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kouさん

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華が咲く

12/10/13 コンテスト(テーマ):第十五回 時空モノガタリ文学賞【 北海道 】 コメント:0件 kou 閲覧数:1526

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「風の船よ、大地の恵みを纏い、空高く、舞え」
 僕は空を見上げながら言う。
「ちょっと待ってヒカル。なんで魔法ちっくなの。あんた手に持ってるの風船でしょ」妻であるモモカが僕の持っている風船を指差した。
「い、いや、じゅ、呪文みたいに唱えた方が入居してくれる人が増えるかなと思って」
「普通に不動産会社と契約して募集すればいいじゃない」
 やれやれ、とモモカは両手を上げた。
「そ、それじゃ、面白くないよ。人生にはイベントがつきものだ」
「ねえ、ヒカル。そ、そ、そのどもり癖なんとかならない」
 モモカは笑う。
「む、無理だよ。自分の意思とは反してどもっちゃうから」
「でも、やっぱり治さなくていいわ。私はあなたの才能をよく知ってるから」
 どっちだよ、と僕は思う。
 僕ら夫婦が札幌市富士見町に移り住んだのは二年前。
 当時の僕は権利取得に並々ならぬ情熱を燃やし、二十代という輝かしき時代をそれをのみに費やしてきた。その結果、『フォトメモリー』なる、人間の記憶≠写真や動画に保存できる技術を開発した。仕掛けは簡単だ、耳にチップが内蔵されているイヤホンをはめ込み、それが脳とシンクロし、チップに潜在記憶、顕在記憶が保存される。もちろん保存したくない記憶は保存しなくていい。記憶を抽出する際は、目の前に薄膜のスクリーンが映し出される。大丈夫。他の人には見えないから。プライバシーにはうるさいもん、人って。
 それを特許申請して、厚く手堅い保護をし、北海道の某企業に売り込んだら、多額の金銭で買い取ってくれた。これからは特許権使用料を武器に世界に乗り込むぞ、と僕は息巻く。他にもまだアイディアがあるからだ。これからはどんどん地域に役立てるような技術を開発していきたいと思ってる。
「でも、ヒカルにこんなこといいたくないんだけど」モモカは珍しく悩ましげな表情をし、「なに?」と僕は訊く。
「子供欲しいな、と思って」
 僕ら夫婦は結婚して六年にもなるのに子供がいない。というよりはなかなかできないのだ。やはり女性は子を持ってこそ役目を果たすのかな、と僕の心臓は罪悪感でドキドキが止まらない。だって、そうじゃないか。そうだろ。
「子供、子供、子供」
 僕は連呼しすぎて手に持っていた風船を離してしまった。ああ、飛んでいく、もう手が届かない。いい人に届きますように。

 私の目の前に、どもっている大家さんがいる。入居者面接だ。さらには特許マニアらしい。ちょいちょい自慢が入る。でも特許もある意味具現化していくという点では、漫画家志望の私と一緒かもしれない。富士見町って高級住宅が多いのに、この大家は家賃二万でいいよ。と言う。風船に書いてあった通りだ。
 そもそも札幌市を普通に歩いていたら、緑色の風船が飛んできて、手に取ってみたら、赤文字で、今現在いる場所の住所が書かれていた。さらに、「家賃二万でどう」と軽いタッチも添えられていた。漫画家として芽がでない私としては破格の条件だった。半信半疑で大家さんを訪ねてみたら、事実だったのでここに決めたい。
「ま、ま、漫画志望なの?」大家はどもり、「そうです」と私は簡潔に答える。
「いいよ。入居決定」
 あっさりだった。何の基準で入居者を判別しているのかわからないが、あっさりだった。

 風船とギターを持って俺は大家を訪ねた。ただそれだけだ。本当に、本当にそれだけだったのだ。目の前に大家が現れる。
「も、も、もしかしてミュージシャン志望?」大家はどもる。そしてなぜわかるのだ。俺がミュージシャン志望、と。
 それを見透かしたように大家はこう言った。「ギ、ギブソン使ってるんだ。本気で目指してないと、そ、そんな高級なギターは持たないからね。いいよ。入居決定!」
 俺は家賃二万という安さに惹かれ、そんなつもりはなかったが入居することに決めた。バス、トイレ別で、たまに大家から食事のサプライズがある、って素敵じゃん、ロックじゃん。

「漫画家とミュージシャン大成したわね」モモカはお腹をさすりながら言い、「ぼ、僕の見る目に間違いはなかった」と僕は空を見上げた。
「北海道出身の文化人って多いもんね」モモカはさらにお腹をさする。
「うん。そ、それに、漫画家とかミュージシャンって売れるまでが大変だからね。才能はやり始めた時点である。努力は好きなことだから苦にならない。あとは運だよ。す、すくなからず、ぼ、僕には運があると思うから。お裾分け」僕は妻のお腹をさすった。
「あの二人が大成したと同時に、お腹に新しい命が宿った」モモカは嬉しそうだ。
「ひ、人の役に立つと、いい事ってあるんだよ。ぼ、僕は改めて確信した」
 そう言い今度は青色の風船を、僕は青空に飛ばした。


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