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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

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古本屋での決闘

16/08/30 コンテスト(テーマ):第117回 時空モノガタリ文学賞 【 本屋 】 コメント:0件 海見みみみ 閲覧数:1013

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 世の中にはレアな本を安く買い叩こうという悪質な古本屋が存在する。そこに本を高く売ろうとする客が現れた時、古本屋は決闘の舞台になる。

『亜久慈古書店』はそんな悪質な古本屋の一つだった。
「買い取り金額五十パーセントアップの券を持ってきたんですけど、使用できますか?」
「もちろんですよ」
 亜久慈古書店の店主が笑みを浮かべる。
 それからすぐ古本の査定が始まった。
「こちら、百点で一冊あたり十円。合計千円ですね。それにサービス券の分を追加して千五百円です」
「えっ、たったそれだけ?」
「査定の結果ですので。ちゃんと金額は五十パーセントアップしているでしょう?」
「そうですね。ではこれで売ります」
 店主がニヤリと笑う。
 サービス券のまき餌をして、カモを引き込む。これこそが亜久慈古書店の手口だ。
 ちなみに買い取った本は一冊百円、高いものになると千円で販売される。まさにぼろ儲けだった。

 その日、亜久慈古書店に大きなカバンを抱えた青年が現れた。
「これを売りたいのですが」
 カバンを机の上に置き、開ける。
「ほう、随分古い本ばかりですね」
「祖父の遺産でして。祖父は遺言で、自分の蔵書は全て売って欲しいと」
「なるほど」
「こう言ったらキレイごとに聞こえるかもしれませんが、この蔵書は祖父が歩んできた人生の証し。一円でも高く売ることが、祖父に報いる行為だと思うのです」
「承知しました」
 そう応え、店主が査定を始める。
「どれどれ、おや、この本は背やけですね」
「背やけ?」
「表表紙と比べて、背表紙が光によりやけて変色している。そのため一冊十円となります」
「そうですか」
 青年が落ち込む。
 その後も厳しい査定が続いていった。
「これはシミ、こっちは年代落ち、そちらは書き込みがありますね。どれも十円です」
 こうして査定が終わる。青年の持ってきた本は全て十円だった。
「合計して百冊で千円ですね。よろしいですか?」
「そうですね。あっ、あと一冊忘れていました」
 そう言って青年が懐から本を取り出す。それを見て店主の目の色が変わった。
「それは!」
 青年から本を受け取り、丁寧に確認する。手塚治虫の新宝島、それも初版の美本。コレクターの間では一冊五百万円で取り引きされているレアな古書だ。
 店主は興奮を悟られぬよう平静を装う。
「うーん、古い本ですね。五年以上前の本ですから年代落ちで十円でしょう」
 店主は大胆にも五百万円する本に十円の査定結果を出した。
「手塚治虫の本ですよ。それなのに十円ですか?」
 しかし青年が今までと違い、食らいついてくる。店主は少しだけ譲歩する事にした。
「そうですね、手塚治虫の本ですし百円でいかがですか?」
「本当に百円?」
 青年が迫ってくる。
「確かテレビ番組で、新宝島は高いと聞いていたのですが」
 こいつ、その事を知っていたのか。店主は唇を噛みつつも笑顔で応対した。
「……そうですね。よくぞご存知で。実はこの本、大変貴重な品なのです。お客様にはお詫びの意味も込めて十万円で買い取らせていただきましょう」
 店主は一見すると大金とも思える査定結果を出した。しかしこの本の相場からしたら、ありえない金額だ。
「十万円ですか! それはありがたい」
 青年はようやく納得した。店主は安堵のため息をつく。

「でもこの本、本当は五百万円しますよね?」

 だから青年がそう口にした時、店主の目は見開かれた。
「どうしてそれを」
「ちゃんとした信頼性のあるサイトの記事に書かれています。これがウソと言う事はないでしょう」
 青年がスマートフォンで一つのサイトを表示する。そこには新宝島の相場が書かれていた。青年は始めからこの本の価値を知っていたのだ。
「そ、それでは五百万円で買い取り致します」
「それなら他の古書店に行きます」
「じゃ、じゃあ五百五十万円!」
「六百万円」
 青年の静かで、それでいて力強い言葉。
 投資として考えれば六百万円は悪い値段じゃない。店主は覚悟を決めた。
「それでは六百万円で買い取り致します」
「ありがとうございます」
 こうして買い取りは成立した。まるで決闘のような買い取りだったと、店主は汗を拭う。
「ところで」
 そう口にすると、青年は一枚の紙を取り出した。
「こちらの券を使えば買い取り金額が五十パーセントアップするんですよね?」
 青年が取り出したもの。それは客を引き寄せるまき餌として作ったあのサービス券だった。期限は切れてないし、規約にも違反していない。
 六百万円の五十パーセント、つまり三百万円。それを追加して店主は支払わなければならない。
「あっ、ああ……」
 店主は目を回しその場に座り込んだ。
「これで祖父も喜ぶ事でしょう」
 青年が微笑む。
 こうして今度こそ決闘に決着がついた。


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