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つつい つつさん

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はじまりのオワリ

16/09/08 コンテスト(テーマ):第117回 時空モノガタリ文学賞 【 本屋 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:1125

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 白い壁の四方八方に出鱈目に書かれた正の字を数えるだけで彼の一日は終わってしまった。今日で数えるのは五回目になるが、毎回途中で正確な数がわからなくなってしまい、おおよそ三千五百ということしかわからなかった。それは、彼が初めて中学校をサボった日に何気なくマジックペンで壁に書いたのがはじまりだった。
 壁を見つめ続けたせいで目の奥がチカチカする彼はそのままベットに倒れ込んだ。目を閉じても正の字の残像は消えず、目を開けているのか閉じているのかわからなくなった彼は少し高揚感を覚え、口元をニヤリとさせた。あの目が、あの顔が、あの笑いが頭に浮かばないのは久しぶりだった。彼は家に引きこもってから今日まで、ただひたすらあの同級生の顔を思い浮かべ生きてきた。
 中学三年生になりクラスが変わり、あまり友達のいない彼がひとりで孤立している時、仲間に入れてくれたのが、あの同級生だった。昼休みや行事などで自分の居場所が出来たことに彼は心から感謝した。しかし、愛想笑いひとつ出来ない彼は、そのうち同級生や仲間達から疎まれるようになった。彼は別に不満だったわけでもない。楽しくなかったわけでもない。みんなと一緒にいれて嬉しかった。しかし、それは伝わることはなかった。遊んでいても表情ひとつ変えない彼の姿は、同級生達には生意気に映った。そんな雰囲気を彼は察知していたが解決する方法を知らない彼は、ただ、そのグループに属することを選んだ。
 そんな彼の心情を知ってか知らずか、同級生は彼に無茶な命令をするようになった。スーパーやコンビニなどで、ジュースやお菓子を万引きするように指示された。「それくらい買うよ」って言っても聞いてくれず、やらなければ仲間からはずすと脅された。彼は無愛想でぶっきらぼうで横柄だが、だからといって怖いもの知らずではなかった。はじめてコンビニでお菓子を万引きした時、彼は動揺し、お菓子を掴んだ右手は震え、頭は真っ白になり、店を出るまで生きた心地がしなかった。そんな彼の様子を同級生達は面白がりながら遠巻きに見ていた。
 彼が中学校に通った最後の帰り道、いつものようにあの同級生達と一緒に帰った。またいつものコンビニでも連れていかれるのかと思っていたが、その日は一軒の小さな本屋の傍で立ち止まった。そして、あの同級生は彼に「エロ本を万引きしてこい」と命令した。それを聞くと周りの仲間達は「やべっ」などと声をあげ盛り上がった。彼はその時、そんな命令など無視して帰るべきだったが、逆らうことを忘れた彼は今までに比較にならないくらいの羞恥心と緊張を抱えたまま本屋に入った。たぶん、誰の目から見ても挙動不審で怪しかったのだと思う。しかし、彼はそんな自分には気づかず本屋の奥のアダルトコーナーに入ると、無我夢中で一冊のエロ本を掴むとサッとカバンにしまった。そして、足早に本屋を去ろうと振り向いた瞬間、本屋の主人らしき男性に肩を掴まれた。その後、学校の担任を呼ばれ、担任共々、散々説教された後、学校に戻ることとなった。
 校門をくぐると、先に帰ったはずのあの同級生達が校舎の入り口付近で、たむろしていた。そして、彼が通ると、学校中の生徒が彼を指さした。男子達はニヤニヤしながら「あいつが」って感じで彼を眺め、そして女子達は彼を汚いものを見るような、軽蔑の表情で囁きあっていた。聞こえるように「最低」っと吐き捨てる女子もいた。その感情は彼にも理解出来た。もし自分が同級生にこんな状況で捕まった者がいたら同じように蔑んでいただろう。それが、たまたま彼だっただけだ。
 それからいつも以上に不機嫌な担任に職員室にひっぱられていく最中、たむろしていたあの同級生と目が合った。あの同級生は可笑しくてたまんないって様子で笑いを我慢していた。人は本当に嬉しいとき、本当に可笑しいとき、あんな目をして笑うってことを彼は知った。それから彼は家を出られなくなった。
 ベットに倒れ込んでいた彼は急に思いついたようにガバッと起き上がり、おもむろに押入れを開けた。中をゴソゴソ探り石油ストーブの灯油タンクを見つけた彼はおもむろに中学の頃に使っていたリュックにそのタンクを入れた。彼はその時、憑き物が落ちたかのように清々しい顔をしていた。
 彼は、何年かぶりに外に出た。そして、すべての元凶であるあの本屋に辿り着くと、懐かしそうに店内を見渡した。そして、最初から決められていたかのように自然と奥のアダルトコーナーへと進んだ。
 そして、リュックから灯油を取り出すと、彼は燃えた。


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