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かわ珠さん

自分の好きな作家さんの言葉のチョイス、並べ方、区切り方、リズム、テンポに少しでも近付けるような文章が書けるようになりたいです。

性別 男性
将来の夢 世界平和
座右の銘 愛は時空を超える

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タイムスリッ……

16/09/23 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:0件 かわ珠 閲覧数:1007

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 時間を超えて旅をするという人類共通の夢は、数百年前からずっと研究を重ねられてきていたのだが、それがついに完成を迎えることとなった。タイムマシーンが完成したのだ。とはいえ、開発したのは私ではない。しかし、無関係という訳でもない。タイムマシーンを生み出したのは天才にして変人にして天然だと名高いドクター・ヒイラギ。私はその助手を務めている。
 博士からのメールが届いたのは今朝のことだった。文面は至ってシンプル。
『ついに完成した! このメールを見たらすぐに研究室に来てくれ!』
 だった。
 私はその衝撃に、思わず朝から口に含んだコーヒーを噴き出してしまったが、すぐに準備をして研究室に駆け込んだ。
「ついにやったんですね、博士!」
 興奮を抑えきれぬままに、私は博士に訊ねる。
「ああ、私は遂に人類の歴史を塗り替えたんだ」
 恍惚の表情を浮かべながら、博士は天を仰いでいる。長年側にいた私でさえ見たことのない表情を見せる博士のその様子に、私の興奮もますます加速する。
 ああ、これはきっと間違いなく本物のタイムマシーンが完成したのだと、確信する。
 実は私が博士の研究結果を目にするのはこれが初めてだった。
 博士は情報、技術の漏洩を病的なまでに恐れ、私にさえ、製作中であったそのタイムマシンの実機を見せてくれてはいなかったのだ。私が助手として博士の手伝いをしたのは、材料の入手や博士が欲しいといった資料や論文の検索、あとは雑務くらいのものだった。ただ、それでも私は私なりに博士に尽くしてきたし、努力もしてきたという自負がある。だからこそ、この朗報は本当に嬉しかったし、怖いほどに研究に没頭し続けていた博士を労ってあげたいという気持ちも自然と湧き上がってきた。
「博士、私は……私は……」
 ああ、どうしよう。感極まって泣いてしまいそうになる。
「ありがとう。君がいなかったら、このタイムマシーンは完成しなかった」
 博士のその言葉に、私は涙を堪えることができなかった。博士の前で崩れ落ち、無様にもその場で号泣してしまった。
「はっはっは。泣くのはまだ早いぞ。まだ実物を見せていないじゃないか。さ、こっちへきたまえ」
 そう言って、博士は私を小さな箱の前へと誘導した。
「ええ!? この箱の中なんですか? まさか、こんなにも小さいんですか?」
 それは、幅約三十センチ、横約十五センチ、高さ十五センチほどのタイムマシーンと呼ぶにはあまりに小さな箱だった。
「ああ、驚いただろう?」
「ええ、タイムマシーンと言うからには、やはり乗り物なのだとばかり……」
「ふふふ。そういった偏見こそがアイデアへの一番の障害となるのだよ。よく覚えていたまえ」
「わ、わかりました」
 やはりこの人は天才なのだと、まざまざと思い知らされる。
「それではお披露目といこうか」
 そう言って、博士はゆっくりとその箱を持ち上げた。私の興奮は今、人生のピークを迎えている。
 ああ、私は今までになく幸せだ。

  *  *  *

「な……っ!」
 私はそのタイムマシンを見て絶句してしまった。
「ふっ。このあまりに画期的なフォルムを前に言葉を失うのも無理はない。それに、不安にもなるだろう。なにせ、乗り物形式ではなく、ウェアラブル方式、シューズ型のタイムマシーンだからな。だが、安心してほしい。性能面での不備は一切ない」
 いや、シューズ型というかその形は……
「あの……」
「使用法も至ってシンプルだ。時間設定をしてから、つま先で軽く地面を蹴るだけ」
「いや……」
「エネルギーも問題はない。時間移動に必要なエネルギーは1,21ジゴワットだが……」
「あの!!」
「ん? どうしたのかね?」
 博士の発明は確かに世紀の大発明だろう。それに異論はない。しかし、ここはどうしてもツッコんでおかなければいけない。そうしなければ、先には進めない。私は意を決して博士に訊ねる。
「あの、ちなみにこのタイムマシンの名称は決まってるんですか?」
 すると、博士は胸を張って、威風堂々と、まるで獅子のような荘厳さをもって答えた。
「もちろん。その名も『タイムスリッパ』さ!」
「……」
「……」
 時が止まったかのような沈黙。
 ああ、わかっていた。それは見た瞬間からそうなのだろうとは思っていた。だがしかし、まさか本気だったとは。願わくばそれがジョークである事を祈ったのだが、そうはいかなかった。
 そうだった。彼は天才にして変人にして天然なのだった。タイムマシーンを実際に作り出す天才にして、それをスリッパ型にする変人にして、それを変だとは思わないド天然。
 ああ、頭が痛い。ただ、それでもやはり私は言わなければいけないだろう。
 大きく息を吸って吐き出して、博士の顔を見据える。

「いや、ただそれが言いたかっただけだろ!?」


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