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キップルさん

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リセット・ボタン

16/10/07 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:0件 キップル 閲覧数:918

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「タカヒロさん、お気持ちに正直に。でも、私を選んでくれたら嬉しいですわ。」
「わ、私、タカヒロとずっと一緒にいたい!」

 僕は魔王を倒して世界を救うべく選ばれた勇者。これまで海を渡り、洞窟に潜り、数多くの魔物を退治し、世界中を旅してきた。その過程では父親を殺されたり、魔物に捕まって何年も投獄されたり、辛いこともたくさんあった。そんな僕だけど、これから結婚するんだ。相手はルドラスの大富豪アーネストの娘コニーだ。それで今はアーネストさんの家でコニーと婚約しようとしてたんだけど、どういうわけか突然、幼馴染のリリアが割って入って来て求婚されてしまった。

「ほっほ、モテる男は辛いのぉ。さ、タカヒロ君、どうするんじゃ?」

んんっ、何だこの展開? 僕はコニーとリリアから同時に求婚されているのか。んはっ、テラリア充w。はっ、いかんいかん! うーん、コニーは大金持ちの娘でおしとやかな人。リリアは貧しい村の幼馴染で活発な性格。リリアには昔からよく振り回されてたなぁ。廃墟になったお城に行こうって誘われてゾンビに襲われたり、魔法の練習とか言ってたら炎が出て危うく山火事になりかけたり、散々だったなぁ。でも、それはそれで楽しかったんだよなぁ。あれっ、僕リリアのことばかり考えてる? いやいやコニーだって素敵な子じゃないか。笑顔がかわいいし、それに。それに…。やっぱり僕はリリアが…。あー、よく考えてみろ! 魔王を倒すってことはいい武器とか鎧とかいっぱい必要だろ。コニーの家は金持ちだし、きっと色んな援助が受けられるじゃないか。そうだ僕は勇者。なら目的を果たすための選択は決まってる。決まってるんだ…。

「僕…、コニーと結婚します!」
「タ、タカヒロさん、よろしくお願いします///」

 それから僕とコニーは一緒に旅するようになった。お祝いにアーネストさんからたくさんお金をもらった。冒険を進める中でもアーネストさんはたびたび仕送りをくれた。おかげで装備品はとても充実し、厳しいダンジョンも楽に攻略できた。コニーは相変わらず優しくて、いつも一歩下がって僕を支えてくれる。二人の間には子供もできた。優しいお兄ちゃんと元気な妹。二人はとってもかわいかった。僕はすべてを手に入れ、満足していた。満足していたはずだったんだけど…。

 僕とコニーと子供たちのパーティはいよいよ魔王の城まで来た。この最奥で魔王を倒したら僕たちの冒険は終わる。

「よーし、行くわよ。パパ、ママ、お兄ちゃん、しっかり着いて来て!」

娘はこんなときでもはしゃいで元気いっぱいだ。その姿を見て、僕は幼馴染の女の子のことを思い出していた。

「あなた、ここで最後だから悔いのないように頑張りましょう!」

コニーも今日はいつになく気合が入っている。そうか、悔いのないように、か…。僕にとっての悔いは、こんなに恵まれているのにあの日の選択。僕はやっぱりリリアのことが…。忘れられない…!

「しゃーない、リセットすっか。」

頭の中にバチンッと電気が走り、僕は突然目の前が真っ暗になった…。

…。

「タカヒロさん、お気持ちに正直に。でも、私を選んでくれたら嬉しいですわ。」
「わ、私、タカヒロとずっと一緒にいたい!」

(これは、コニーとリリアに求婚された時だ。僕はいったい…?)

「ほっほ、モテる男は辛いのぉ。さ、タカヒロ君、どうするんじゃ?」

(今までのコニーとのことは夢だったのか…? だとしたら、僕の気持ちは決まっている!)

「ごめん、コニー。僕はリリアと結婚します!」
「タカヒロ、ありがとう!」

リリアが急に抱きついてきた。リリア、迷ってごめんよ。僕はもう君を離さない。

…。

「やっぱりリセットがあるって最高だな!」

 薄暗くてジメジメした部屋のテレビ画面の前で、無精ひげを生やした一人の男が言った。

「失敗したって何度でもやり直せるもんな。女選び放題でリア充満喫。うまくいき過ぎて怖いくらいだ。ホントに…。こいつは何でもうまくいきやがる。俺なんか高校出てからほとんど働かないで、ずっと家にいて、人に会うのも怖くて。だから当然彼女もできなくて、これから先のことなんか分からなくて、考えるのも嫌になって。こうしてゲームに熱中して全部忘れようとしてる。もう何もしたくないし、考えたくもないんだ。俺はどこで間違ったんだろう? うっ、う、人生にもリセットボタンがあればいいのにな…。」

男は嗚咽をもらして泣き出した。そのとき後ろのふすまがスッと開いて、母親が入ってきた。手にはよく研がれた三徳包丁が握られている。

「本当にリセットボタンがあればいいのにね。ごめん、タカヒロ。」

その一刹那後、男の悲鳴がさびれた一軒家全体を激しく揺さぶった。


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