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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

性別 男性
将来の夢 プロ小説家になること!
座右の銘 焼肉定食!

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最高の漫才

16/09/26 コンテスト(テーマ):第119回 時空モノガタリ文学賞 【 お笑い 】 コメント:0件 海見みみみ 閲覧数:1143

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「どうもー! 秀一&秀一です! それってただのピン芸人やん!」
 俺が病室で漫才を始めると、妹の悠子は目を輝かせながら拍手をした。
「この前、友達とケンカの話になったんですよ」
 悠子が食い入るように集中して漫才を見る。少しでも多く笑わせたくて、俺は自慢のネタを披露した。
「そしたら友達『あの幼稚園児とはいい勝負できるかも』って。そこは普通に勝てよ!」
 狙ったタイミング。そこで見事悠子が大笑いする。今日のネタはどうやら大当たりのようだ。
「もうええわ。どうもありがとうございましたー!」
 漫才を終えると悠子が再び拍手をしてくれる。それが俺には誇らしかった。

 悠子の見舞いを終え、家に帰る。家では祖父母が俺を待たず既に夕食を済ませていた。
「晩ご飯、冷蔵庫に入ってるから」
 言われた通り、冷蔵庫にあった晩ご飯をレンジで温め一人で食べる。俺は一人で食べる夕食にもすっかり慣れてしまっていた。

 両親が事故で亡くなり五年が経つ。俺と悠子は祖父母に預けられる事になったが、二人と良い関係を築けているとは言い難かった。
 さらに悠子は病弱で、ここ一年はずっと病院に入院している。
 悠子は孤独で退屈な日々を過ごしていた。そんな悠子の心を少しでも癒したくて始めたのが、漫才だ。

 翌日。高校で授業中、俺はずっとノートに書き物をしていた。と言っても授業の内容をまとめた物ではない。漫才のネタを書いているのだ。
 悠子の好きなネタを書き溜め、それを一つのストーリーにしていく。たとえ素人の漫才とは言え、手抜きはできない。
 俺は悠子を心の底から笑わせるべく、最高のネタ作りをしていた。

 放課後、俺が向かった先はいつもの病院だ。一人用の病室で、悠子は小学校の宿題をしていた。
「あっ、お兄ちゃん!」
 俺が来た事に気づき、悠子が満面の笑みを浮かべる。
「勉強か、偉いな」
「えへへ」
 悠子が誇らしげな表情をする。それから悠子は期待に満ちた目で話しかけてきた。
「お兄ちゃん、漫才の新しいネタできた?」
「もうすぐ完成するところだ。今度の漫才は最高だぞ!」
「やったー! けほっ」
 はしゃいでいると、突然悠子がせき込みだした。俺はとっさに悠子の背中をさする。
「大丈夫か?」
「平気。いつもの事だもん」
 そう口にする悠子の表情は寂しげだ。俺は悠子のこんな表情を見ていたくなかった。
「新しい漫才ができたら、必ず見せてやるからな」
「うん、楽しみにしてる!」
 悠子と指切りで約束をする。
 俺は約束を守るべく、明日には新しい漫才のネタを完成させようと張り切っていた。

 だが、この約束は結局果たされなかった。
 この日の晩、悠子は急な発作を起こし、亡くなったのだ。

 悠子が亡くなってから、時間はウソのように早く流れていく。俺は喪主を務める事になり、親戚へのあいさつ回りに追われた。
 葬式は進み、いよいよ火葬場に向かう事になる。最後に俺はスピーチをお願いされていた。マイクを渡され、俺は淡々と喋り始める。
「この度は故人のために皆さんお集まりいただき誠にありがとうございました」
 淡々と続けるだけのつもりだったスピーチ。本当ならこのまま粛々と続けなくてはいけない。だが悠子の事を考えると、俺はまったく別の事を話し始めていた。
「……故人は私の漫才がとても好きでした。だから、最後に故人に向けた最高のネタを披露したいと思います。聞いてください」
 気づいたら口にしていた言葉。そのまま俺は流れに身を任せ漫才を始める。
「どうもー! 秀一&秀一です! それってただのピン芸人やん!」」
 弔問客は皆ア然とした表情を浮かべた。当然「不謹慎だ! やめさせろ!」と声をあげる人もいる。
「お願いします、やらせてあげてください」
 そう言って頭を下げたのは、意外にも祖父母だった。その光景に胸がいっぱいになりながらも、俺は漫才を続ける。
「知り合いにダジャレ好きの奴がいるんですよ」
 俺の漫才に弔問客が意識を集中し始める。次のネタは自信作だ。ここでドッと笑わせてみせる。
「そいつに『総理が謝る時なんて言う?』って聞いたら『ごめん』って。そこは『アイムソーリー』だろ! 本当にダジャレ好きなのか!」
 俺のネタに弔問客は笑い出した。いい空気だ。
 俺はその後も何度もボケてはツッコミ、弔問客を笑わせた。あとは最後にオチをつけてまとめあげる。
「もうええわ。どうもありがとうございましたー!」
 俺の漫才が終わると大きな拍手が起きる。その拍手を聞くと悠子の事を思い出し、俺は涙を止める事ができなくなっていた。
「悠子、約束通り最高の漫才だっただろう? また新しいネタ、考えておくからな!」
 俺の言葉に対し「お兄ちゃん、大好き!」と悠子が言った気がする。堪えきれず、俺は大声を上げて泣いた。


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