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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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本を失った店内

16/08/30 コンテスト(テーマ):第117回 時空モノガタリ文学賞 【 本屋 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:772

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 夜の7時、小池本屋の2階に魚屋の宮城と八百屋の福長が、椅子に座って待っていた。小池は部屋の冷房のスイッチを入れてから、宮城と福長と向かい合うように椅子に座る。
 八百屋の福長が言う。「もう、どんだけ頑張ってもショッピングモールには勝てない。あんなのができたせいで、商店はめちゃくちゃですよ」
 小池は福長の言葉に黙って頷きながら、1年前の谷町商店街の賑わいを懐かしく思った。
 谷町商店街は全長80メートル程のアーケード型の商店街で、20店舗の店が軒を連ねていた。小池がやっている小池本屋は、近隣に本屋が無いこともあって、子供からお年寄りまで利用客が多かった。そんな順風満帆な商店街に影を落としたのは1年前のことだった。商店街から車で10分程の距離に、大型ショッピングモールができたからだ。
 建設中は商店街の誰もがそれほど危機感をもっていなかったが、建設が終わり店がオープンすると、商店街の客のほとんどがショッピングモールに持って行かれてしまった。1年が経過した今、20店舗あった商店街の店は、小池本屋と魚屋、それに八百屋だけの3店舗しか残っていない。
 閉店していった店の誰もが、ショッピングモールのせいだと言って、去って行った。小池は20年近く商店会長を任されていたが、みんなの言う通りだと思っている。大型ショッピングモールは、街のコミュニティを一瞬で破壊した。時代の流れがそうさせてしまうのは分かってはいたが、利益のために街の秩序や構造を壊してしまう経営の仕方だけは、どうしても腑に落ちずにいる。
「小池会長さん!」
 宮城に呼ばれて、ハッとする。
「ごめん、ちょっと考えごとしてた。何?」
「俺たち、どうやって店を続けていったらいいんです?」
 会合を開くと何度となく質問されることだ。
「いろいろ考えたんだが、大型店にはできないサービスをしたらいいんじゃないかと考えたんだ」
「例えば、何ですか?」福長が聞く。
「例えば、営業時間を朝の5時から夜の9時までやってみるのはどうだろう」
「そんな時間に店を開けていて、客くるんですか?」
「分からない。でもやってみないと結果は分からない」
「会長、1つ提案したいことがあるんですが?」
「何?」
「裁判に訴えてみてはどうですか?」
「うーん。裁判に訴えると言っても、別にショッピングモールは何も悪いことはしてないからな……」
「でも我々の仲間を廃業に追いやったじゃないですか」
「たぶん、裁判に訴えても勝てないよ」
「じゃあ、どうすればいいんです? このままじゃ、俺の店も廃業するしか方法がないです」
 3人の間に、しばらく沈黙が流れた。

 翌週の土曜日の夜7時、3人は小池本屋の2階で会合を開いていた。
「それ本当なんですか?」福長が驚いた声を上げる。
「あの狸ジジイ、とんでもねえ奴だ!」宮城は目を吊り上げて言った。
 小池は事実を2人に伝えた後、あす和山の家に話し合いに行こうと2人に持ち掛け、この日の会合を解散した。
 深夜11時、晩酌をしていると電話が鳴った。妻の町子から八百屋の福長さんからだと言われ電話に出ると、気の焦ったような口調で福長が話す。
「どうした?」
「宮城さんが、あの野郎を包丁で刺したんです!」
「えっ! 誰を?」
「和山ですよ! 町議会議員の!」
「何でそんなことしたんだよ!」
「会長の話を聞いて、カッとしたんじゃないでしょうか」
 小池は眩暈を感じ、受話器を耳に当てたまま床に崩れ落ちた。
 先ほどの会合で、和山の事を話すんじゃなかったと後悔した。2年前まで和山は商店街で酒屋をやっていた。商店街の会合に参加しないことから、和山は商店街では孤立していたが、2年前に町議会議員に立候補し当選した。その和山が大型ショッピングモールを谷町商店街の近くに誘致したのを、最近になって小池は知った。だからその事実を今日の会合で宮城と福長に伝えたのだった。
 小池は、宮城の性格を考えずに言ってしまった自分を責めた。
 数週間後、包丁で刺された和山は一命をとりとめたそうだ。和山の悪知恵と宮城の殺人未遂について小池は考えた。両者とも恨みを心の中で消化することができない人間だったのだろうと思う。恨みは人間をダメにする。
 小池は本が全て無くなった店内を、不思議な気持ちで眺めた。本が好きだった子供時代の夢は、本屋さんをやること。大人になって夢を叶えることができたが、本屋を営むようになってからは、本を読まなくなった。本が売れない日があると、本が憎たらしく思うようになったからだ。
 突然、店のドアが開き子供は入って来た。
「あれ? ジャンプありますか?」
「ごめんね、もうお店やってないの」
 がっかりしたような子供の背中を見送りながら、小池は本をもう一度好きになろうと思った。本を失った店内は異世界に思えた。
  


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