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上村夏樹さん

はじめまして、上村と申します。 公募に挑戦するワナビです。突発的にショートショートを書きたくなる面倒くさい生き物。 最近、初めて買って読んだ詩集で泣きそうになるという、やはり面倒くさい生き物。 物書き、そして読者のみなさん、よろしくお願いします!

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痕跡本に想いを

16/09/04 コンテスト(テーマ):第117回 時空モノガタリ文学賞 【 本屋 】 コメント:2件 上村夏樹 閲覧数:1121

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「あぁー! この本、マーカーで線が引かれてる!」
 お客さんのいない店に、私の声はよく響いた。
 ここは古書店『文撃堂』。私のアルバイト先だ。
 私が怒っている理由。それは本棚に並べようと思った単行本に、マーカーで線が引いてあったことだ。これじゃあ商品にならないから、廃棄しないといけない。
「千佳ちゃん。声大きい」
 注意してきたのは同じ高校に通っている琢磨くん。年下のくせにタメ口をきく生意気なヤツだ。
「琢磨くん、これ見てよ。この経済の本に線引いてある」
 本を見せると、琢磨くんは「お」と小さく呟いた。
「これ、痕跡本じゃない?」
「コンセキボン?」
「千佳ちゃん、古書店勤務なのに知らないの? ぷーくすくす」
「う、うっさいなぁ。私は本に興味ないもの」
 琢磨くんはいつも私をからかってくる。もう。私のほうがお姉さんなのに。
「で、痕跡本って何?」
「書き込みとかで、前の持ち主が使った痕跡が残された古本のことだよ。その痕跡には前使用者の想いが眠っていることもある」
「ただの落書きじゃん」
「……ふぅ」
「ちょっと! やれやれ顔しないでくんない!?」
 可愛くない! ほんっとに可愛くない後輩だ!
「いいかい、千佳ちゃん。線が引かれている単語に注目して」
 言われたとおり、線が引かれている単語を拾っていく。
 西洋史、経済、財政、統計……この四種類の単語に線が引かれていることがわかった。
「これがどうしたの?」
「見覚えない?」
「えっと……あ、本の分類!」
 文撃堂では、単行本はジャンルごとに分類されている。四種類の単語はその分類されたジャンルに当てはまる。
「よくできたね、千佳ちゃん。えらいえらい」
「えへへ……って子ども扱いするな!」
 年上! 私、年上だから!
「千佳ちゃん。その単語をCコードに変換して」
「Cコ―ド? 急にギターの話?」
「……説明するね」
 琢磨くんに可哀そうな人を見る目をされた。くそぅ、いつかぎゃふんと言わせてやる。
「Cコードっていうのは、図書分類コードと言われる4桁の数字のことだよ。本の裏表紙を見てごらん。定価の上にCの文字と4桁の数字があるでしょ?」
「これがCコード?」
「うん。1桁目と2桁目の数字にも意味があるんだけど、今回は無視して3桁目と4桁目に注目して。この二つの数字はセットで本の内容、つまりジャンルを示している。例えばコミックは3桁目が7、4桁目が9なんだけど、この『79』という数字はコミックの分類コードなんだ」
「へぇ。この痕跡本の後ろ2桁は33……経済の本みたいだけど、33は経済?」
「うん。33は経済、財政、統計のジャンルだよ」
「あ……それってマーカーの単語!」
「ちなみに西洋史は22。厳密に言うと外国の歴史って分類だけどね」
「じゃあ、22と33という数字に、前の持ち主のメッセージが隠されているの?」
「たぶんね」
「で、なんてメッセージ?」
「少しは自分で考えなよ……」
「えへへ。考えるの苦手なんだもん」
「だろうね」
「おい」
 自分で言うのはいいけど、他人に言われると腹が立つ。
「千佳ちゃんにヒント。五十音の表を思い浮かべてみて」
 五十音。ひらがなのあれか。
 五十音表は横に十行、縦に五段。右から縦にあいうえお順に並んでいる。
 表と数字が関係しているとすれば……。
「わかった! 行と段にCコードを当てはめるんだ!」
 22という数字を十の位の2と、一の位の2に分解し、それぞれ行と段に当てはめる。2行目は『か行』。2段目は『い段』――22は『き』に変換できる。
「正解。33は?」
「3行目は『さ行』。3段目は『う段』だから……『す』だ。『き』と合わせると……『好き』?」
「そういうこと。前の持ち主が好きな子に宛てたメッセージかもね」
「回りくどいなぁ。直接好きって言われたほうが嬉しくない?」
 そう言うと、琢磨くんむすっとした顔で私を睨んだ。
「え、怒ってる?」
「べつに。千佳ちゃんのばか」
「な、なにさぁ!」
「俺、休憩行ってくるから」
「あ、ちょっと!」
 琢磨くんはスタッフルームに引っ込んでしまった。
 急に怒るとかなんなの? もう! 琢磨くんこそばーか!
「でも、私の謎解きに付き合ってくれたり、意外と優しいのかも……もう少し可愛げがあればなぁ」
 何気なく痕跡本をぱらぱらとめくる。奥付のページで私の手は止まった。
 心臓がとくんと脈打つ。ほっぺが、かあっと熱を持った。
 余白のページに「琢磨から千佳ちゃんへ」とペンで書いてあったのだ。
 この本の持ち主は琢磨くんなの……?
「な、なななっ……!」
 こんなの、不意打ちすぎる。
 彼が休憩から上がってきたら、どんな顔をして会えばいいのだろう。
 静かな店内で、私の鼓動だけが耳朶を打つのだった。


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このストーリーに関するコメント

16/09/19 クナリ

かわいらしくも専門的で、彼なりの個性のある謎解きでの告白ですね。
うんちくで終わるのではなく、ストーリーに落とし込まれているのがよかったです。

16/09/19 上村夏樹

>クナリさん

コメントありがとうございます!

痕跡本の解読は根拠が薄いですからね。身もふたもないことを言ってしまえば、妄想みたいなもので、いい感じに言い直すとロマンなんです。琢磨なりのロマンチックな告白なのでしょう。そういうことにしておいてください。

ストーリーに落とし込むのは大変でした。掌編で書くネタにしては説明が多くて……。

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