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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

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爆笑のち、涙

16/09/26 コンテスト(テーマ):第119回 時空モノガタリ文学賞 【 お笑い 】 コメント:0件 海見みみみ 閲覧数:1112

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 高校の文化祭でやった俺達の漫才は、まさに最高の出来だった。
「こう言ってやったんですよ。『それ、一杯ください』って」
「結局食べるんかい!」
 俺が相方の六彦にツッコミを入れる。

 ドッカン!

 そんな表現なぴったりなぐらい、俺達の漫才は観客にウケていた。

 舞台裏で俺は六彦とハイタッチをした。
「最高の舞台だったな」
「ああ、夢のようだった」
 普段は無口で無愛想な六彦が、夢見心地といった表情でそう告げる。
 これだけ漫才がウケるなら、もしかして、
「俺達プロの芸人としてやっていけるんじゃないか?」
 俺が思っていた事をそのまま六彦が口にする。
「もちろん、決まっているじゃないか!」
 六彦と手を握る。この瞬間、俺達の進路は進学から、お笑い芸人へと変わった。



 それから十年後。俺達の漫才は、まさに最低の出来だった。
「こう言ってやったんですよ。『それ、一杯ください』って」
「結局食べるんかい!」
 俺が六彦にツッコミを入れる。
 しかし会場は静かなまま。笑い声一つ起きない。
 俺は身体中に嫌な汗をかきながら、漫才を続けた。

 あれから俺達はプロの芸人として活動していた。
 しかし人気があるかと言えば、むしろ逆だ。俺達のギャグは毎回滑って会場を微妙な空気にしていた。
 売れている先輩達のネタを研究し、それを活かそうと日々勉強しているが、結果はご覧の通りだ。
 両親からも会う度に「もう芸人はやめろ」と言われる。
 この十年間、俺達は地獄を見続けていた。

 お笑いライブを終え、落ち込みながら家に帰る。そこには俺の恋人、マリの姿があった。
「来てたのか」
「健介、ちょっと話があるんだけど」
 マリが真面目な表情で俺にそう声をかける。俺は嫌な予感がしつつも、マリに向き合った。
「なんだよ、急に」
「私達、付き合い始めて十年になるよね。そろそろけじめをつけるべきだと思うの」
「別れるのか?」
 マリは首を横に振ると、ポケットから箱を一つ取り出した。
「健介、結婚しよう」
 箱の中身、それは指輪だった。逆プロポーズ。まさかの展開に俺は混乱する。
「俺なんかでいいのか? 本当に」
「もちろん、条件がある。……もう芸人はやめて、就職して」
 その一言に、俺の気持ちは萎えた。
 両親はもちろん、彼女からも芸人としての俺は認められないんだな。俺の中で心の折れる音がする。
「わかった、もう芸人はやめるよ」
 俺がそう答えると、マリは安心したように微笑んだ。

 それから一週間後。
 その日は俺達が出演するお笑いライブがあった。俺にとって最後の舞台だ。
 俺が芸人をやめると言っても、六彦は何も言ってこなかった。それがありがたくもあり、悲しくもある。
 そうこうしている内に、俺達の出番だ。俺達は無言で舞台へと向かった。

 舞台に立ち、俺達のネタが始まる。俺はこんな事を考えていた。これが最後なら、いっそ好き放題してやる。どうせウケないんだ。それなら立つ鳥跡を濁しまくってやる、と。
 俺は自分の好きなようにネタを進めていった。
「こう言ってやったんですよ。『それ、一杯ください』って」
「結局食べるんかい!」
 俺が六彦にツッコミを入れる。
 いつもならウケない定番のネタ。さあ、失笑でもなんでもしてくれ。そう俺は本気で思った。

 ドッカン!

 ところが予想外の事が起きた。俺達のネタがウケたのだ。いつも滑っているネタが、爆笑の渦を巻き起こす。
 俺は動揺しつつも、ネタを続けた。

 ドッカン!
 ドッカンドッカン!

 ネタが進むに連れて、どんどん観客席が熱を帯びていく。なんでこんなにネタがウケているんだ。こんなの十年前の文化祭以来だ。
 その時、俺はある事実に気づいた。
 十年前の文化祭で、俺は緊張を捨て去るために自由気ままにネタを披露した。
 しかし芸人としてデビューしてから舞台で考えていたのは、どうすれば売れるかや、技術面の事ばかり。
 観客は俺達の自由気ままなネタを求めていたのだ。
「ありがとうございましたー!」
 ネタを終えると、観客席から盛大な拍手が鳴り響く。それはまるで十年前の文化祭みたいだった。

 舞台裏で俺は六彦とハイタッチをした。
「最高の舞台だったな」
「ああ、夢のようだった」
 十年前と同じように二人つぶやく。
「健介、これからどうするつもりだ?」
 六彦そう問いかける。それに俺はため息をついた。
「そうだな。まずマリに土下座しないと」
「それじゃあ!」
「こうなったら、お前にもちゃんと責任取ってもらうからな」
「もちろん。俺はお前の相方だからな」
 相方。その言葉に心揺さぶられる。
 そうだ、俺が芸人である事を認めてくれる人は、すぐ隣にいたじゃないか。
 それがあまりに嬉しくて、俺は涙を流した。


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