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デヴォン黒桃さん

「黒桃将太郎」名義でKindle作家として活動。「デヴォン黒桃」名義で猫面師としてアート活動も。人間ドラマや人の感情に興味があり、書きたい物をジャンル問わず書いております。「黒桃短篇集」発売中昭和浪漫のスコシばかり怪異なお話、アナタの脳髄へソット、注入サせて頂きます。 心の臓のヨワい御方は、お引き返し下さい。 精神に異常をキタしても、責任が取れませぬ故。http://amzn.to/2jPBe4m

性別 男性
将来の夢 りっぱなおとな
座右の銘 悔しいけど感じちゃう

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嘘八百

16/09/17 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:2件 デヴォン黒桃 閲覧数:1609

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「ハイハイ、其処らをお歩きの殿方お嬢様、坊っちゃん嬢ちゃん寄っといで、摩訶不思議也、蛇女、愛らしいお顔ダケレドモ、身体は大蛇で床を這いずる、奇妙な蛇女、一目見て行っては如何でしょう? お代は帰りで結構ヨ、嘘マヤカシだったら鼻で笑って頂戴」

 見世物小屋の呼び込みが、調子良く口上を述べている。
 ソコへ死に場を探して、酒瓶片手にウロチョロしておる男。

「ドウセ死んだ蛇に女を入れて這わせてハイ蛇女で御座い、ってとこだろう」
 悪態をつく酔っぱらい男に、主はこう云うた。

「そう思いなさるなら、お代は結構、チョット寄ってラッシャイ」
 そう促され、ヨタヨタと千鳥足でカーテンをめくる。

「其れでは、世にも哀れな蛇女を見て頂きましょう」
 奥の方から綺麗な女の顔が見えたと思うたら、ズルリと大きな蛇が這い出てきた。
 周りの客の、ウギャアだのヒィだの喚き声がアチラコチラから飛ぶ。
 男も、哀れな女の顔を見てやろうと首を伸ばした。
 女の目は、ナンダカ泣いてるように見えた。
「ハイハイ、お代を頂戴致しますヨ」
 フワリと夢心地の中、主の声が、ドンドン小さくなって遠くに消えた。

「旦那、ココで睡って貰っちゃあ困りますヨ」
 気が付くと、グッスリ眠って居た様子。
 先刻の主が体を揺すっていた。
「起きなすった、サ、お代を頂戴します」
 男は酒瓶を投げて云うた。
「払わん、アンナ作り物に金など払わん」
 主は笑顔を崩さない侭、
「左様で御座いますか、ソレならお引き取り願いましょうか」
 ヨタヨタと、壁に手をつき外へ向かう途中、蛇女のポスターが有った。
「そうだ、蛇女にモウ一度逢わせて呉れたら金をやるぞ」
「イヤ、蛇女はもう引っ込んで仕舞いましたので」
 そう言われると、ドウしてもモウ一度見たい気持ちに成った。
「イヤ、モウ一度見る迄は帰らん」
 男はその場にドッカリと座り込んだ。

「何してんだい」
「ア、蛇女」
 ソコにはアノ蛇女が、両足で立って居た。
「ソラ見ろ、ヤハリ作り物だ、此の嘘八百どもめ」
「アンタ、荒れるのは良いけど、他所でやって呉れないかねぇ」
「ウルセェ、嘘つき蛇女め。お前に何がわかるってんだ」
「何もわかんないけどさ、大の男がミットモナイよ。シッカリ働いて嫁でも貰ったらどうだい。子供でも作ってさ」
 哀れな蛇女にそう云われておる男は、自分が非道く滑稽に思えた。
「夢も希望もありゃせん。子供なんか作れるか」
 そう云いながらも、子供でも居れば人生は変わるのかなとも思う。

「仕方ないね。じゃあ、アレを見せてやるか」
 蛇女が合図すると、大きな樽ヒトツと大きな布を持って、見世物小屋の男たちが来た。
「ナ、ナンダ、何のつもりだ」
 蛇女がシーッと口に一本指を立てる。
「アンタ、コレから見ることは他所では云っちゃあイケナイよ?」
 美しい顔と、何とも言えない不思議な声色に、男はウンウンと返事した。  
「ハイハイ、ご覧に入れるは時間旅行ダヨ。タイムスリップの樽ダヨ。未来を見せてやるヨ」
 主が又、大きな声で口上を述べる。
「アホらしい。作り物の蛇女がソンナ事出来るかい」
 男はグビリと酒を煽った。
「マア騙されたと思って、コノ樽の中に入ってみてご覧」
 見世物小屋の男に抱えられて、樽に入る。 
 頭から布を掛けられた。外ではナニヤラ呪文を唱えている。
 ソシテ、布がパッと外されると、小さなおかっぱの子供が居った。
「ナ、ナンダ、お前……」
 男は其の幼子に声をかける。
「アタイは……アンタの子供だ アンタが死んだら、アタイは産まれ無え」
「俺の娘か?」
「そう、また逢いたかったら、頑張って生きて……父ちゃん」
 可愛らしい子からそう呼ばれると、ナンダカ生きる気が沸いてきた。
「わかった……死ぬのはヤメた」
 おかっぱの子がニッコリ笑うと、また布が掛けられて呪文が唱えられる。
  ソシテ、また布がパッと外される。

「ホラ、アンタ、未来の自分の子供に逢えただろう?」
 男は酒瓶を捨てて、樽から出た。
「アア、決めたよ。未来の子供に、又逢うために、酒を辞めて仕事を探すよ」 
「そうかい、そりゃあ良かったね。アア、お代はイラナイよ。その代わりコノ樽のことは秘密だよ」

 男が帰った後に、奥から先程のおかっぱの子供が出てきた。
「あんなんで良かったのかい? 母ちゃん」
「ウフフ、あの男、ほんとにアンタを未来の自分の娘と思って、酒を辞めて仕事を探すってさ。コンナ嘘ッパチでも人の為になるじゃないのさ」

 見世物小屋から出た男は、帰り道にこう呟いた。
「ああ、可愛い子供だったな。俺にも子供が出来るかなあ。未来の俺は、父ちゃん、なんて呼ばれてるのかなァ」
 酔いが少し醒め、空を見上げる。
「シカシ、ヒドイ三文芝居の嘘八百だったなァ」
 


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このストーリーに関するコメント

16/09/18 あずみの白馬

拝読させていただきました。
見世物小屋の作り物ながらもどこか不気味な雰囲気が、一瞬タイムスリップをしていると思わせる良作だと思いました。
落ちの部分、落語の人情噺が思い出され、よかったと思います。

16/09/19 デヴォン黒桃

あずみの白馬様
タイムスリップを、見世物小屋の「樽の出し物」として使ってみました。
結果、改心したのは、その人情故で御座いますね。

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