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Fujikiさん

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16/09/04 コンテスト(テーマ):第116回 時空モノガタリ文学賞 【 裏切り 】 コメント:0件 Fujiki 閲覧数:1382

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ニライ・カナイ
「下手くそ」はともかく「死ねばいい」とか、何様だろう?

名無しのくじら
見てきた。確かにひどいね、あれ。

ニライ・カナイ
批判には慣れてるけど、一方的に名指しで中傷されるのはやっぱり不快だな。

名無しのくじら
大丈夫。カナイちゃんの実力に嫉妬してるだけだろうから、気にしちゃダメ。

 「名無しのくじら」こと霧斗がそう書き込むと、即座に「ありがとう」というカナイのレスがついた。リアルタイムで卓球のラリーみたいにレスのやりとりをしていると、相手の表情や声の調子まで頭に浮かんでくる気がする。まるで物理的な隔たりを超越してカナイと理解しあえたかのようだった。だからこそ別のアカウントを作って中傷の書き込みをしているのが自分であるという事実が、霧斗には後ろめたく思われた。親友を密かに裏切っているような気分だった。
 親友という表現が不適切なのは理解していた。カナイの電話番号やメールアドレスはおろか、本名さえ知らない。親友でなければ、友人だろうか? それとも知り合い? でも霧斗の中で一番しっくりくるのは親友という言葉だった。今の彼にはカナイ以外いなかったからだ。
 高校を卒業した途端、美術部の友人たちとは会わなくなった。SNSではつながっていたものの、たまに「いいね」を交換するだけである。それぞれの進路で人間関係を広げた彼らは、高校の同級生のことなど靴箱にしまった上履きと一緒に忘れてしまったらしい。
 霧斗にも予備校で知り合いが何人かできたが、高校時代の友人のように腹を割って話せる相手には出会えなかった。予備校の連中は周囲に対して強い警戒心を抱いている印象を受けた。「不合格」という拒絶を体験したことで、再び自我を傷つけられることのないように用心深くなったのだろうか。もちろん霧斗も、以前のような無防備さと世界に対する根拠のない信頼は既に失っていた。
 霧斗はコンクールに絵を出品したこともあったが、一度落選した後は応募すらやめてしまった。その代わり、ネットをする時間が増えていった。リア充自慢が苦しいフェイスブックはほとんど見ない。ツイッターはリアルのつながりがある本名のアカウントとは別の、架空の名前で登録したアカウントを使うことが多かった。ニュースのコメント欄や掲示板では使い捨てのアカウントを作り、リアルの友人の前では口にできないような本音を吐いた。英語のaccountには「責任」という意味もあると高校で習ったが、作ったアカウントの数だけ言葉の責任から自由になれた。
 カナイと知り合ったのは、とあるイラスト投稿サイトだった。作品は常に高評価でランキングにも常連の人気ユーザーである。カナイが得意とする思春期の少女のイラストは陰影を効果的に用いた繊細なタッチで描かれ、はっとするほど美しかった。作品の孤高な雰囲気とは対照的にSNS上のカナイは親しみやすいタイプで、霧斗のような無名のフォロワーの発言さえも無視しなかった。何度かメッセージを交換しただけですぐに親密になれた。そう、まさに親友のように。
 でもファンが大勢いるカナイからすれば、霧斗はただのフォロワーの一人に過ぎないだろう。霧斗が自信作を投稿しても等閑に付されたが、カナイが新作を発表するといつも多数の感想を集めた。カナイと他のユーザーたちの楽しげな対話が延々と連なるコメント欄を見るたびに霧斗はやるせない気持ちになった。
 カナイが描く少女たちは大人と子どものあわいで時を止め、未来への期待と不安を瞳にたたえている。高校卒業後に霧斗を待ち受けていた、喜びも絶望もない凡庸な毎日を彼女たちが知るはずもない。才能を何一つ持たない人間が無為に過ごす日常の哀しみを理解できるわけがない――霧斗の中で膨らむ悪意には、別アカウントというはけ口が必要だった。
 霧斗のスマホに、珍しくSNSから通知が入った。「盲目ナイフ」というアカウントから「名無しのくじら」宛てのツイートである。あり得ないことだった。「盲目ナイフ」はカナイの悪口を書くために霧斗自身が作ったアカウントだったためだ。

盲目ナイフ
@名無しのくじら 自分の口で物も言えないなんて、結局臆病なだけだろ?

名無しのくじら
誰、あんた?

盲目ナイフ
俺はお前だ。お前が勝手に憎んでるカナイもお前だ。ネットでお前が知ったつもりになってる他人は、結局みんなお前自身の投影に過ぎない。会ったこともない相手を理解できるなんて、ただの幻想だ。

名無しのくじら
どういう意味だよ?

盲目ナイフ
お前は決して誰にも出会えないし、自分の居場所も見つからない。言葉の責任から逃れたつもりになれるのは、誰もお前の言葉を本気で受け止めていないからだ。ネットは現実が怖い人間の避難所ではない。

 乱暴に電源を切ったスマホの画面の暗闇には、怯えた顔が映っていた。


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