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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
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大雪山伝奇 雪女と雪ん子

12/10/13 コンテスト(テーマ):第十五回 時空モノガタリ文学賞【 北海道 】 コメント:8件 草愛やし美 閲覧数:2860

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 雪ん子は雪女の娘、雪女が愛した男との間にできた子。だが、彼女が愛した男は人間だった。素性を知られた雪女は愛する男の元を去らねばならなかった。
 雪女は北国に聳えるふるさと大雪山に戻り赤子を産んだ。大雪山は雪神の支配する国があった。雪女の父でもある雪神は雪を操る雪族の当主だ。雪ん子と名づけられたその娘は、人間にも雪族にも属さない子ゆえ、そこに住むことは叶わない運命にあった。雪女は、生まれてすぐの赤子を雪神の国から遠ざけることに決めていた。
 雪女は大雪山の麓に雪洞を掘り、雪族の宝である雪石を芯にして雪像を作った。雪女がヒユーと冷めたい息を吹きかけると、雪像は一人の老女になった。老女に赤子を預け、雪女は雪洞を雪で覆い隠した。
 その日から大雪山が吹雪く日には吹きつける風に混じりヒユゥーという何とも物悲しげな雪女の泣き声が聞こえてくるようになった。 
 気温は零下を刻む日でも、その子は薄っぺらな着物1枚で過ごすことができた。雪ん子の頬は異様なほど透き通り一見しただけで物の怪の素性だと伺えた。誰が望んで雪女の子になど生まれたかったことだろう。そんな雪ん子も15歳になった。人間なら楽しい学校生活を送っている年だが雪ん子は雪洞に婆やと二人だけで暮らしていた。彼女を世話をする婆やは雪女が作った雪像だが、徐々に異変が起きていた。
「雪ん子お前さまはなんて不憫な子なんじゃ、できればわしはずっとお前さまの傍にいてやりたい。人間にも雪女にもなれないお前さまには友の一人もおらぬ。なぜお前さまは生まれてきてしまったのか。ばあはもうすぐお前さまと別れねばならぬことが悲しい」
「ばあ、別れるって……、なぜじゃ。ずっと私といてくれぬのか」
「雪ん子、よくお聞き。近頃、気候がおかしいのじゃ。昔からこの大雪山は夏でも凍てつく山じゃった。麓とはいえこの雪洞も雪に閉ざされて夏場を過ごせのじゃが、今や覆われた雪が溶けだし暖気が入ってきている。お前さまを一人前にするまではと頑張ってきたが、もはやこれまで、雪でできたこの身はどんどん崩れていっておる。雪女さまとのお約束を果たすことも叶わずに、この夏の暑さを乗り超えることはできぬようじゃ」
「いやじゃ、一人にしないで……ばあ」 
 雪ん子は婆やの冷たい胸にすがって泣いた。もはや婆やの顔は崩れ笑っているのか泣いているのかもわからないほどだった。その年の夏の終わり、婆やは逝ってしまった。雪像に埋め込まれていた雪石を抱きしめ雪ん子は泣き続けた。
「私はどうして、生まれてきたの? 生きていてもよいことなど何もない……」
 暖気が雪洞を塞いでいた雪を溶かしていた。泣きながら雪ん子は雪洞から這い出て南を目指し歩き始めた。婆やの言葉を思いだしていたのだ――決して南へ下ってはいけない、雪のない南へ行くことは、雪族にとって死を意味する。雪ん子は死ぬつもりで南を目指していたのだ。だけどどこまで行っても死ねない、人間の血を受け継いでいる雪ん子には無理だったのだ。
「死ぬこともできぬ……なんということだろう」
 うち拉がれた雪ん子は母を求め、北国へ戻るしかすべがなかった。しばらく経ったある日、雪ん子は氷像が建ち並ぶ町に佇んでいた。旭川の冬祭りは通りのあちこちに氷像が飾られている。だが、吹雪の中、会場は静まりかえっている。誰一人いない会場で雪ん子はずっと一つの氷像を見上げたままだ。
「母様(かかさま)あなたは母様ですね。幼い頃ただ一度、雪洞に会いに来てくださった母様を忘れたことはありません。逢いたかった母様」
 氷像の名称は『女神像』、毎年ここ旭川氷像祭りに提供されている女神の像にすぎないものだったが、雪ん子にとってはそれが母の姿に思えた。吹雪がゴウゴウと音を立て町の灯火も霞んで見えない。女神像の横たわるように小さな雪の塊ができていた。

 雪ん子がいなくなったことを知った雪女の嘆きは尋常なものではなかった。雪神は日に日に衰弱していく雪女を心配した。
「雪女(ゆきじょ)何をそのように悲しむ? 雪ん子のことは忘れるのだ。お前は雪族の者、この父の気持ちわからぬか」
「雪神さま、あなたさまが父ならば、子への気持ちは同じはず、私は雪ん子の母、子の苦しみは私の苦しみです」
 雪神は雪女の深い悲しみのをその言葉で気づいた。

 朝日に照らされ女神像はキラキラと輝いている、その女神像の傍で小さな白い虫がふわりと飛び立った。いつの間にか吹雪は収まり青空が広がっていた。
「あっ、雪虫! でも変だよ吹雪の後なのに」
「ほんと、珍しいね。雪虫って冬の始まりを知らせるものだよね。」
 一陣の冷たい風が吹き渡った。雪の精がその雪虫の周りを取り囲み雪虫を大雪山へと導いていく。雪虫は雪神により変えられた雪ん子だ。母の元に向かうその羽音は嬉しさに震えているかのように響いている。


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このストーリーに関するコメント

12/10/14 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

美しくも悲しい雪ん子のお話でした。
きっと母の元に返って幸せに暮らしていることと思います。

札幌の雪まつりは一度見てみたいです。

12/10/15 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

地球温暖化で将来雪がなくなってしまったら
雪族の人たちは困るでしょうね。
母と子の絆が美しいモノガタリでした。

12/10/20 ドーナツ

私はどうして、生まれてきたの>
これは命あるものの永遠のテーマだと思います。

お話から、左の写真のように、キラキラしたモノをかんじます。

自然の中にも、いのちとか、愛とか 人間の目に見えないもの絶対あると思うので、この雪の親子が幸せでいられるように、自然を守って行くことが大事だと思います。

12/10/31 草愛やし美

泡沫恋歌さん、コメントありがとうございます。

雪まつり見てみたいですね、私もこういったお祭りは行ったことがないんです。私はとても寒いのが苦手なので、温かい場所で見ることができればよいのになぁ、なんて思っています。(笑)

12/10/31 草愛やし美

そらの珊瑚さん、地球温暖化進んでいるそうですね。

近頃は北海道でも夏場の暑さが凄いらしいです。昔から夏場涼しいのでクーラーなんていらなかった地域だったそうなのに、やはり地球がおかしくなっているのでしょう。

コメントありがとうございました。

12/10/31 草愛やし美

ドーナツさん、自然を守る、とても大事なことです。僅かなことでも、環境汚染に繋がる可能性があります。心の隙間にできる油断がよくないのではと思っています。

最近は町中に熊が出没するというニュースをよく聞きます。これも人が野生動物とちゃんと共存できていない証拠でしょね。

コメントありがとうございました。

12/11/16 kotonoha

もうすぐ雪虫が飛びます。
草ちゃんの物語を思い出しながら眺めることにします。
美しい「雪女と雪ん子」の心情を察して心地よい朝でした。

12/12/28 笹峰霧子

真っ白な銀世界を想像しながら読ませていただきました。
筆致巧みの作品ですね。
感動しました。

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