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ゆひさん

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性別 男性
将来の夢 言葉を生業とすること。
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あなたは生きている

12/10/05 コンテスト(テーマ):【 犬 】 コメント:0件 ゆひ 閲覧数:1589

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「どうしましたー?」

犬の散歩をしていた近所の長瀬さんに声をかけられた。
私は犬小屋に手をかけてたところで、突然「わぁ!」と声をあげたのだ。

「あぁ、いいえ。今日はいい天気ですね」

私は冷静を保って、そんな当たり障りのない挨拶を返した。

「えぇ、本当に」

長瀬さんの連れている犬は「チャキ」という。
チャキは我が家で飼っていた「コンタ」と兄弟なのだ。
元の親は「ラン」と言って、これまた近所の柳川さんの飼っていた犬だった。
そのランの子供を、長瀬さんと私の家族は譲ってもらったのだ。

コンタは少し前に亡くなってしまったけれど、 チャキはまだ元気に生きている。
そのチャキを見ながら、コンタに似ているけれど、やっぱり違うなぁと私は思う。

「元気そうですね、チャキ」

「おかげさまで。コンタくんの分まで長生きしますよ」

長瀬さんはそう優しく笑い、歩きだした。
「そうですね」私はそう返した。
クンクンと、チャキの鳴く声がする。
声だけ聞いていると、まるでコンタが犬小屋にいるような気持ちになる。

私が「わぁ!」と声を上げた理由。
それは、こうろぎを、一瞬、ゴキブリと間違えたからだ。
一見、似ているのに、こうも扱いが違うとは、 おそらくこうろぎもゴキブリも納得がいかないだろう。

だけど、仕方ないのだ。

コンタじゃなくて、チャキが先に亡くなればよかったのに。
ゴキブリくらいの嫌悪感は全くないけれど、 私の心は、一瞬、そんな悪魔に支配された。
そうして、静かに、涙が出た。

私は犬小屋を見つめる。
そこに、コンタはもういない。

少し先の長瀬さんの家から、チャキが鳴いている声が聞こえる。
そういえば、さっきも私の家の前で鳴いていたなぁ。
もしかして、コンタに会いたがっているのではないだろうか。
チャキはコンタを見かけると、いつも尻尾を振っていたのだ。

犬小屋の中を覗いてみる。
まだコンタの匂いが微かに残っている。

やっぱりまだこのままにしておこう。

犬小屋を壊すのをやめて、私はその横にすわりこんだ。
コンタがやってきて、あごの下を撫でろと、催促をする。
そうしたときのコンタの恍惚とした表情を思い出しながら、 悪魔のような心を、そっと消した。

それでも、ゴキブリは愛せない。

そう思いながら。


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