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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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スヌーピー

12/10/09 コンテスト(テーマ):【 犬 】 コメント:6件 そらの珊瑚 閲覧数:1711

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 五時半の鐘が鳴ると、友達はみな帰ってしまう。夏はまだいい。7時を過ぎても空が明るいから。秋からの季節は嫌いだ。すぐに暗くなるから。でも一人ぼっちで父さんの帰りを家で待つのはもっと嫌いだった。
 公園はまだましなんだ。君がいるから。君は石で出来た犬だった。垂れた黒い耳。白い身体に黒い模様が付いていた。その犬は寝そべっていて小学生なら3人くらいは座ることが出来た。僕は密かにその犬にスヌーピーって名前を付けていた。スヌーピーは僕が一人になるのを待っていたように、夕方になるとしゃべり始めるんだ。

「今夜は何を食べるんだい? また浅井肉屋のコロッケか? よく飽きないね」とか
「明日こそ忘れ物すんなよ」とか結構口うるさい。
「ちゃんと歯磨きしてねるんだぞ」とか
「いい子にしてたらサンタさん、来るからな」とか優しい言葉も掛けてくれる。
 もしかしたら母さんってこんな風に子どもの心配をするもんなんじゃなかな、と思う。
 
 僕を産んですぐ死んでしまった母さん。

 母さんの思い出はひとつもないのに、なんで懐かしい気がするんだろう。スヌーピーは僕の友達でもあり時に母さんにもなってくれた。ボクは男の子だぞ、っていやがられたけどね。
「なあ、スヌーピーはいのーなったりせんちゃね。ずっち、ここにいるちゃね」
「あたりきさ。ボクはずっとここにいるよ。君が忘れても、ボクは忘れないさ」

 あたりき、ってあたりまえっていう意味なんだけど、そんな風に言う方が小学生の間ではかっこいいとされていた。スヌーピーも流行り言葉に敏感なんだ。
「さみしかこつ言うなちゃ。ずっち友達しゃ」
 そんな会話をしているうちに父さんが帰ってくる。外灯の下に長い影法師を連れて。

 いつからだろう。大好きだった父さんのことがうっとおしくなり、大学へ行く、行かないでもめて、とうとう僕は家を出た。二十歳の時だった。あれから二十年。今は結婚して子どもができ僕も父となった。
 博多と東京ではなかなか帰省することが出来なかった。翼が生まれてから二度目だろうか。こうして故郷に帰ってきたのは。あっという間の五日間だった。すっかり翼は父に懐いて父の膝の上で食後の葡萄をつまんでいる。
「翼、明日じいじとランドセル買いに行こか。隣街んデパートに。あさってはもう帰ってしまうんやろう」
「わーい。わーい。ランドセル」来年は翼が小学校に入学する。ちゃんと父は覚えてくれていたんだ。
「お義父さん、すみません」
 妻が頭を下げると
「なんも。嬉しかばい」
 そう言って父は目尻を下げた。

 翌日僕らは駅までの道のりを歩いた。このあたりもすっかり変わって、見慣れないマンションが建っている。そんな時だった。小さな公園にさしかかる。
 
 僕は突然思い出したんだ。スヌーピーのことを。自然に駆け出していた。
 スヌーピーは片方の耳がひび割れていてかなり汚れていた。
「な、なつかしいとね」
「待ちくたびれたよ。それにしても、おまえ、おっさんになったなあ」
「君ばってん、ずいぶん薄汚れちまって」
「ふん、ほっとけよ」
「ごめん。君んこと忘れとった、ずっと」
「いいってことよ」
「友達、やんにゃあ、まだ」
「あたりき、さ」
 もうそんな言葉は流行っていなけど、僕は内緒にしておいた。

「ねえ、お父さん、どうしたの? そんな犬の置物に座って」
「ああ、父さん、大事な用を思い出したから、ごめん、三人でデパート行ってくれないか」
「変な父さん」
 僕は翼に気づかれないように、そっと目尻を指でぬぐった。

 それから僕は家から洗剤とたわしを持ってきて、ごしごしとスヌーピーをこすった。
「おいおい、もっと優しくこすってくれよ。こう見えて案外デリケートなんだから」
 スヌーピーがそう言うのも構わず僕は力一杯こすり続けた。

 あの頃僕のさみしさを知っているのはスヌーピーだけだと思っていたが、父もまた知っていたに違いない。


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このストーリーに関するコメント

12/10/10 草愛やし美

心温まるとてもよいお話でした。

そらの珊瑚さんの作品を拝読していつも思うのですが、何かしら心がほっとする部分があります。そこが、私の琴線に触れるようです。作品の芯になっていると感じるその部分は、きっと珊瑚さんの優しさから来ているのではないかとかってに思っています。

今回の作品もほんと、素晴らしかったです。ありがとうございました。

12/10/10 泡沫恋歌

珊瑚さん、拝読しました。

子どもは石でできた犬だって擬人化して、話ができるという能力を
持っていますが、大人になったらみんな失くしてしまいます。
寂しいけど、日々の生活に追われて夢を見れなくなってしまうから。
「スヌーピー」いい話ですね。
ちょっぴりシンミリして、温かい気持ちになりました。

12/10/19 そらの珊瑚

草藍さん、ありがとうございます。

心がほっとする、嬉しいお言葉でした。
大人になって子供時代を回想するとき、過去のさみしさがいつしか育って、あたたかいものになっていたらいいなと思います。

12/10/19 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

石で出来た公園の乗り物は実際に私が遊んだ公園にあったものです。
(犬ではなくうさぎとかめでしたが)大人になって自分の子供を連れて訪れた時、所々ひび割れていて淋しく思った体験を素にして描きました。
スヌーピーは好きなキャラクターです♪

12/10/20 ドーナツ

スヌーピー、懐かしいしかわいい。

子どもの心を持ち続けることがどれだけ人生を豊かにするかと、珊瑚さんの作品を読むと思います。

子供の心でみたら、全てのもにに命があるんですよね。

スヌーピーを力いっぱいこすったのには、笑みがこぼれます。

方言のセリフも、このお話のあったかさ 盛り上げてます。

12/10/22 そらの珊瑚

ドーナツさん、ありがとうございます。

悲しいかな、子供の心は大人になるとおうおうにして忘れてしまうものですね。
何かのきっかけで、ふと思い出したりして。
そんな時は温かい気持ちになります。

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