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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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バナナでスリップ

16/10/02 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:3件 そらの珊瑚 閲覧数:1051

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 僕はこの公園で暮らしているホームレス。最近新入りになったホームレスが隣にいる。そいつは見た感じ、僕と同じ五十才くらいだが、ちょっと頭がイカレているらしく自分は百年先の未来からやってきたタイムトラベラーだというんだ。
「厳密にいうと違うよ」
 彼はいつもバナナを食べている。角の八百屋で売り物にならなくなった廃棄するしかない黒いバナナをもらってくるらしい。
「はっ? 僕に言ってる?」
「ああ。君はまだアナログタイプだから驚くだろうが、俺は心が読めちゃうニュータイプなんだ、失敬」
 また変な事言ってる。
「厳密にいうとですな、タイムトラベラーではないんだ。つまり、まだ時間を自由自在に旅行する技術はないって事。最終的には世界初のタイムトラベラーになるのが夢なんだけどね。だから今ここに俺がいるのは、ただスリップしただけ。つまり時間の割れ目に偶然滑り落ちた、というような事さ」
 彼は何本目かのバナナの皮をむき、君もどうだい? と僕に差し出した。
「いただきます」
 匂いを嗅ぐ。ぎりぎりいけそうか。もちろん黒いバナナはぐちゃっとしてて好きじゃないけど、そうも言えない身分だ。
「皮は返せよ」
「皮、どうするの」
「これは元の時代に戻るための大切なツールなんだ。バナナの皮で滑った拍子にタイムスリップ出来たから、帰りもバナナの皮に頼るしかない」
 バナナの皮で滑るって……今どきコントでも見たことないぞ。アナログ過ぎるぞ。彼がボクの顔を見てにやりと笑った。今、ボクの心を読んだな。
 それから小一時間、バナナの皮で滑る彼の格闘をぼんやり見ていた。どうぜ暇は売るほどある。滑ってはまた転ぶ。痛みに歪む顔。滴る汗。彼の真剣さが伝わってきて、頑張れと応援している自分がいた。『もう誰も信じまい』そう決意したはずだった。人に騙されハンコを押したばっかりに、経営していた会社を盗られ無一文になりホームレスになったあの日に。それなのに、彼の荒唐無稽な話を信じるつもりなのか。
「今日はもう休んだら?」
 地面に大の字になって、のびた彼に声をかける。
「ふぅ。やっぱり黒いバナナじゃだめだな。明日は生体エネルギーに満ちた新鮮なバナナで試してみるか」
「バナナを買う金は?」
「しまった。金がない」
「かっぱらう?」
「いやだめだ。科学者たる者、犯罪をするわけにはいかぬ。……そうだ!」
 彼は痣だらけになった左腕を曲げ、肘辺りを右指で長押しした。すると腕が蒼白く光りだし、アルファベットが浮き上がった。
「この腕はいわばキーボード。脳に埋め込んだAIにつながっている。よし。わかったぞ。明日のダービーの結果が。優勝候補の馬が転び、巻き添えを食った後続馬も転倒、最下位だった馬が優勝する。万馬券だ。つまり千円賭ければ配当金は一千万円!」
 ボクは反射的に自分のポケットを抑えた。こいつ、透視も出来るのか? 必死で空き缶集めしてやっと集めた千円だぞ。
「いや、透視は出来ないよ。ただ、しつこいようだけど心は読めるんだ。お願いだ。ポケットの中の千円貸してくれ。必ず一千万円になる。それでバナナを買ったら、残金はそっくり君にやる」
 ニュータイプがオールドタイプに土下座している。一千万円あればもう一度人生をやり直せるかもしれない。信じてみるか。もし彼の話が嘘だったら楽しい夢を見た事にでもしよう。
「ひとつ疑問なんだけど、タイムトラベラーが過去に戻って金儲けするのはイケないことじゃないの?」
「何度も言うけどタイムスリップだよ。そりゃあタイムトラベルが誰にも可能な時代なら、そういった法整備も必要だろう。だけど今はまだその時代じゃないし、バナナを買うくらい許されるんじゃない?」
 ずいぶん、ゆるいんだな。
「そうさ、どんなに文明が発達しても人間はどこかにゆるみが必要なんだ。ロボットじゃないんだからさ」
 ちっまた心を読んだな。そんならこっちもしゃべんないぞ。明日買う馬の名前は?
「ドリームカムトゥルー」

 そして今日見事に彼の予言は当たった。彼の話が嘘でない事が証明された。朝方降った雨で公園のアスファルトはまだ少し濡れていて、絶好のスリップ日和だったというわけさ。買ったばかりのまだ青さの残るバナナの皮で滑った彼は、忽然と消えたんだ。

 余談だけれど、公園で見つけた二匹の蝸牛を、彼はポケットに入れて行った。百年後の未来では蝸牛は絶滅したという。蝸牛から抽出した組織から不老不死の薬が出来たとかで乱獲されたのが原因らしい。あの蝸牛が、彼がタイムスリップした事を証明してくれるに違いない。雌雄胴体の蝸牛達は未来で再び未来を始めるだろう。
 僕の手元に残されたのは、目も覚めるような黄色いバナナと9,999,900円。それを元手にどんな新しい未来を僕は創れるだろうか。とりあえずバナナを食べて考えよう。
 


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このストーリーに関するコメント

16/10/02 そらの珊瑚

間違いがありましたので、訂正します。
下から三行目 雌雄胴体→雌雄同体
申し訳ありませんでした。

16/10/25 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

壮大なお話のタイムトラベルの鍵がなんとバナナとは面白い。
実験したことないけど・・・そんなにバナナの皮って滑るんでしょうかね?

バナナの皮でナメクジがいっぱい獲れるらしいよ。

17/01/04 そらの珊瑚

泡沫恋歌さん、ありがとうございます。

バナナ、実際にはどうなんでしょうか、見たことはありません。
漫画ではよくあったりしますが。

バナナでナメクジですか。…やめときます(笑)

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