W・アーム・スープレックスさん

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16/09/13 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1733

時空モノガタリからの選評

 極限状況では多くの人が彼らのようにタイムスリップを願わずにはいられない心境になるのかもしれません。指摘される通りKやPのように平然と人を殺す兵士達の多くも、平時はごく普通の人間なのだろうと思います。だからこそ理性を麻痺させ心の闇をあらわにさせる争いは、やはり恐ろしいです。やらなければやられる恐怖の中では、人は簡単にその渦に巻きこまれてしまうのでしょう。大義名分のある殺戮では罪悪感すらないためさらに厄介です。現実にはタイムスリップなど存在しないのはわかっていても、如何ともしがたい冷徹な現実を前に、夢を見るしかない人々の絶望がひしひしと伝わり、胸が痛みます。タイムスリップというコンテストの中でこのように現実的にテーマを利用した作品は他になく、独自性と真実味がある骨太な作品だと思います。

時空モノガタリK

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俺たちは、森の奥にみつけた小屋をめざして、じりじりと包囲のわを縮めていった。
これまで嫌というほどゲリラたちと死闘を繰りひろげ、あちこちにしかけられた地雷の恐怖にみんなはほとんど極限状態に達していた。こんなときだ、人間の本性が露わになるのは。
Kなどは、欲情に目を爛々ともえあがらせ、どこかに村の女が隠れていはしないかと、戦いよりもむしろそちらのほうに神経を傾けているようだった。おまけに相手は子供でも何でも見境なしときていた。
Pに関していえば、これはもうまさに血に飢えたけだものそのもので、敵を一人でも多く血まつりにあげることを何よりの楽しみにしているかのだった。
故国にいるときの二人を俺はよく知っているが、どちらもそれは人一倍優しい心のもちぬしで、傷ついた鳥や小動物に深い憐れみをおぼえて献身的に治療したり、弱者や困窮者をみると手をさしのべずにはいられないほどおもいやりにみちた人間たちだったのだ。
俺は自動小銃をかまえながら、粗末な小屋の、はずれかけた木戸を蹴った。意外にしぶといそれは、二度三度蹴りつづけるうち、周囲の木枠もろとも内部に剥がれ落ちた。倒れた木戸が舞い立てる埃がいつまでも浮遊するなかに、あおざめた顔の少年がうずくまっているのが見えた。
なにかカタカタという乾いた音がする。骸骨が笑えばこんな音をたてるのではないか。それが少年のはげしくふるえるあまり噛みあわなくなった口からでている音だとわかるまでしばらく時間がかかった。
「殺せ、なにをしている、はやく撃つんだ」
背後でPがじれったそうにせかした。
「もたもたしてたら、いまに首根っこを裂かれるぞ」
どんな小さな子供でも、またどんなひよわそうな女でも、隙をみせたら最期だと、ここに送られた当初に、上から嫌というほどたたきこまれたそれは教訓だった。足腰たたない老人でも、赤ん坊でも、ゲリラはゲリラなのだ。事実、過去に命を落とした兵士たちの何人かは、土壇場にきて、相手によけいな同情を示したり、躊躇したがためだった。
圧制者を打ち倒すためと言う大義名分を錦の御旗にしておれたち兵士は、もてる大量の兵器を駆使して歯向かってくる敵の人間をそれこそ虫けらのように殺傷してきた。雨あられと発射される自動小銃の弾丸がはたして軍人と民間人を区別しているかどうかなど、細かく斟酌している余裕などあろうはずがなかった。そのうち、とにかくみつけた人間は片端から銃弾をみまうようになった。
ゲリラたちが死にもの狂いで反撃をしかけてきた。それはじっさい、凄まじいの一語につきる。両腕をふきとばされた男が、兵士の股間にかぶりついてきたこともあった。
俺たちはこのときも、俺たちはおまえたちのために戦っているんだというパラドックスを、抵抗もなくうけいれていた。
俺は、小屋のなかの少年に、銃口をむけた。例のカタカタという響きがいっそう大きくなった。相手は、完全に無抵抗だった。その命は、俺の気持ちひとつにかかっていた。
―――タイムスリップができたら。
と、だしぬけに俺の頭をいつものやつがかすめた。この場からタイムスリップできたら………。これまでなんども、似たような状況にたたされたとき、俺は子供のころにゆめみたたわいもない願望にすがりついていた。怯えきり、歯の根もあわないまでにふるえている少年の前から、タイムスリップできたら………。しかしそんなことは、絶対にありえないのだ。
「ちぇっ。いつまでぐずぐずしている」
とうとうKが癇癪をおこした。邪険に俺をうしろにやると、こんどは少年の腕をわしづかみにして、いやがる彼を小屋の外にひきずりだした。
Kは少年をそばの木の幹におしつけてから、恐怖に硬直するその顔を、いま一度たのしむかのようにねめまわした。
周囲からあつまりだした仲間の兵士たちも、これからはじまるできごとを、まるでショーでもみるような顔つきでながめはじめた。
そのとき、少年がなにかをつぶやいた。なんどもなんども、ときに喉をつまらせな、咳き込みながら、繰り返した。
「けっ、命乞いとは笑わせる」
Kがヤニにまみれた歯をむきだして笑った。銃の先を少年の額におしつけたまま、彼はわざとのように間をおいた。
俺は直視できなくなって、後ろをむいた。そして胸のなかで、はやく、撃ってやれ。なにをぐずぐずしていると、叫んでいた。それはさっき、K自身が俺に投げかけたセリフではなかったか。
「お祈りでも捧げているのかと思ったら―――」
この国の言葉に通暁している一人の兵士の声をききとがめて、俺はたずねた。
「なんといってるんだ」
「それがおかしいんだ。タイムスリップしろ、タイムスリップしろ、なんてことをほざいてやがる。はは、馬鹿なやつ」
その一瞬後、天地をとどろかして銃声が鳴り響いた。


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このストーリーに関するコメント

16/09/13 クナリ

願いとしては、平和な場所でも紛争地帯でも古今東西の人々の中に存在しながら、なかなか現実には現れてくれないタイムスリップ。
時間移動そのものではなく、観念として作中に扱われたのですね。
立場は今は真逆、でも同じことを考えてしまうという、パラドックスにも似た読み味でした。

16/09/14 W・アーム・スープレックス

少年が歯を鳴らす場面は、ある戦争のドキュメントで見た現実の光景です。このときの少年の心境など、誰にもわかるはずもなく、タイムスリップは私のむろん創作ですが、絶対にありえないものを願うぐらい、この少年には救いはありませんでした。少年はまたこのストーリのとおりの運命をたどりました。

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