白取よしひとさん

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GUILTY

16/10/05 コンテスト(テーマ):第119回 時空モノガタリ文学賞 【 お笑い 】 コメント:0件 白取よしひと 閲覧数:760

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辿り彷徨い。どこをどう巡ったか憶えていない。舞台の袖を暗く覆う幕。僕はその陰で出番を待っていた。先行の男は客受けが良いのか次第に笑いを獲り勢いに乗っている。
「良いですか。出番が来る直前にお題を差し上げます。あなたはお客さんにそれをアピールして下さい」

傍らに寄り添う案内人と呼ばれる老紳士は淡々と語る。また歓声が沸き起こった。随分受けている。僕は鼓動が高鳴り脇の下が汗ばむのを感じた。
「−採用−されるかどうかはあなた次第です。検討を期待します」
会場に響く喝采は急速に収束し劇場は静まりかえった。男の発表は終わったのだろうか。

「さて、いよいよあなたの出番です。お題はあなたの善行です」
案内人は右手を差しだし僕を舞台に導いた。緊張する僕は差し出された手を見た時のツィードに付けられた革ボタンの映像が頭にそ焼き付き、頭を反芻してお題がまとまらない。僕の善行?それで受けを獲れなんて無茶だ!

 恐る恐る幕を捲りステージに上がると中央にスポットがあてられ、そこが立ち位置である事を教えてくれた。こぢんまりとした劇場の客席に何か蠢く気配は感じるものの暗がりになっていてその姿はステージから見えない。

−善行。僕の善行。
客が咳払いでお題消化を促す。取り敢えず何か話さなくては不採用になってしまう。僕は見切りで話し始めた。

「えぇ、あれは通勤途中の朝でした。歩道橋の階段で先を見上げますと杖をついたお婆さんが上っていまして、辛そうだなと気になりました。すると僕を勢いよく追い越した学生達がそのお婆さんの杖を蹴飛ばしたんです。」

会場はしんとしている。客の白々とした顔が見える様だ。しかしここで止める訳にはいかない。

「お婆さんは階段で転んで足を挫いたのです。ところが学生達はそれに構わず逃げました。酷いと思いませんか?」

鼓動が高鳴る。心臓が裂けそうだ!

「それで僕はお婆さんを背負って病院に連れて行ったんですけど、会社には遅刻するし大事な会議にも遅れて上司から大目玉です」

残酷なくらい静まり返っている。

「こんな事もありました。中学の頃、隣に座っていた子が虐めにあっていました。僕は可哀想になって彼を庇ったら卒業まで僕も虐められる羽目になりました。でも彼とは今でも大の親友です」

反応が全くない。誰か、誰かが欠伸をしている!

「ぼ、僕は。あ、小学生の時です。道で100円を拾いました。それを交番に届けたんです。だけどポケットに手を入れたらあった筈の100円がない。僕は落とした自分の100円を届けてしまったんです。ははは」

−こんなんじゃ

「小さい頃」

−駄目なんだ。

「毎日母さんの」

−もっと!話をしないと。

「肩をたたいていました」

−嘘でも。

「親友の。はいさっき話した親友です。彼が初めて好きになった子はとても綺麗な子でした。
実は僕もその子を好きになっていたのです。でも彼は中学以来の大事な友達。僕は涙を飲んで彼女を諦めました。僕の人生はそんなもんです。それ以来とんと彼女が出来る兆しすら見えやしない」
−嘘だ。友達が好きなのを知っていて僕は先に彼女に手を出した。友達はその傷が未だ癒えていない。

ふふと笑い声が聞こえる。パンパンと手を打つ者もいた。

「大事なプレゼンが迫っているのに同僚は企画をまとめられなくて悩んでいました。今にも自殺しそうな顔をしていたので僕の企画を彼に譲りました。プレゼンは大成功!僕は万年平社員です」
−僕は企画を盗んで成功した。親しい僕に企画を盗まれて彼は失意の中、会社を辞めていった。この世は要領がいい者が生き残るのさ。

明らかな笑いが起きた。笑いが笑いを促す、もっと嘘をつけと。

「万年平社員で彼女もいない僕ですが、ひとつだけ自慢出来るのは親孝行です。今年、68になる母をよく旅行に連れて行きます。母は彼女気取りで次はどこに連れて行ってくれるのって、もう参っちゃってます」
客席はこれまでの笑いが嘘の様に静まりかえった。


僕の体が宙に浮く。いや落ちているのだ。落下しているのに風を全く感じない。僕は不採用で奈落の底に吸い込まれている事を悟った。見上げると丸いスポットライトの光が遠のいていく。微かに笑い声が聞こえた。あれは嘲りの笑いだったのだ。


「いよいよ出番よ。お題はあなたの悪行。せいぜい頑張りなさい」
髪を腰まで伸ばし、異様に痩せた薄気味悪い女は俺をステージに導いた。









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