付きます。日常生活には無関係だと思いますが、ご心配なら中を覗いてください」と声のトーンを落としました。
 私は奨められるままに恐々首を突っ込みますと、穴は別に隣室に繋がってるわけでもなく、少し風を感じる深い暗闇だけが広がっていました。「なるほどね」と私が頷くと、男はさらに耳元で囁くのです。
「この穴は友人のようなものでして、毛嫌いすると飲み込まれ、もう二度と出て来れません。不運にも何人かがそんな目に合ってます。しかし、ほどよく付き合ってやれば、タイミングの良い追い風に乗せてくれて、違った時間の世界へと連れてってくれますよ。実は私もこの穴吹時津風(あなぶきときつかぜ)君にお世話になって、時々ズルッとスリップさせてもらってます」

 友人、穴吹時津風、スリップ、なんじゃ、それ?
 私は理解できませんでしたが、とにかく値段が魅力で購入致しました。それからは快適な一人暮らしを満喫していました。そして慣れというものは不思議なものですね、壁に穴が貼り付いていても気にもならず、むしろ時々感謝を込めて冷えたビールを飲ませてやりました。
 だけど昨夜のことです、上司の栄転祝賀会があり、少々酔っ払って帰ってきました。シャワー後ベッドへ潜り込み、眠り落ちました。
 ドスン! 深夜に耳元でこの物音です。私は驚きで何だと灯りを付けますと、穴の前に立っていたのです、少女が。
「お嬢ちゃん、なんでこんなところに?」
 私が訊きますと、「公園に大きな木があって、そこの穴に入ったら、ここへ。ママのところに帰りたい」としくしくと泣き始めるじゃないですか。これは一大事、私は朝を待ち、少女を連れて交番へと向かったわけです。

 だけど知らなかった。6ヶ月前に少女が公園からこつ然と消えた。神隠しだと噂が立ったが、警察はもちろん誘拐事件としてしつこく捜査を続けていた…とのことです。
 一方私は、少女が壁の穴から突然現れ出て来ました。そして母親の所に帰りたいと言うので連れて来ました、と。
 こんな話し誰も信用してくれませんよね。それでも刑事は私の部屋に穴があるかどうか確認したようです。だがすでに消えてしまっていました。
 ああ、嫌疑は晴れない、絶対絶命だ!
 だが待てよ、確か不動産屋のお兄さんが言っていた、時々ズルッとスリップさせてもらっていると。
「穴吹時津風君、助けてチョンマゲ!」
 私は白い壁に向かって大声で叫びました。するとどうでしょうか、直径80センチの穴が監獄の壁に貼り付いたのです。
 今のサッリーマンの栄光を捨て、時間の違う世界へとズルッとスリップするぞ!
 さぁて、読者のみな様の過去、あるいは未来、穴吹時津風君があなたの部屋の壁に貼り付い時、私が飛び出しますから……、その時はよろしくね。


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