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白取よしひとさん

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たんぽぽ書店

16/09/09 コンテスト(テーマ):第117回 時空モノガタリ文学賞 【 本屋 】 コメント:0件 白取よしひと 閲覧数:1054

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 アーケードにぽつんとある街の本屋さん。商店街に人通りはあるのに、間口が狭くてうなぎの寝床みたいな店内にお客さんはひとりも見えません。入り口に近いレジでおばさんが何やら片付けをしている様です。

「亜衣ちゃん」
あら、あんまり淋しくてつい口に出ちゃったわ。亜衣ちゃんが帰ってからお店の中は火が消えたみたい。この日くらいゆっくりお話したかったけど用事があるんだから仕方ないわよね。最後のお給料袋渡した時、本当に悲しかったわ。亜衣ちゃんも泣いてくれてありがとね。
 お父さんと二人で始めたこのお店。苦労もしたけど本当に楽しかった。がらんとしたこのお店を眺めていると賑やかだった頃が昨日の事みたいに浮かんで来るわ。放課後になるとランドセル背負った子供たちが沢山集まって来たわね。みんな本棚の前にずらっとしゃがんでご飯時までずっと漫画読んでた。ここは通路が狭いものだから、電車の時間まで時間潰しで立ち読みしてる大人たちが子供に気をつかってつま先で歩いているのが何だかおかしかったわ。今じゃどこも漫画はビニール袋に入れてるみたいだもんね。あの子供たちはどこに行ってしまったのかしら。
 どうしても漫画の筆箱欲しくて泣いてせがんだ子の事覚えてる?あの時あなたが値引きしてあげたのよ。
 お父さんはいつも配達で忙しかった。月のはじめはオートバイで付録の付いた子供雑誌の配達に追われていたわよね。
「チャイムを鳴らすと待ち構えた子が玄関に走って来るんだよ」
そう言ってあなたは嬉しそうに笑ってたわね。

「誠に勝手ながら、たんぽぽ書店は閉店させていただきます」
お決まりの文句だけどこうして書くとやっぱり切ないわね。お父さんごめんなさい。もう限界なの。人を使う余裕はないし、私ひとりだととても出来ないの。わかるでしょ。

店の外、おばさんは何やら書いた紙を傍らにおいてシャッターに手を掛けています。何だかとても淋しそう。
「おばさん!」
「あら、亜衣ちゃんどうしたの」
亜衣ちゃんの後ろには沢山の人たちが集まっています。商店街の見知った人もいますが、中には知らないお勤め帰り人たちも。みんなこちらを見てにこにこしています。
「どうしたのって、たんぽぽに来たのよ」
だってと戸惑うおばさんを急かす様に、お客さん達はお店に入りました。もう店内はぎゅうぎゅうです。
おばさんこれ。そう言って亜衣ちゃんは花束を贈ってくれました。それに続いて沢山の人が花束を渡してくれます。持ちきれず置かれた花束でレジ周りはお花畑みたいになりました。おばさんは嬉しくて涙を流しながらみんなに何度も何度もお辞儀をします。
「この子、同級生の加藤君。今回大活躍だったのよ」
頭を掻きながら笑う青年がインターネットで声を掛けてくれたらしいのです。私をびっくりさせる為に駅前に集合したそうです。
「あの」
そう言って進み出たネクタイを締めた会社員風の男性が、子供の様にはにかみながら話し出しました。
「僕いつもここで漫画本立ち読みさせてもらったんです。友達との待ち合わせもいつもここで」
「わたしも!」
「たんぽぽで待ち合わせあるあるよね」
それを聞いてみんなどっと笑いました。何てあたたかいのでしょう。みんな、たんぽぽが大好きなんです。次から次へと思い出話が出てきます。
そうよね。たんぽぽはお父さんと私の思い出だけじゃないのね。お父さん。私たち幸せね。
「静かに閉店するつもりでしたが皆さんに嬉しいお言葉沢山頂けて、天国のお父さんも本当に喜んでいると思います。ありがとうございました」
おばさんが深々とお辞儀すると名残惜しさの気持ちが籠もった拍手が大きく湧きました。
「ちょっと待って頂けますか」
名刺を内ポケットから取り出しながら前に出た男性は駅前ショッピングモールの者と名乗りました。
「モールとしましても地域に親しまれているお店とコラボしたいと考えておりました。もし良ければうちのイベントスペース定期的にお使いになりませんか」
閉店の挨拶をしたばかりなのに突拍子もない話におばさんは戸惑っている様です。
「おじさん。そのスペースってただで使わせてもらえるの?」
亜衣ちゃんが突っ込みを入れると、もちろんと男性は笑みを返します。
「じゃ。加藤君しばらく忙しいわね」
亜衣ちゃんに横目でじろりと睨まれた加藤さんはふざけた悲鳴を上げました。
「あの。もちろんモールのチラシにも告知しますから」
おお!とみんなで歓声を上げます。あとで聞いた話ですが、モールの男性もここの立ち読み小僧だったそうです。
「さ!これから作戦会議よ」
亜衣ちゃんの声が響きます。おばさんはこの書店が育てた子供たちに感謝の言葉もありませんでした。
 アーケードの灯りが落ちても明るいたんぽぽ書店。近いうちにまたおばあんの元気な笑顔を見られそうですね。


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