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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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第二の人生 

12/10/10 コンテスト(テーマ):第十六回 時空モノガタリ文学賞【 テレビ 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:1619

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「母さん! こんな時間にどこ行く気だよ!」
「うるさいわね! 母さんの自由でしょう!」
両手を広げ制止させようとする俺の手を、母は振り切って玄関から外に出て行った。
ドアの閉まる音が悲しく響き、閉まる寸前に夜気の空気が入りこんできて、怒りに震える俺の体を一瞬包んだ。

右手の拳を強く握り、このやり切れない怒りを壁にぶつけた。
「ドン!」
手に痛みが伝わってきたが、今は痛みなどどうでもよく、この怒りを何とかして静めたかった。
だから、何度も何度も壁に向かって拳をぶつけた。
背後から誰かが俺の肩を2度叩いた。
ゆっくり振り返ると、メガネの奥で悲しそうな目をした父だった。
「父さん! 何で母さんを止めないんだよ!」
「……」
「父さん! 家族がバラバラになっちゃうよ……」
1週間前、3歳年上の姉は母に愛想がつき家を出て行った。
姉は、母とは絶縁すると言い放ち、泣きながら大きなバッグを手に持って出て行ったのだ。
「父さん! 何とか答えろよ!」
「母さんの自由だ」
「何でだよ、今までの家族の思い出は何だったんだよ!」
「お前も母さんが許せないのなら、家を出て行きなさい」
「……。分かった。俺も姉さんと同じく家を出て行くよ」

財布を掴んで、後ろを振り返ることなく家を飛び出した。
10月に入ってから、夜の寒さが一段と増した。
とりあえず駅を目指して俺は歩いた。
何処か遠い所に行きたくて、駅に着くと箱根を目指して電車に乗った。
車内はまばらに乗客がいた。
正面の窓ガラスには、怒りとやり切れなさの滲んだ俺の顔が、暗闇をバックに窓ガラスに写っていた。
そんな自分の顔を見たくなく、目を瞑った。
ウトウトし始めると、幼い頃に意識がタイムスリップしていった。
遊園地のコーヒーカップに家族4人で乗っていて、若き日の父と母が笑顔で笑っている。
幼い容姿の姉も、楽しそうに笑っている。

どのくらい時間が過ぎたのか、目を覚ますと乗車しているのは俺だけだった。
携帯電話で時刻を確認すると、夜の10時46分。
何となく次の駅で降りようと思った。
車内アナウンスが、次の駅に間もなく到着する事を伝えた。
駅に到着して、ドアが開いた。
駅のホームに降り立つと、一瞬強い風が吹いてきた。
紺色の薄いパーカーを着てきたのを後悔した。
改札口を抜けるとそこは小さなうす暗い商店街になっていて、あてもなくその前を歩いていると、小さな電気屋を見つけた。
電気屋の明るさに釣られるように、店の中に入って行った。
「いらっしゃい」
メガネを掛けた白髪頭の店員が、椅子に腰掛けながらぶっきら棒に言った。
展示されているデジタルテレビの画面が、すべて『ルーズベルト』の番組に変わった。
毎週金曜日の夜11時になると、生放送のお笑い番組『ルーズベルト』が放送されるのだ。
『ルーズベルト』は、人気お笑いコンビが司会を務め、毎回出演者がコントなどを披露する番組。
俺はテレビの画面を見たくないはずなのに、注視していた。
テレビ画面は、司会のコンビの映像から雛壇に座る出演者の映像に切り替わった。
その中に、度派手なピンクの衣装を着た母が座っていた。
司会の1人が母を指差して、「今日も、酷いババアーぶりだね、よし美ちゃん」と言った。
よし美ちゃんと呼ばれた母は、右手の人差し指を右の頬に押し付けて、
「ありがと〜。お願い私を抱いて〜」と言った。
笑いあう司会者と出演者。

1年程前の事だ、友人に誘われて母はタレントスクールに通い始めた。
控えめだった母は、タレントスクールに通い始めてから、新しい自分に出会い始めていった。
3ヶ月前に、納豆のコマーシャルに抜擢されてから、テレビ番組に出演の依頼が来るようになった。
母はテレビ番組に出演する度に、自分の太った体型などを自嘲気味に話しては、笑いをとった。
そして、1ヶ月前から『ルーズベルト』の出演者に抜擢されたのだ。
父も姉もそれに俺も、何度も母にテレビに出るのは止めてくれと直訴したが、母は止める様子を見せなかった。
母がテレビに出演するようになってから、近所から可笑しな目で俺たち家族が見られるようになった。
だから姉は1週間前に、家を飛び出したのだ。
「お客さん、そろそろ店仕舞いの時間なんですがね」
後ろを振り返ると、白髪頭の店員が頭を掻きながら言ってきた。
俺は、テレビ画面の母を指差して
「俺の母さんなんです」と言った。
「へー、また度派手なお母さんだね」
「よし美ちゃんって言う芸名なんです」
「今度、サイン頂こうかな」
もう一度テレビ画面に顔を戻すと、第二の人生を芸に賭け、必死に出演者や視聴者を笑わそうとする母の姿がそこにあった。

         終わり (作り話です)


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