高橋螢参郎さん

何でもいいから金と機会おくれ

性別 女性
将来の夢 二次元に入って箱崎星梨花ちゃんと結婚します
座右の銘 黙り虫、壁を破る

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16/09/12 コンテスト(テーマ):第116回 時空モノガタリ文学賞 【 裏切り 】 コメント:2件 高橋螢参郎 閲覧数:739

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 僕、堀江ツバサと中村タスク、そして町田カナエは幼馴染だった。
 いや、果たして僕らの関係はそれだけだろうか。ベッドタウンの離れにぽつんと並んだ、たった三棟の一戸建てにそれぞれ、同じ年に産まれた一人っ子がいるだなんて何という偶然だろうと、3人で話した事もある。幼かった僕らは無邪気にも運命めいたものをすっかり信じ込んでいた。何があっても助け合い、一緒にいようと誓い合った。
 事実、あの頃の僕らはどこへ行くにも何をするにも3人一緒だった。学年が上がるにつれて揶揄される事も少なからずあったが、そんな事は些細な問題と割り切っていた。なんせ共有している時間の長さが他の皆とは違うのだ。
 だからこそ、最初に違和感を覚えた時の事を今でもはっきりと記憶している。
 あれは中学一年の夏だった。その日も僕らは一緒に、自転車に乗って市民プールまでの遠い道のりを必死に漕いでいた。狭い田舎道では3人並んで走る事はできない。自然と体力のあるタスクが先行し、それを僕とカナエで追いかける形になった。
「流石は運動部だね」
 隣を走るワンピース姿のカナエが、うなじを汗で濡らしながらそう言った。
 僕は曖昧に頷くふりをして、実はずっとある一点を注視していた。さっきから自転車の上下運動に合わせて、白いワンピースの隙間からカナエの乳暈が覗いていたのだ。一緒に風呂に入った事すらある僕が何で今更こんなに心乱れているのか、その時は自分でもよくわからなかった。
 いけないと知りつつも、僕は隠れて何度も彼女の膨らみ始めた乳房を盗み見た。カナエはどこまでも無防備だった。相手が僕らだから気にかけていなかったのだろう。
 信頼されているという事実が、僕の良心を苛んだ。
「おーい、置いてくぞ!」
「えっ、ああ!」
 不意に聞こえたタスクの声に、僕は見咎められたのでは、と本気で狼狽えてしまった。
 見るとタスクは遥か先を行っていた。あの距離でそんなわけがない、と自分に言い聞かせながら、僕はペダルを踏み抜く勢いでがむしゃらに漕ぎ始めた。
 待ってよ、とカナエの声が背中から聞こえたが、振り返る事はできなかった。僕は自分の犯した罪の大きさを恐れていた。そしてどれだけ家族同然に過ごしてきてもここにいるのは男と男と女なのだと、この時初めて強く思い知らされた。
 それから、僕はカナエの事を女子として強く意識し始めた。
 もちろん表面上ではいつも通りの関係を演じ続けていたが、この上ない安らぎを感じていたはずの時間は、気付けばぎりぎりまで張り詰めた水のような緊張感で満たされていた。
 そういう日は家に帰るとすぐに自室の鍵をかけ、カナエの事を想った。日に日に美しくなるカナエを、僕は何度も抱いた。夢にまで出てくる日もあった。
 しかし、たとえ空想の中だけでもカナエが僕だけのものになるかと言えばそんな事はなかった。汚した手を見つめると、今度はタスクの顔が浮かび上がった。
 あいつはカナエの事をどう思っているのだろうか。もしかしたら本当に友達としか思っていなくて、僕らの事を祝福してくれるかも知れない。いや、そんな都合のいい話があるか。大体聞けるはずがない。いっそ僕でもタスクでもない誰かがカナエの事をさらってくれないか。僕は密かにそうとさえ考えていた。
 だがいつまで待っても、そんな男は現れなかった。僕は煩悶を数え切れないほど繰り返した末いよいよ憔悴し、中学の卒業式を待って自分の想いを伝える事にした。
 何より背中を押したのは『花落花開自有時』という禅の言葉だった。花は咲き、必ず落ちる。その事を受け入れ次の花が開く準備をしなければならない。僕は感心してしまっていた。いつまでも3人でいられるはずがないのだ。それなら結果がどうであれ、気持ちに区切りを付けておかなければならないだろう。
 僕はそう思い込んで、実際に彼女へと告白した。それが浅はかな思い違いだったという事は、翌朝証明された。
「少し考えさせて欲しい」
 最後にそう言ったカナエは首を吊り、変わり果てた姿で発見された。遺書らしきものは何も遺されていなかったから、推薦を早々に決めていた彼女の死は周囲から随分と不可解なものに思われた。
 通夜の席でタスクの嗚咽を間近で聞きながら、僕は震えていた。
 カナエは僕の裏切りを帳消しにしようとしてくれたのだ。彼女の中では僕らはシャム双生児のように、切り離しては生きていけないひとつの生き物だった。
 会えば思い出すからと、それから残された僕とタスクも自然と疎遠になっていった。タスクがカナエの事をどう思っていたのかは最後まで聞けなかったが、やはり僕らは3本の足で微妙なバランスを保ってこの世界に立っていた事に気付かされた。
 花なんて永遠に咲かなければよかったのだ。次の花も、見たくはない。
 鼎。僕は返らぬ水を思って、泣いた。


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このストーリーに関するコメント

16/09/13 クナリ

鼎の三本足、ひとつ欠ければ立ってはいられず倒れてしまう危ういバランスが、なんとも切ないです。
三本揃っているうちは、絶対の安定感さえ感じるというのに。

16/09/19 高橋螢参郎

>クナリ様
コメントありがとうございます。
話を思いついた時は「よっしゃ今回イケるやろ!!!」
などと思っていたのですが今読み返すと詰め込み過ぎというか、これは下手をしたら梗概なのではないかと凹んでしまいました....
(これでも数百文字削ってます)
このテーマなら8000字欲しかった....

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