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南野モリコさん

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性別 女性
将来の夢 一生文章を書き続けること。
座右の銘 非凡な花を咲かせるには平凡な努力をしなくてはならない。

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未来から来たウルトラ母さん

16/10/07 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:0件 南野モリコ 閲覧数:1375

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母は自分を「ウルトラの母」と呼んだ。私はウルトラの母の娘、のぞみ16歳だ。2月の夜11時、お風呂に入ろうと寒い階段を下りると、母はキッチンで明日の朝食のパンを丸めていた。
「お母さんはウルトラの母だから、ホームベーカリーなんか要らないの」
母は料理に気合の入ったウルトラ主婦だった。パンも天然酵母を発酵させるところから始める。冬に酵母を発酵させるのはウルトラ級の難しさだと母は自慢した。母は発酵食品に凝っていて、味噌も醤油もオーガニック大豆から拘った手作りだ。
母が料理している隣で、いろんなことをしゃべるのが私は好きだった。私と母は何でも話した。だから、母はあの秘密も教えてくれた。

母は、平凡な主婦に見えて、実はタイムスリップというすごい力を持っているのだ。昔は大手新聞社のやり手記者で、未来を行っては、数々のスクープをモノにしていた。我が家は、タイムトラベラーの家系で、その不思議な力は女性だけに遺伝され、秘密は固く守られているのだそうだ。

「俊子おばさんは、おじさんが将来、事業で大成功するって知って結婚したのよ」

確かに華やかな俊子おばさんに地味な風貌のおじさんは不似合いだった。「きっと財産があるのよ」周囲の人はそう噂したが、そんな裏付け情報があったとは。

母も俊子おばさんもタイムスリップの力で人生を楽しむつもりだった。しかし、ある時、母は未来の世界で、人生観がガラリと変わるある事件を目撃した。それ以降、母はその特殊能力を封印し、会社を辞めて家庭に入った。私が生まれると、母は家庭を守るウルトラの母に変身したのだった。



ウルトラの母は主婦業を完璧に熟した。母は私に家庭の運営を教え込んだ。しかし、私の関心は母が見たという未来だった。

「お母さんが見た未来の大事件て何?」
そう聞く度に、母はきっぱりと言った。
「未来なんて、知らない方がいいの」

同じ力を持つ俊子おばさんにも教えなかったらしい。

「私たちに何か大変なことが起こることだけは確かね」
母のあまりの変わりぶりに、俊子おばさんもタイムスリップを辞めた。
「昔のお母さんてどんな人だったの?」
「タイムスリップを悪用して、遊んでばかりだったわ。勉強もしなかったし、外食ばかり。それが急に『自分の力で生きたい』なんて言い出したんだからね」


母はタイムスリップを自分の代で止めるつもりらしく、私にはやり方を教えなかった。

「のぞみは、【その日】のために、しっかり準備しておいてもらいたいの」
「準備って?」
「のぞみもウルトラの母になるの」

母の言葉はたまに意味不明だったが、一貫した哲学があった。母が大切にしているのは、生きる基本、とりわけ食べることだった。母は狭い庭に家庭菜園を作った。「家族が食べる野菜くらいは作れなくちゃね」と言いながら。

「その日っていつ?」
「その日になれば分かるわ」

母の言葉はノストラダムスの預言以上に怖かった。でも、それは私の思い違いのようだ。母の言葉をつなぎ合わると、あることが浮かび上がった。

私には好きな男子がいた。野球部の卓也君は、1年生のうちからスカウトが見に来ている期待の新人だ。母にはまだ秘密なのに、なぜか彼の名前を知っているのだ。

「ねえ、お母さん、未来って変わるの?」
3月に入ってから母は漬物に凝っていた。味噌漬け、麹漬けの肉や魚が冷蔵庫にぎっしり入っていた。

「未来に行って見たことを記事にするということは、過去を変えるということだよね。過去が変われば、未来も変わるよね?」

「変わらないわよ」
あまりの即答に私はずっこけた。母は妙な説得力で続けた。

「そう簡単に未来は変わらないわ。でもひとつだけ方法がある」
「何なに?」
「自分を変えることよ」

私はがっくりした。母は構わずに続けた。
「例えば、のぞみが卓也君とデートの約束をしたとする。でも、約束の日、大地震が起きて日本中がパニックになったら、予定はキャンセルになるよね。だけど、もしのぞみがウルトラマンみたいに空を飛べたら、卓也君に会いに行けるじゃない」

「お母さん、自分を変えても空を飛ぶのは無理よ」
笑いながらドキっとした。私と卓也君は本当に会う約束をしていたのだ。

初デートの日は快晴だった。母は朝から落ち着かない様子だった。
出かけようとすると、母は私をそっと抱きしめて言った。
「私の人生で一番尊い行いはのぞみを生んだことよ。タイムスリップの力を初めて正しいことに使えたわ」

お母さん、ありがとう。お母さんは、私が野球選手の奥さんになれるように、料理を教えてくれたんだね。

私は待ち合わせ場所に向かった。デートはきっと絶対に楽しい。未来から来たウルトラの母がついているんだもの。私は確信した。お母さんが見た【未来】は今日、2011年3月11日金曜日。


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