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さの。さん

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反転しても夢は続く

16/10/07 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:0件 さの。 閲覧数:847

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 夢半ばにして、交通事故にあった。
真っ白い病室の中。けれど、僕には真っ黒な病室に見える。
花瓶に挿してある緑色の花。本当は橙色の花だ。
……ああ、本当に色が反転している。
 それでも、世界は普通に生きていけるものだ。
皆の青を赤と思えば良い。
けれど、僕にとっては違う。
「僕の夢は、航空操縦士だったんだ。」
過去形。もう、過去形だ。
色覚異常者は空港操縦士にはなれない。
 誰もいない真っ黒な世界での独り言。
酷く冷たく、どこにも響かない。
その虚しさに苛立って、思わず部屋を飛び出した。


 気が付いたら、走り疲れて眠っていた。
眼を開くと、沢山の茶色い机。黒い板。真っ黒な学ラン。
――正常だ。
それはつまり、異常な空間であるということだ。
どうやら、此処は中学校らしい。おそらく、母校。
後ろを振り返った。習字が貼ってある。各々、好きな言葉をしたためている。
見覚えのある苗字が沢山並んでいて、それに目を通してみる。
「……田中 翔…?」
 僕の名前だ。此処は、僕が中学生の頃なのかもしれない。
『宇宙』
田中 翔の名前の隣。大きい文字で、そうと書いてあった。
「宇宙なんて夢見過ぎだろ? お前は夢なんて見てはいけないんだ」
 思わず、呟く。
そういえば、この頃の自分は宇宙飛行士になると言っていた。
事実、視覚障害になって空の道も絶たれたのに、宇宙はもっと無理だ。
「……誰だよ、オレにケチつけた奴」
 振り返ると目が合う。蛇に睨まれた蛙。
真っ直ぐな眼をした少年が、こちらを睨んでいる。
視線を一切反らすことも出来ずに、冷や汗が出てきてしまう。
声変わりもしていない声に、呼ばれた。
「来い」


 少年は盛大に舌打ちをする。
「未来のオレか何かかよお前。」
「そうだけど。」
 苦虫を噛んだ顔で僕が答えると、少年はまじまじと此方を見つめる。
そして、神妙な面持ちのまま僕に問いかける。
「オレは勘が鋭い。だから、お前は本物とは認めてやる。
単刀直入に。未来のオレに、何があった…?」


「――交通事故で、色覚障害になった。」

 刹那、冷たい風が吹いた。一瞬だけ見えた、暗い表情。
しかし、少年はそれを切るように舌打ちをする。
瞬間、僕の胸倉を掴む。
 彼の方が身長が高く、僕は釣り上げられる。
「だからって諦めるのかよ!」
「受ける権利がないのに、挑戦する方が格好悪いだろ。」
「それでも、挑戦する気合いがあるのが格好良いってんだよ!」
「無理な夢は無理だろ!?」
「無理言われてんなら、オレは宇宙飛行士なんて目指してねぇよ!……無理でも目指せよ…!」
少年の声は荒く、だんだんとうわずってくる。鼻の啜る小さな音。
僕は、こんなにも夢に向かって一生懸命な純粋な中学生だったのか。
しかし、その彼の未来が、これか。
「お前が、僕じゃなきゃよかったのにな。」
「やめろよ…オレの未来を、お前自身を否定するなよ…!」
「お前を一番の宇宙飛行士にしたかった」
「なんで過去形なんだよ…!オレは今を生きているんだ。
未来で待ってろ。お前の目の前に現れてやる。笑って、現れてやるからな」
少年の挑戦的な笑みは酷く狂暴なのに、いや、それだからこそ、あまりにも脆い。
その表情に何も言えないでいると、少年はもう一度叫ぶ。
「待ってろ…!」

そして、少年の目から一筋。水滴が落ちる。
その時、思ったんだ。
過去の僕を、僕のような人を、誰よりも応援したい。
誰よりも、彼らを役に立ちたい。
――気付くと、世界は反転していた。


 それから、何年経ったのだろう。
青黒い桜の花弁が舞う道を、新入生が歩いている。
僕は航空・宇宙専門校の教師になった。
教え子がどんどん成長して、未来に挑む姿は本当に胸が躍った。
――あんな経験がなければ、僕は一生夢を失った人間だったんだろう。

そう、あの新入生のように高身長、挑発的な表情、鋭い眼。
そんな小さい頃の僕に出会えたからこそ、僕はこうやっ――
「自称未来の田中だ。」
僕が状況を理解できずに目を丸くする。
その少年に面影のある新入生は、僕に声をかけて来たのだ。彼は続ける。
「お前、他人の空似だったからな?
何が未来は暗いだよ。」
……やっと理解が追い付いた。
 どうやら同姓同名の少年を間違えて、過去の自分と思い込んでいたのだ。
考えてみればそうだ。
タイムスリップなんて、現実的にほぼ出来ない。
彼は同じ母校で、同じ夢を持っていただけだったのだ。

「面、印象変わったな」
相変わらず生意気な少年が、心底楽しそうに笑う。

「夢がこけたと思ったのに、一回転しただけだった」
僕も、負けじと笑ってやる。


僕は、色が反転した時、夢への未来も反転してしまった。
けれど、時間が反転して、お前に合ったことで夢さえも反転した

だから反転しても夢は続く


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