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こんちゃんさん

むかしむかし、小説家に憧れた少年がいました。少年はいつの間にか大人になり、憧れは夢になりすっかり忘れていました。でも、また何か書いてみたくなりました。

性別 男性
将来の夢
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ラヴェンダーのひと

16/09/14 コンテスト(テーマ):第117回 時空モノガタリ文学賞 【 本屋 】 コメント:0件 こんちゃん 閲覧数:934

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ラヴェンダーのひと。私がそう呼んでいる女性がいます。いえ、面と向かってそう呼ぶわけではありません。心の中で、そう呼んでいるのです。
私は駅前の小さな本屋を営んでいます。ここに時々買い物に来ていただく女性。名前もお住まいも知りません。ただ、私のお店を使っていただけていますから、近所にお住まいなのだろうという事はわかっています。
年のころは20歳代後半くらい、少し線の細い、色白な方です。髪を肩の長さに綺麗にそろえています。そしてこの女性からはいつもラヴェンダーの香りがするのです。お気に入りの香水なのでしょう。
意識するようになりだしたのはつい2、3年前くらいでしょうか。
それ以前もよく来ていただいていたのかもしれませんが、記憶にありません。ラヴェンダーのひとが、ある本をお買い求めになったのがきっかけです。それは北欧のお菓子のレシピ本でした。彼女の香水と本から、ラヴェンダーのクッキーを想像したのが始まりです。
気にしてみると面白いもので、1か月に一度くらい、北欧に関連する本を買っていただいていることが分かりました。料理の本や、雑貨の本、妖精などが出てくるお話などです。ラヴェンダーのひとに喜んでいただきたくて、北欧に関連する本を少し多く入れてみたりして、お越しいただくのが楽しみになったものです。
自分でも北欧に関する本を読むようになり、また、ラヴェンダーのひとにお買い上げいただいた本を読んでみて北欧に関する知識を深めていったものです。お客様から直接に教えていただくわけでもなく、それでいて知識が広がっていく感覚を共有できるというのは、とても心地よいのです。
ある5月の雨の日。ラヴェンダーのひとがある一冊の本をお買い上げくださいました。それは、北欧の旅行ガイド。ついに憧れは翼に形を変えたんだな、と私も喜んだものです。
ですが、本を受け取った際に、左手の薬指で優しく光る物に気が付きました。
私はいつも通りに本を紙袋に入れ、彼女に渡します。静かに本をしまって店を出ていく彼女。ラヴェンダーの香りが店内から薄れるころ、私は店の棚から人魚姫の童話を取り出してカウンターでゆっくりと眺めたのでした。儚い想いもまたラヴェンダーの香りがしました。


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