1. トップページ
  2. 被害者

相模原 智さん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

被害者

16/09/05 コンテスト(テーマ):第116回 時空モノガタリ文学賞 【 裏切り 】 コメント:0件 相模原 智 閲覧数:865

この作品を評価する

「今回の記事は事実なんでしょうか」
 冒頭からいきなり核心に迫られ、わずかに面食らった。だがここで嘘を重ねても余計にややこしくなるだけだと思ったので、潔く「事実です」と認めた。
「おぉ」
 記者たちからどよめきがあがる。フラッシュの量も一気に増えた。
「アイドルが恋愛してはいけないんでしょうか」なかばケンカ腰で逆に質問してやった。
「ファンの方々に申し訳ないとは思わないんですか」
「何が申し訳ないんですか」
「いや、何がって……」質問してきた記者が口ごもる。
「まったく思いません。恋愛は個人の自由ですから」
「でも実際、ブログ炎上してますよね」
 たしかに先週の報道以降、コメント欄は心無い書き込みで溢れ返っていた。アイドル失格、あばずれ女、金返せ等、罵詈雑言の大合唱だ。でも、これまでファンの前で純潔を誓ったことなど一度もないはずた。向こうが一方的に好きになって自発的に応援してきただけであって、彼らとて、いつか私と本気で付き合える日が来ると信じていたわけでもあるまい。
「そんなの知りません。ファンだって、私が幸せなほうがいいに決まってるじゃないですか」
 だから正直に言った。またネットで叩かれるかもとよぎったが、あとには引けなかった。
「それは傲慢すぎるでしょ」
「感謝の気持ちはないんですか」
「アイドル以前に人としてどうなんだ」
 会場が一気に荒れてきたのですかさずマネジャーが飛び出してきた。「すいません。今日の会見は以上です」と早口で言うと、腕を引っ張って連れ出された。まだ言いたいことは山ほどあったが、とりあえずこの場から逃れられてほっとした気持ちもあった。
「そこに座れ」
 楽屋に押し込まれると、マネジャーが血相を変えて怒鳴りつけてきた。「友達で通せって言っただろ」
「嘘はつきたくありません」
 毅然と言い切った。人一倍気が強くなければ、この世界ではやっていけない。
「お前はアイドルなんだぞ」
「アイドルは恋愛しちゃいけないんですか」
「当たり前だろ」
「何でですか」目を剥いた。「アイドルだって人間です」
「それじゃ商売にならないんだよ」マネジャーが頭をかきむしる。
「勝手なこと言ってる奴なんて放っとけばいいじゃないですか」
 ごく一部の人間が、勝手に妄想を膨らませて勝手に傷ついているだけだ。本当のファンなら、幸せそうでよかったと笑顔で祝福すべきじゃないのか。
「これでもか」
 マネジャーがタブレット端末を押しつけてきた。画面を見てみると、細かい数字がたくさん並んでいて、その中のひとつがものすごい勢いで減っていた。
「何ですか、これ」
「ファンクラブの管理画面」マネジャーが吐き捨てる。
「うそ」
 血の気が引いた。数字が減っているのは、会員数の欄だった。昨年末、ずっと目標にしてきた一万人を突破し、皆で涙を流して喜びあったばかりなのに、千人を割り込もうとしている。
「どういうことですか」
「先週から退会の電話が殺到してるんだよ」
「止めてくださいよ」
「自分でまいた種だろ」
「そんな……」
 慌てて自分のスマホを取り出した。デビュー当時からついているファンの私設サイトをチェックしていく。だがそれらも軒並み、トップ画面に「本日を持って閉鎖しました」と掲げているものばかりだった。中には、「しょせん三流だった」「そのまま消えちまえ」などと捨て台詞を吐いているものまであった。
 怒りで震えた。あろうことか涙までにじんできた。
「ふざけんな」
 スマホを壁に投げつけた。モニターに大きなひびが入り、小さな部品がいくつか飛んだ。「一生応援するって言ってたじゃない」
 とんでもない裏切り行為だと憤った。こんなファンしかつかなかった自分が、心底不憫に思えた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン