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杏花さん

こんにちは、杏花(きょうか)と申します。小説は始めて3年程です。少しでも皆様に楽しんでいただけたら、と思います。

性別 女性
将来の夢 常に自分らしい創作をする。あわよくば評価される!
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妄想幽霊

16/08/29 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:0件 杏花 閲覧数:712

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「ただいま」
「おかえり」
間髪入れずに返事をする彼は、幽霊だ。名前は優。私が名づけた。
「夕飯考えよっか」
「うん」
まるで同棲5年目のような、淡々とした落ち着く会話。彼は、気がついたらいつもそばに居た。365日ずっと傍にいるから、ずっと働いている親よりも近い存在な気がする。
「優、何食べたい?」
「煮物」
「いいよ、作ってあげる」
「やった」
淡々と話す割に、時々子供っぽく喜ぶところが、可愛くて好きだ。今の高校を見ても、こんな男の子はいない。見ていて、側にいて楽しい。いつの間にか傍に居たけれど、心がすごい休まる。

「杏里、それ酒の分量じゃない」
「あっ、危ない」
「みりん、入れた?」
「やばいまだだ」
「ゆっくりでいいよ」
一人の時は料理が大嫌いだった。要領が悪くていつも失敗するからだ。でも今は優がサポートしてくれるから、大好きになった。
「よし、できた」
いい感じじゃん、そう優が褒めてくれて、嬉しくなった瞬間、玄関がガチャガチャと騒がしくなる。
「あー、いい匂い!ただいまぁ!」
ああ、最悪。帰ってきやがった。
「……おかえり」
「何、これからご飯?私の分もお願い」
「違う。もう食べてきた。……食べていいから。ちょっと出かけてくる」

母の止める声が聞こえた気がするけれど、気にしなかった。飛び出して、近くのボロい社宅の屋上へ駆け上がる。私の安心出来る空間。
「……ごめん」
「いいよ」
「楽しい時間だったのに」
別に悲しくないのにボロボロ涙が落ちてくる。どんどん辛くなって、息が荒くなる。静かに優が背中をさすってくれた。夜風が気持ちいい。優の温もりが心地よい。アスファルトが冷えてて愛おしい。泣きつかれて、目をつむってその場に静かに倒れる。
「……優ってなんで生きてないの」
「幽霊だから」
「なんで幽霊なの?」
それを聞くと黙ることは知っていた。……優は、幽霊じゃない。簡潔に、残酷に言うと私の都合の良い妄想だ。父さんと母さんが喧嘩したとき、怖いとき、痛いとき、悲しい時、愛して欲しい時、誰かそばにいて欲しい時…………誰も傍にいなかった。

「妄想……」
「うん、そう、俺は杏里がいないと存在できない」
「私の妄想だから……」
横になる私の手をそっと握って、上からギュッと抱きしめてくれた。そうして欲しい、なんて思ってないのに優がそう動くってことは、私今、そうしてもらいたいのかな。

「いつか杏里が大切な人を見つけた時、俺は消える。……それまで一緒に生きて欲しい。傍に居てくれ」
ここに来ると、優がいつも言う言葉だった。
この屋上の鍵が壊れてることを知って、優の静止を振りきって一回本当に飛び降りたことがある。目が覚めたとき、母の言葉より、父の言葉より、医者の言葉より救われた言葉。まるで自分の孤独を形にしたような、優の寂しそうな顔。
「私達、本当に寂しがり屋」
「そうだね、依存しあってる」
「優が居ないと、私死ぬわ」
「杏里がいないと、俺も消えちゃう」
クスクスと私の笑い声だけが反響する。

結局この日はネカフェとファミレスと深夜徘徊で一日過ごした。親の側にいると、優と会話できない。それにまた色々文句を言われて心が傷つけられるなら、私は優に叱ってもらった方が、成長できる。
「これって、ある意味自分を見つめるってことなのかな」
「なに?」
「優って、私の鏡みたいじゃない」
「まあ、そうなのかな」
「じゃあ優を見てれば、欠点も伸ばしたりできるわよね」
「現に料理と国語の点数は上がってる」
海を見ながら、二人でのんびり話していた。
あれ、そういえば、国語、私大嫌いだし苦手よね。なのに、優のアドバイスや指摘で分からないところが解けてる。……妄想なら、自分の分からないことは分からないはず。じゃあやっぱり優って人格を持った幽霊?
「うーん、難しい」
「なんの話?」
「優の存在の話」
「簡単、簡単」
私を後ろからぎゅっと抱きしめて笑いながら「杏里が大好きな幽霊!」なんて言って笑った。
「やだ、もう」
二人で笑いながら、のんびり浜辺を歩いていく。こんな素敵な子が居るなら、幽霊でも妄想でもいい。幸せだから。


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