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かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

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とんからりん

16/09/05 コンテスト(テーマ):第116回 時空モノガタリ文学賞 【 裏切り 】 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:832

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「とんからりんに石を落として音がしなかったら、願い事がかなうんだって」
 そう言ったのは美咲。
「とんからりんに石を落として音楽がなったら、その後すぐに死んじゃうんだって」
 そう言ったのは香夏子。
「今から行ってみようか」
 そう言ったのは私。

 深夜、へべれけになった私達はワインの瓶をぶら下げたまま家を出た。私の家からとんからりんまで徒歩で一時間。私達はふらふらと野道を歩く。ワインを口飲みにして酔いがさめないように気をつけながら。
「とんからりんに行くなんて小学校の遠足以来じゃない」
「私は去年、ゼミの講習で行ったよ」
「私は先週、彼氏と行った」
 香夏子の言葉に私と美咲の足がぴたりと止まる。
「香夏子、いつの間に彼氏なんか作ったの!?」
「どこで拾ってきたのよ!」
「海岸に落ちててさー。いやー、いい拾いものしたわ」
 香夏子はワインをぐびりと飲む。美咲が香夏子から瓶を奪い取った。
「この裏切り者! 三人で独身のまま生きて三婆の館をたてて仲良くノタレ死のうって約束したじゃないか!」
「いや、そんな約束してないし」
「まあ、まあ。美咲、ゆるしてやろうよ。なんせこれから願いがかなうか死ぬかの分かれ目なんだから」
「そうだ、願い事は決めた?」
「彼氏欲しい!」
「そんな安易な願いでいいわけ? 叶うんだよ? 大金持ちになりたいとかでなくていいわけ?」
「なら、香夏子は何をお願いするのさ」
「私は、彼氏と結婚できますように」
「そっちこそ安易じゃないのさ!」
「そんなことないよ、人生かけた願い事だよ」
「死ぬか生きるかの瀬戸際で、よく甘っちょろい人生を夢みれるよね」
「甘っちょろくない夢って何よお」
「世界征服」
「そんなの面倒くさい。征服した後、統治しなきゃなんないなんて、ああ、考えただけで疲れるわ」
 なんだかんだと騒ぎながら私達はとんからりんについた。大きな石組みを上っていく。開けた野っぱらに出て私達は座りこんだ。
「あー、けっこう疲れたわ」
「もう若くないね」
「永遠の若さを願うのもいいかもね」
「熟女の魅力を知らないまま生き続けるなんてもったいない」
「さ、そろそろ、石を落とそうか」
 月明かりでその辺の草をかき分けて小石を探す。できるだけ丸いものが音が良い。
「じゃ、どの穴に落とす?」
「小学生階段は?」
「あれは落とすというより投げ込む、のような気がする」
「神社の方の隧道に行ってみよう」
「あそこ汚れるじゃない」
「いいじゃないさ、減るもんじゃなし」
「服が一着減るってば」
 真っ暗な隧道に携帯のランプだけで入っていく。足元まで光が届かなくて自分がちゃんと床の上を歩いているか自信がない。下り階段の手前で立ち止まる。穴の先はまったく光が届かない真の闇だ。なにかが向こうから這い寄ってきているような気がする。
「だれから落とす?」
「じゃあ、私」
 美咲が手にしていた小石を無造作に投げる。小石は闇の中に飲みこまれ、カーンと高い音を響かせた。
「残念、美咲は死ななかったか」
「あ、そういうこと言う? 願っちゃうよ、願っちゃうよ、香夏子が音楽を奏でますようにって」
「ご期待には添えそうにありませんなあ」
 香夏子が小石を投げる。やはり石はカーンと鳴って見えなくなった。
「あーあ。やっぱり何もなしかあ」
「じゃあ、最後、あんたね。……あれ」
「どうしたの、美咲」
「あんた、……誰?」
「やだ、美咲、友達の顔をわすれちゃったの?」
「知らないよ、こんな子。香夏子、知ってるの? 名前、なんて言うの?」
「……やだ、やだ、待って。だって友達じゃない。うっかり度忘れしただけだよ、そうだよ」
 美咲が携帯のランプを私に向ける。眩しい光が私の体をすり抜けていく。光を浴びても私の影は生まれない。
「きゃあああ!」
「やだあ!」
 しゃがみこんでしまった二人のそばを通り、階段のふちで足を止めた。小石を穴に投げ入れると、穴の中から、ごおっと風が吹き上げて来た。その中に細く太鼓の音が聞こえる。私は穴の中に身を投げた。

 

 美咲と香夏子は神社に駆け込み、一晩、社務所に泊めてもらった。翌日、駐在の警官とともに隧道に入ったが、中には誰も居ず、足跡も二人分しか見つからなかった。階段を下りたところに丸い小石が三つ落ちているのを香夏子が見つけた。
「あの子、もしかして多恵じゃない?」
 美咲が小石を見つめながらぼんやりと呟く。
「多恵、まだ見つかってないんだっけ」
「そう。ここでいなくなってから、ずっと見つかってないまま。まだお母さんが探し続けてるってさ。私達、ずっと多恵のこと忘れないって約束したのに、守らなかったんだね」
 二人は黙って隧道を出た。帰り道、二人は一言も喋らなかった。

 多恵の葬儀が死体のないままで行われたのは、その翌日のことだった。


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