1. トップページ
  2. 不徳な回帰

鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
将来の夢 この世で最も面白い物語を見つけ出したい。
座右の銘 Do what you enjoy, enjoy what you do.

投稿済みの作品

1

不徳な回帰

12/10/05 コンテスト(テーマ):第十五回 時空モノガタリ文学賞【 北海道 】 コメント:2件 鮎風 遊 閲覧数:2782

この作品を評価する

「課長、ちょっと困ったことがありまして……」
 部下の山路が朝っぱらから泣きついてきた。花木忠蔵はまたクレームの話しかと思い、「まずは落ち着けよ。で、どうしたんだよ?」と上司らしく聞き返した。すると山路は、今度は首をひねりながら伝える。
「実はアルバイトの変若水(おちみず)が……突然消えてしまったんですよ。どうも失踪のようでして」
 朝一番からこんな報告を受けた花木、「うーん」と首を傾げ、後は「ほー、消えたのか?」と呟くしかなかった。

 変若水とわ美(おちみずとわみ)、珍しい名前だ。
 年齢は二十八歳と聞いている。スラリとしたしなやかな姿態に、長い黒髪が似合う美人だ。その上に仕事の手は早く、花木は充分気に入っている。
 そんなとわ美をアルバイトではなく、本採用してやりたいと本人に申し入れたことがあった。だが、「今のままの方が縛りがなくって、良いのですよ」とやんわりと断られた。

 消えてしまった変若水とわ美、今思えば不思議な女性だった。無欲でガツガツせず、それはまるでふわりふわりと水中に身を浮かべ、時代が流転して行くままに生きてるようだった。
 そしてもう一つ不可解なことがあった。働き始め三年になるが、容姿は最初に会った時と変わっていない。言い換えれば、歳を取らない、そのようにも見て取れるのだ。

 そんな変若水とわ美は一体どこへ消えてしまったのだろうか?
 他の会社へトラバーユしたのか? いや、花木は誠実に指導もしてきたし、充分満足しているはずだ。
 それとも男と逃避行? だが彼女には男の影はなかった。

 そして花木は思い出した。以前面談した時に、とわ美は言っていた。出身は北海道だと。「それで、故郷はどの辺りなの?」と聞き返すと、数字を並べた場所を教えてきた。その時さらに尋ねるのは失礼かと、花木はそれをメモっただけだった。今それを思い出し、手帳を繰った。そしてあったのだ。
『N43°23′0″ E143°58′6″』と。

 だが今回は勘が働いた。彼女の失踪の真意はこの位置にあるのではと。それから地図で調べてみると、それは驚くことに北海道三大秘湖の一つ……オンネトー湖だった。
「えっ、ここが故郷ってこと? ひょっとして、そこへ帰郷したのか?」
 花木には抑えようのない好奇心が芽生え、とにかく北の湖を訪ねてみることにした。

 オンネトー湖は雌阿寒岳(めあかんだけ)の麓、その大自然の中に神秘に存在する。それはまるで森羅万象を凝集させたかのように神がかっている。
 静かだ。花木はその湖畔に佇み、乳白色の霧に包まれた湖を眺めている。
 こんな所が故郷って、これはとわ美の冗談かと思いながら、なぜか自分自身も懐かしい気分にもなっている。
 そしてポケットから、赤い鉢巻き付きの石を取り出した。これはとわ美がデスクで文鎮代わりに使っていたものだ。それを湖に向かって放り投げた。静かな湖面に波紋が広がる。ただそれだけで、他に何も起こらなかった。もちろんとわ美にも会えず、花木は町へと戻って行った。

 それから一週間経った頃だった。とわ美がふらりと現れたのだ。花木は腹が立ったが、反面なぜか嬉しい。
「なあ、とわ美さん、一体どうしたんだよ」
 早速面談し問うてみた。しかし、狐につままれたような答えが返ってくる。
「花木課長、わざわざ湖まで来て頂いてありがとうございました。またこの縁結びの石を私に放ってもらって、ホント感激しましたわ」
 花木は耳を疑った。そして恐る恐る訊く。
「オンネトー湖がやっぱり……出生地なの?」
 それにとわ美は「そうですよ」と穏やかに返し、静かに語り続ける。
「変若水(おちみず)は若返ることができる水。それがオンネトー湖の底に湧いているの。私、三年に一度はそれを飲まないとね……歳取るでしょ」
「へえ、それが消えた理由だったんだね」
 花木はなんとなくわかるような気がする。しかし、とわ美は今さら何よという表情で話す。
「忠蔵さん、思い出してください。五百年前、私たちは夫婦だったのよ。永久の愛を誓い、あの湖畔で暮らしてたのよ。だけどあなたは変若水を飲まず、お酒ばっかり飲んで、死んじゃったわ。だけど私はずっとそれを飲んで、年齢を保ってきたの。こうして、あなたの生まれ変わりを待っていたのよ。さあ、もう一度一緒に、北の暮らしに戻りましょう」

 花木はもう言葉が出てこない。なぜなら走馬燈のように、あの頃二人で過ごした楽しい日々が蘇ってきたのだ。そして暫くの沈黙の後、それは弾みか、それとも何かに導かれたのか、今ある男の人生を自ら打ち砕いてしまう。

「君は確かに僕が初めて愛した永久美だったね。だから君のために、仕事と妻子を捨て、五百年前へと……不徳な回帰をしよう」

「イヤイライケレ」
 変若水とわ美は不気味に微笑んだのだった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

12/10/06 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

これは輪廻転生と不老長寿を謳った、壮大なロマンですね。
う〜ん、こんな短い物語では勿体ないですよ。
エピソードもたくさんあるのに・・・。

この作品は是非、加筆して短編くらいの長さにしてください。

12/10/09 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

コメントありがとうございます。

そうですね、焼き延ばしてみますか。

ログイン