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しーたさん

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エリの回想についての他愛もない考察

16/09/21 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:0件 しーた 閲覧数:578

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 真っ暗な自室のベッドの上で、エリは静かに意識を取り戻した。実家から持ってきたお気に入りの掛け時計の針の音だけが部屋に響く。目を閉じ、身体をベッドに横たえたまま混濁した頭の中を整理して、
ーーああ、そうか。
 自分は知らぬ間に寝てしまったのだ、という解答にエリが辿り着くまでにそう時間はかからなかった。部屋に帰ってきたところまでは覚えているが、そこから先のことが思い出せない。仕事が忙しくて最近あまり寝ていなかったからだろう、と結論付けて、なんとなく動きたくなくて全身の力を抜いたまま、肺に溜まった空気を大きく息を吐き出した。
 そうして闇に身を任せていると、ふとある懐かしい記憶が頭に浮かんできた。
 ゆらゆらと流れる夢に身を任せるように、エリは幼い頃の記憶を遡った。



 当時エリは小学生になってすぐくらいの年齢で、よく遊ぶ活発な子どもだった。
 学校から帰ったらランドセルを置いてすぐに家を飛び出し、公園や友人の家に向かうことはエリにとってもはや日課のようなものだった。
 そんなある日、エリは高熱を出して倒れた。原因はおそらく、前の日に大雨の中で鬼ごっこをしたこと。後から、鬼ごっこに参加していたメンバーが皆風邪で寝込んでいたという話を聞いた。
 リビングの隣の部屋に敷かれた布団の中で熱にうなされ、寝て、起きて、寝て、起きて、
 気がつくと、家の中には誰もいなかった。真っ暗な家の中に、エリは一人だった。
ーーおかあさん?
 エリの声はどこかに溶けて、母の声は聞こえない。家から人の気配は感じられず、そこにはただ暗闇だけが広がっている。
 途端に心細くなって、不安に全身を飲み込まれて、エリは大きな声でもう一度、
ーーおかあさん!
 やはり母の声は返ってこない。
 世界の中に、自分だけがぽつりと取り残されてしまったような感覚。自分は何十年も何百年もこの家で眠っていて、母を含めた全てが滅んで消えてしまったのだと当時は心の底から思った。
 そこからのことはあまり覚えていない。
 靴を履くのも忘れて無我夢中で家を飛び出して、額に熱を冷ますシートをくっつけたまま家の前でおかあさん、おかあさんと泣いていたところを近所のおばあちゃんが見つけてくれた。
 これも後から聞いた話だが、母はスーパーに夕飯の買い物に行っていただけで、その後すぐに帰ってきたらしい。



 当時は幼かった、とエリは思う。
 それは、良い意味で。
 世界はきらきらと輝いていて、背の高い不思議で溢れていて、でもそんなことには何一つ気付かなくて、目を向けようともしなくて。
 あの頃の自分なら、手を広げればきっと空だって飛べた。
 だから思う。
 あの時、時間にしてどのくらいかはわからないけれど、自分はタイムスリップでもしていたのかもしれない。
 時間が経ちすぎて誰もいなくなってしまった真っ暗な世界の端に、片足をついていたのかもしれない。
 大人になってしまった今ならそんなことはないと笑い飛ばせるし、そんな話を友人にしようものなら目を覚ませと言われるのがオチだろうけれど。
 同時に、隣で看病してくれていた母の顔が頭に浮かんだ。
 優しい母のことを思い出して、なんとなく目頭が熱くなるのを感じた。
 そういえば最近、実家にもあまり帰っていない。
 久しぶりに顔を見せるのもいいかもしれない、と思ってエリは閉じていた瞼を開いた。
 目尻から落ちた一滴の涙を指で拭って、ポケットから携帯を取り出す。画面の眩しさに目を細めつつ、真っ暗な部屋の中で仰向けに寝転んだまま携帯を操作して、



「もしもし」

 


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