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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

性別 男性
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裏切りの殺し屋と悪夢のスープ

16/08/27 コンテスト(テーマ):第116回 時空モノガタリ文学賞 【 裏切り 】 コメント:2件 海見みみみ 閲覧数:2269

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「この裏切り者」
 路地裏の一方通行。スーツ姿の男はそう口にすると絶命した。その目の前に立っていた青年、アルフは硝煙の立ち上る拳銃を手にしている。
「汚名ならいくらでも受けるよ」
 アルフは拳銃を懐にしまうとその場を後にした。

 一軒のくたびれたアパート。そこにアルフは帰ってきた。
「おや、アルフさんお帰りですか」
 アルフが自宅のドアを開けようとすると、アパートの管理人である老婆が声をかけてきた。
「なんだか煙の臭いがしますね。まるで銃でも撃ったような」
 含みのある老婆の言葉。アルフは無言で懐から紙幣を取り出し、老婆に渡した。金を受け取ると老婆はニタリと笑い管理人室へと戻る。
「またせびりやがって」
 愚痴りながらアルフが自宅に入る。
「アルフ? 誰?」
 自宅には最愛の恋人、キャミーの姿があった。
「待たせてごめん」
 アルフが手を取ると、キャミーは安心したように微笑む。キャミーは盲目の少女だった。

 この貧民街で生き抜くために、アルフはキャミーに黙って殺し屋の仕事をしている。ターゲットと親しくなり、信頼を得てから殺す。その事からアルフは裏切りの殺し屋と呼ばれていた。

「料理を作ったの。鶏肉のスープよ。今温めるわね」
「料理、大変じゃなかった?」
「煮込んで味付けするだけだもの。心配してくれてありがとう」
 キャミーが温めたスープを皿にすくい、テーブルに置く。
「君の分はいいのかい?」
「先に味見で飲んだから大丈夫」
 キャミーの手作りスープを目の前にして、アルフの顔は初めてほころんだ。
「アルフ、なんだか幸せそう」
「わかる?」
「雰囲気で伝わってくる」
 その一言にアルフは顔を赤くする。
 それからキャミーのスープを飲もうとスプーンですくい、まずは香りを楽しむ。
 だがその時、アルフの体に緊張が走った。毒の臭いだ。このスープから毒物の臭いがする。
 キャミーが毒を入れたのか。自分を殺すために? まさか、そんな事はありえない。
 だがその時、アルフは自分がやってきた事を思い出す。『ターゲットと親しくなり、信頼を得てから殺す』そうやってきた事が、今自分に対して返ってきたのだ。ただそれだけの事だとアルフは気づいた。
「どうしたの?」
 キャミーが不思議そうに問いかけてくる。これも演技なのかもしれない。
 ウソだと言ってくれ。そうアルフは心の中で叫ぶ。しかし現実にキャミーは自分を裏切った。そうじゃなければこの悪夢のような毒入りスープはなんだ。
 アルフはスプーンを置き、拳銃を手に取ろうとした。

『僕は君を絶対に裏切らないよ』

 その瞬間、脳裏に走ったのは初めてキャミーに愛の告白をした時の言葉だった。キャミーは盲目が故に今までたくさんの人に騙されてきた。
 だからこそ、自分はキャミーを裏切らない。キャミーを絶対に信じる。そうアルフはあの日誓ったのだ。
 その誓いを思い出し、アルフは覚悟を決める。
「僕は君を絶対に信じる」
「アルフ?」
「だからこのスープも喜んで飲むよ」
 アルフがスープを口にする。それから間もなく、アルフはイスから倒れた。
「アルフ? アルフ!」
 キャミーはなんとかアルフを手探りで探し、その体を揺すった。しかしアルフは動かない。
 キャミーは混乱した。こんな時どうすればいい。
 そこに玄関をノックする音が聞こえた。
「どうされました。何か物音が聞こえましたが」
 老婆の声。アパートの管理人だ。
「アルフが急に倒れたの! お願い助けて!」
「それは大変!」
 老婆がドアを開け、中に入ってくる。だが様子がおかしい。
「管理人さん?」
 老婆がケタケタと笑う。
 キャミーの目には見えない。老婆の手にはナイフが握られていた。
 老婆が一歩ずつ確実にキャミーへと迫る。目の前にまで迫ると、老婆のナイフがキャミーに襲いかかった。

 だがそのナイフは、一発の銃弾によって弾かれる。

「っ!」
 言葉を失った老婆に対し、そいつはニヒルな笑みを浮かべてこう言った。
「キャミーの事は信じる。だがあなたの事は信じないよ、管理人さん」
「アルフ!」
 そこにはアルフの姿があった。アルフは最初からスープは口に含んだだけで死んだフリをしていたのだ。
 キャミーがすかさずアルフに抱きつく。
「毒もあなたが入れたんだろう。キャミーが盲目なのを利用して。どこの差し金か知らないけれど、詰めが甘かったね」
 アルフの言葉に老婆は体を震わす。もはや逃げる事すらできない。
「あっ、ああ」
「キャミーは僕を裏切らない。それこそが正解だった。改めて学んだよ。それじゃあ、さよなら」

 銃声が一発、アパートに響いた。

 貧民街のアパートで管理人の老婆が射殺される事件が起きた。同時に住人である一組の男女も姿を消したが、その行方はわかっていない。


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このストーリーに関するコメント

16/09/10 クナリ

まさか彼女が……と思ったら、それさえもミスリードでしたか!
面白かったです。

16/09/28 光石七

拝読しました。
因果応報で彼女が……と思っていたら、見事などんでん返しと鮮やかな結末。
ハードボイルドな雰囲気があり、とても面白かったです!

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