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デヴォン黒桃さん

「黒桃将太郎」名義でKindle作家として活動。「デヴォン黒桃」名義で猫面師としてアート活動も。人間ドラマや人の感情に興味があり、書きたい物をジャンル問わず書いております。「黒桃短篇集」発売中昭和浪漫のスコシばかり怪異なお話、アナタの脳髄へソット、注入サせて頂きます。 心の臓のヨワい御方は、お引き返し下さい。 精神に異常をキタしても、責任が取れませぬ故。http://amzn.to/2jPBe4m

性別 男性
将来の夢 りっぱなおとな
座右の銘 悔しいけど感じちゃう

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本のムシ

16/09/07 コンテスト(テーマ):第117回 時空モノガタリ文学賞 【 本屋 】 コメント:8件 デヴォン黒桃 閲覧数:2747

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 僕は小銭が惜しいので、読んで仕舞った本は古本屋に買い取らせる。
 ソシテ別の古本を、幾つか見繕って持って帰るのだ。
 此処迄、本の虫なのは、現実世界の人間付き合いが苦手で在るから。
 かと云うて、独りが好きかと問われれば、ソレは違うと思う。
 只、上手く人と話したり、想いを語らったり、アレしてコレしてと云えないのだ。


 其の点、本はナニも云わず、僕の好奇心を満たして呉れる。
 だが、ヒトツ、僕も上手く話せる事がある。
 ソレは本の話。
 なので此処の店主である若い姉さんには、饒舌をふるう。
 マア、僕も男なので、姉さんに密かな想いを寄せたりしてはおるが、色恋の話ナドは一向にできやせんかった。
 ソレでも、本を買い取りさせる時、別の本を調達する時、金のやり取りで、ホンの少し手が触れる。僕はソレだけで一日気分がいい。
 

 とある日。調達した本の間に、一万円札が挟まって居った。
 コレはどうしたことか、以前の持ち主のヘソクリか。ソレを忘れて仕舞って、此処に売って仕舞ったのだな。
 はて、古本屋の姉さんも、ソレに気付かず、百円で僕に売って仕舞って……
 僕は百円払って、一万円札を手に入れてしもうた。
 ヤア、誰も気付いてないのなら、僕が貰って、本を沢山買うてやろう。
 ソレだったら、古本屋の姉さんも喜ぼう。
 菓子や酒には絶対に使わず、本だけに使うと誓って懐に一万円を忍ばせた。


 次の日、十冊程調達して、イツモのように姉さんの手にスコシ触れて、いい気分で家に帰る。
 コレから一時の間、好き放題に本が読めると、ゴロンと寝転がり、天井へ両手を突き上げるカタチで本を開いた。
 すると、ヒラリと僕の顔に長い長い髪の毛が落ちた。
 ヤヤ、赤い髪。ソシテ長い。外人の髪か?
 古本屋の姉さんは黒毛で肩まで。この赤毛は、胸まで有ろうかという程の長さ。
 僕は、その日、買ってきた本より、其の赤毛の持ち主について考えた。
 コンナに長い髪の毛は女か。何歳くらいなのだろう。背はどのくらいなのだろう。
 ドンナ声で、ドンナ眼の色で、ドンナ物を喰うて、ドンナ物が好きなのだろう。


 シカシ、アノ古本屋は、買い取った本に何が挟まって居るのかナゾ一切気にしておらん様子だ。そうでなければ、一万円札やら、長い長い髪の毛が挟まって居るはずもない。
 サッキ買ってきた、読み終わってない本に、僕の髪の毛を数本ムシって挟んだ。
 次の日、其の髪の毛が挟まった本を姉さんに売った。
 姉さんは、コンナニ沢山もう読んだの? など云うて、買い取った本をペラリともめくらず本棚に突っ込んだ。
 ヤハリ中を調べて居らん。
 と云うことは、マダマダ此の古本屋には、何か挟まって居るのではないかと想い始めた。幸い金は、一万円札の残りがまだある。
 ペラペラめくってから、挟まって居る本を見つけて買えばいいのだか、ソコはホラ、帰ってからのお楽しみ、当たりクジの気分である。
 また、今日も何冊か調達して、帰路につく。
 今度はヒラリと古い写真が一枚落ちた。
 ヤア、当たりだ。古ぼけた写真には、親子の姿が写って居った。
 何かの記念なのだろうか、父親と思しき男の足に必死にシガミツイている坊やが写る。
 ホホウ、コレは面白い。此の坊やは今は何歳なのだろう。僕より年上かもしれないな。
 父親も立派な髭だ。ドコかのお偉いさんか知らん。ナドと想いを馳せていた。
 

