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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

性別 男性
将来の夢 プロ小説家になること!
座右の銘 焼肉定食!

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本屋コンシェルジェ

16/08/29 コンテスト(テーマ):第117回 時空モノガタリ文学賞 【 本屋 】 コメント:1件 海見みみみ 閲覧数:1091

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「どんな本でもお探しいたします。世界中、ありとあらゆる本をお客様の元に」
 東京の一等地にある、日本一広い本屋『大東京書店アルカディア』。
 ここには人間の店員は一人もおらず、全てロボットが管理している。中でも評判のロボットが、聞かれればどんな本でも探し出す、本屋のコンシェルジェ『コン一号』だ。

「確か江國香織の本で、タイトルに色の名前がついてて。最後男女が心中して終わる小説なんですが、わかります?」
 店頭でお客さんがコン一号に探している本を尋ねていた。するとコン一号は素早く検索を開始し、十秒後にはその本を見つけ出す。
「小池真理子著作の『瑠璃の海』でございます」
「おお、この本だ! 小池真理子と江國香織を勘違いしていたから見つからなかったんだな。ありがとう」
 お客さんは喜んでコン一号にお礼を言うと、そのままレジに向かう。この通り、コン一号は本屋のコンシェルジェとして大活躍していた。

 その日、コン一号の元に一人の男が現れた。逆立った髪の毛に鋭い目つき。何より左手の小指がない。その筋の人間である事は一目でわかった。
「冬ヶ崎大十郎の本で、イギリスを舞台にした小説。ヒロインの名前はあずさで、最後主人公が背中を刃物で刺されて終わる。途中でトンカツとカツレツに関するウンチクが出てくる本を探している」
 男がそれだけ検索条件を述べる。コン一号は「かしこまりました」と答え、検索を開始した。
 この男が口にした本、実はこの世に実在しない。テキトーにでっち上げた本だ。
「どんな本でもお探しいたします。世界中、ありとあらゆる本をお客様の元に」をキャッチコピーにしている『大東京書店アルカディア』が誇るロボット、コン一号が本を見つけられなかったら大問題だ。
 男はそれでクレームを入れ、金を脅し取るつもりでいた。
 コン一号の検索が十分経っても終わらない。男はそろそろクレームを入れる良いタイミングだと思い、声を荒げた。
「おいおい、本一冊探すのにどれだけ時間かけているんだよ!」
「申し訳ありませんお客様。必ず本を見つけ出しますので」
「本当にお前みたいなポンコツで探し出せるのかよ!」
 男がコン一号に蹴りをいれる。周りに居た客達は、面倒ごとに巻き込まれないようにとその場から離れていった。対してコン一号はロボットらしく、動揺する様子を一切見せない。
「お客様、一つお知らせがございます」
「おう、なんだ言ってみろ」
「お客様の提示された検索条件は非常に曖昧で難しく、私一人では見つけ出すのが困難です」
「つまり、本は見つからなかったという事か!」
 でっち上げた本だから見つかるわけが無いのだけど。男はいよいよ狙った通りだと、調子に乗り始める。対してコン一号は冷静だった。
「それは違います。これから私は世界中のコンピューターに接続し、データベースからお客様の本を必ず探し出します」
「まだ探そうって言うのかよ。それで時間はどれだけかかるんだ」

「最低十年はかかるかと」

「じゅっ!?」
「ご安心ください。お客様には我々が暮らす地下室にてお待ちいただきます。快適な環境ですよ」
「快適って、ロボットにとってはだろう! それに、俺は十年も待て……」
「大丈夫です。何十年かかろうとも、お客様の要望された本を探し出してみせます」
 コン一号が合図をすると、扉からガードロボットが二体出てきた。ガードロボットが男を両脇からガッチリ取り押える。
「お客様を地下室へ」
「カシコマリマシタ」
 ガードロボットがそのまま男を連行しようとする。
「待ってくれ! 実は俺の検索した本はでっち上げ、この世に存在しないんだ。だからいくら検索しても、本は」
「お客様、我々を信用してください。そんなウソをつかれなくても、必ず本を見つけ出してみせますから」
 ガードロボットが再び動きだす。
「嫌だ! 誰か助けてくれー!」
 しかし周りには客がいない。他にいるのは、ロボットだけだ。男はガードロボットの手により連行されていった。

「高校生が主人公で、確かサッカーが好きだったと思う。とにかくその主人公がカッコよくて。ちょっと古い本なのだけだ、タイトルが現代のライトノベルみたいな……」
「山田詠美著作の『ぼくは勉強ができない』ですね」
「この本です! よかった、探してたんだ。ありがとうございます」
「お客様に喜んでいただけて光栄です」
 今日もコン一号はお客様の要望に応え、本を検索し、職務を果たしている。そのバックグラウンドで、あの男が提示した架空の本を検索しながら。


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このストーリーに関するコメント

19/02/03 雪野 降太

拝読しました。
曖昧な情報でも目当ての本を見つけ出してくれるロボット……羨ましいですね。レファレンスサービスの目指すべき到達点なのかもしれません。それにしても御作のロボットはどのようにして「存在しない本」を見つけ出すのでしょうか? 無いのなら作るしかない、という創作思考が生まれた時、ロボットの新しい時代が来るのかもしれませんね。
読ませていただいてありがとうございました。

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