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佐々々木さん

性別 男性
将来の夢 何も決まってません。
座右の銘 Whats the worst that can happen?

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永遠に覚ゆ

16/08/29 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:0件 佐々々木 閲覧数:1210

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 覚えていますか?
 私とあなたの家は近所で、小さい頃からよく遊んでいましたね。私はとてもやんちゃで、あなたは大人しい子供でした。小学生2年生のとき夜遅くに、といっても21時頃でしたが、近くの神社で肝試しをしましたね。神社までの暗く長い階段は確かに不気味ではありましたが、大して怖いものとは思えませんでした。幽霊なんていないよ、と言う私に対して、とても怯えていたあなたを覚えています。家に帰ったときの母の顔のほうがよっぽど怖かったです。
 覚えていますか?
 高校一年生のとき私たちは付き合い始めました。喧嘩をすることもたまにはありましたが、それはとても小さな事ばかりで、数日経てば笑い話になったものです。いえ、あなたが笑い話にしてくれていたのでしょうか。いつもわたしが意地を張っていただけな気もします。あなたの顔を思い浮かべると、どんなときでも笑顔なのです。
 覚えていますか?
 半年前、私たちは結婚しました。あなたのプロポーズは本当に最悪でした。私が歯磨きをしながらぼうっとしているときに、後ろからふらっとやってきて、そろそろ結婚しようか、と言ってきたのです。私はおそらくこのときほどあなたに怒ったことはないでしょう。歯磨き粉の泡が飛ぶことも気にせず怒鳴りました。あなたは珍しくあたふたして、後日そのときの顔を思い出して私は一人で笑っていました。
 覚えていますか?
 先月の日曜日のこと、醤油を切らしていることを忘れていて、あなたにコンビニまで買ってきてもらうようにお願いしましたね。おっちょこちょいなところがあるな、とあなたに笑われ私は頬を膨らませましたが、あなたを余計笑わせてしまうだけでした。こんなふうに私がいじけても、あなたはそれを包み込むようにいつも笑っていました。むすっとしたふりをしながらも、そんなあなたが私はたまらなく好きなのです。あなたは急な買い物を面倒がることもなく、行ってきます、とコンビニに向かいました。毎朝聞いている、いってきます、という言葉を何気なく聞き、いってらっしゃい、と何気なく返しました。こんな会話がこれほど恋しくなるとは思ってもいませんでした。なぜ自分で買い物に行かなかったのかと私は永遠に悔いるのでしょう。
 あなたは交通事故で亡くなってしまいました。
 もし醤油をちゃんと買いに行っていたなら。
 もし自分でコンビニに行っていたなら。
 もしあなたを引き留めてもう少し話をしていたなら。
 こんなことを考えずにはいられません。結果論でしょうか。いくら考えても、自分自身を責めてもあなたは帰ってきません。わかっています。しかし、たとえそうであっても、関係ありません。
 私があなたを殺してしまったのです。
 あなたのいない家にはまだ慣れず、一人では何をしていいかもわかりません。永遠にも一瞬にも思える時間がただただ過ぎていきます。それほど私にとってあなたの存在は大きかったのです。小さい頃からどれだけあなたと一緒にいることで救われてきたでしょう。
 あなたともっともっと過ごしたい。
 今年の夏は海に行こうと私が言ったことを覚えていますか? あなたが泳げないことをからかおうと思っていました。あと、あなた好みの可愛い水着を買っていたんですよ。
 冬にスキーをしたい、と私が言ったことを覚えていますか? 冬はこたつに入ってゆっくりしようよ、とあなたは渋っていましたね。あなたとならそれはそれでいいかも、なんて思っていたんですよ。
 見たい映画があるから今度借りてくるよ、とあなたが言ったことを覚えていますか? 怖いものが苦手なあなたが、ホラー好きな私のためにいろいろ調べていたことを知っています。臆病なくせに優しいところは昔も今も変わりませんね。
 思えば、昔私はなんて残酷なことを言ったのでしょう。
 幽霊なんていないよ。
 こんなに悲しい言葉はありません。死んだあなたはどこに行くというのでしょう。あなたという存在が消えて無くなるとでもいうのですか。
 例え幽霊でもいい。あなたに会えたなら。あなたと話せたなら。
 きっとあなたは、「僕のことなんか忘れていいんだよ」「新しい人を見つけて幸せになって」と言うのでしょう。わかっています。その言葉は優しくて優しくて、しかしとても私には酷な言葉です。
 私があなたを一時でも忘れたら、あなたはこの世から確かに消えてしまうのです。
 私があなたを一時でも忘れたら、私はあなたをまた殺してしまうのです。
 幽霊なんていないよ、と言ってしまった私にできることは、あなたを想い続けることだけなのです。


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