 其れから幾つも、オカシナものを本の間から見つけた。
 よく有るのが、爪、髪、メモ用紙。
 おおかた、爪切りや散髪でもしながら読んだのだろう。
 メモ用紙は、豆腐、マヨネーズなどと書いてある。オツカイに使ったらしい。モット詳しい物が書いてあるメモは、晩のおかずまで容易に想像できた。
 千円札、鉛筆の粉、切手、ハナクソ、得体の知れない虫、落書き。
 僕はいつの間にか本よりも、挟まって来るドコかのダレカに想いを馳せるコトが多くなって来た。
 ソンナことを続けて居ったら、ダンダンと、想いを馳せる側から、想いを馳せられる側になりたいと想うようになった。
 其れから僕は、爪、手紙、写真を挟んでは、アノ古本屋に売り払い、イツカ誰かが本棚に並べてあるの見つけるだろうと、毎日過ごして居った。


 ソシテ考える。僕が見つけて衝撃的だった物って何だろう。
 コレから見つけたら衝撃的な物ってなんだろう。


 とある日、僕は想いついてしまった。
 やおらカミソリを持ちだして、僕は顔の皮を剥いだ。
 額から、顎まで、キレイに仮面のように皮を剥いでから、本に挟んだ。


 ウフフ、コレを見た人は、キット、僕に特段の想いを馳せるに違いない。
 ソシテ焼けつくような痛みが治まらないままに、古本屋へ駈け出した。
 


 了


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このストーリーに関するコメント

16/09/07 Fujiki

「うん、うまい」と唸らされる秀作でした。匿名性の裏に見え隠れする人間の生活や身体性に執着しながらも、顔の見えない不特定の相手の注意を引くために自らも顔のない匿名の存在になる主人公が抱く孤独は、ものすごく現代的なものだと感じました。その現代的な孤独感を擬古的な舞台装置と文章表現によって異化して見せたところにこの作品の独創性がある気がします。デヴォンさんの文章には、あなたご自身の生皮を剥がして見せつけられているかのような露悪的な生々しさがありますね。

16/09/07 デヴォン黒桃

Fujiki様
大変嬉しい感想をありがとうございます。
全て見透かされたような言葉に喜んでおります。

16/09/08 黒谷丹鵺

衝撃的な結末に古本屋の姉さん目線になって「来ないで!」と悲鳴をあげそうになりました。
黒桃さまの作品には本当に中毒性がありますね。いつも楽しみにしております。

16/09/08 デヴォン黒桃

黒谷丹鵺様
中毒性など嬉しい言葉をありがとうございます。
此れからも頑張って行きます。

16/09/08 あずみの白馬

 拝読させていただきました。
 やはり「黒桃節」とでも言うべき恐さが感じられる一作でした。
 ラッキーな出来事が、実は地獄への入り口と言うまさかの展開に今回も驚かされました。
 素晴らしい作品だと思います。

16/09/13 デヴォン黒桃

あずみの白馬
ありがとうございます。嬉しいお言葉です。

16/09/17 クナリ

何気ない導入から、徐々に作品の中の独特の世界観が広がってその中にとらわれていきました。
「本に色々なものが挟まっている」という、絶対にありえないわけではないはずの事象が段々と奇妙なものに思われていき、その状態でのこのラストシーンは平手打ちされたようなインパクトがありました。

16/09/19 デヴォン黒桃

クナリ様
ヤハリ自分の世界観を崩さずに勝負しようと思うと、こう言う話になってしまいます。
今回のテーマは、承認欲求、でして、ソレが伝わればなあと思っております。

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