かわ珠さん

自分の好きな作家さんの言葉のチョイス、並べ方、区切り方、リズム、テンポに少しでも近付けるような文章が書けるようになりたいです。

性別 男性
将来の夢 世界平和
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初恋

16/09/19 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:0件 かわ珠 閲覧数:1088

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 彼の唇が私の唇に触れた瞬間、魔法は解けた。
 それは別に比喩なんかじゃなく、本当に私の魔法は失われたのだ。そして、私は長く、長く、長かったこの人生を終える。

 ――あぁ、こんな結末も悪くない。


    ※    ※    ※


 かつて、空想の産物とされた魔女は実在するということを、私は自らの魔法をもって認識させられた。
 自らが魔女だと知った絶望、胸の高鳴り、恐れ、好奇心。
 当然、魔女には魔女なりの困難がある。私が魔女であることを知った、魔女狩りの連中と戦うことになったり、魔法を科学として研究しようとする科学者に追われたり、未来から来たというイカれたサイコな魔女に襲われたり。
 その中で、私は初恋の人を失った。
 ああ、だから物語の中の魔女は森の中に身を潜め、他の人々と触れ合わないようにひっそりと過ごしているのか、と私は理解した。
 それからは、人目につかないようにこっそりと生きていくようになった。
 森に棲み、結界を張り、誰の目にも触れないようにして数百年。気が付けば、人類は絶滅していた。
 別に、魔女である私に人類愛など存在しない。人類が続いていようが、途絶えていようが私には関係ない。
 ただ……
 ただ、人類が滅んでしまったということは、私が死ぬということもできなくなってしまったということだ。魔女が死ぬためにはその魔法の力を捨てて、普通の人間になる必要があるのだ。そして、その方法はただ一つ。愛する者とのキスだという。人類が滅んでしまった以上、それは叶わない。そもそも、私が唯一愛した初恋の人はとうの昔に死んでしまっている。
 かつて知り合った魔女は
「魔女が人間に戻るために必要なものがキスっていうのはとてもロマンティックよね。きっと、魔法っていうものは私たちが思っている以上に素敵なものなのよ」
 と言っていた。きっと、そうなのだろう、とは思う。けれども、魔女は、その肉体に魔法の力を宿している以上は死ぬことを許されない。つまりは強制的な不老不死だ。別に望んでもいない不老不死だなんて、罰以外の何物でもない。
 私は一体なぜこんな罰を受けなくてはいけないのだろう。
 そう思い続け、私は人類が滅んでからさらに数千年を生き続けた。
 もう世界には人類の名残など残っていない。私は私の名前さえも忘れてしまった。それなのに、私は死ぬことを許されない。これから先、私を待ち受ける膨大な時間というものを前に足が竦み、私は遂に発狂してしまった。

 気が付くと、私の目の前には一人の男の子が立っていた。
 ひどく懐かしい匂いに、眩暈がする。
 男の子の後ろには女の子が一人立っている。その二人には見覚えがあるような気がする。女の子が何か大きな声で叫んでいるものの、何を言っているのかはわからない。
 ずん、と衝撃を感じて、見てみると、私が右手に持ったナイフが男の子の身体を貫通していた。
 よりヒステリックに叫ぶ女の子。
 状況が上手く呑み込めずに、私は顔を顰める。
 次の瞬間、私が刺した男の子が身体を私に預けてきながら、その唇を私の唇に押し当てた。
 彼とのキスで、私の魔法は失われていく。そして、全てを思い出す。
 記憶が、色と共に蘇ってくる。
 そうだ、ここはかつて私が暮らした街だ。
 目の前の女の子は私自身で、ナイフで貫いた男の子は私の初恋の彼。
 ああ、そうか。昔私が戦った未来から来たイカれたサイコな魔女は私自身だったのか。初恋の人を殺してしまったのも私。
 発狂した私はそれまでに数千年間溜め込んだ魔力で過去にやってきていたのか。
「ごめんなさい」
 それは、私が数千年ぶりに発した人の言葉。同時に、頬を伝う熱い雫。数千年ぶりに心が揺れているのがわかる。感情を自覚したのはいつぶりのことだろう。
 ごめんなさい。
 ごめんなさい、貴方の初恋の人を殺してしまって。
 ごめんなさい、貴方のこれからの人生がこんな結末で。
 ごめんなさい、こんな結末に少し安堵してしまっている私って、本当に最低。
 これから、貴方は困難な人生を歩む事になる。苦しくて、辛くて、心も擦り切れて摩耗して。きっと、この世界を全て恨む事になる。
 けれども、その果てに迎えられる結末が、初恋の人とのキスならば、そんな結末も悪くはない、と私は思うの。
 私はゆっくりと彼の身体を私の身体から離し、寝かせる。ごめんなさい、せめて、安らかに。彼の瞼をそっと閉じる。その私の手がもう消えかかっている。
 もう……いや、やっと、ようやくこの世界から消えることができる。
 さようなら、頑張ってね、これからの私。
 そう、ささやかなエールを過去の自分に送って、私はそっと目を閉じた。


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