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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

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裏切りの乱世〜信貴山城の戦い

16/08/25 コンテスト(テーマ):第116回 時空モノガタリ文学賞 【 裏切り 】 コメント:2件 あずみの白馬 閲覧数:3296

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【この物語はフィクションであり、史実、実在の人物とは一切関係ありません】

 天正五年(一五七七年)夏が近づき、茶が美味しい季節のある日、織田信長の家臣、松永久秀と明智光秀が茶の湯をたしなんでいた。
「このときが一番、気が休まるのぉ、光秀よ」
「全くですな。久秀殿」
 二人は一緒に束の間の休息を楽しんでいる。よく茶をともにする、いわゆる親友であった。話は主君である織田信長の愚痴へと移って行った。久秀が語り始める。
「しかし信長殿にも困ったものじゃ。気に入らない者はすぐに切り捨てるし、摂津にいた頃から噂は聞いておったが酷いものじゃ」
「はい。私も仕えて随分経ちますが、料理が気に入らないだけでお怒りになられたりで、落ちついて仕事もできません」
 信長は良くも悪くも自由人。永く務めた家臣であっても気に入らないことがあれば追放も辞さない。その一方で能力がある者は家柄などにとらわれずに家臣に取り立てる。型破りな人物であった。
 どうしたものか、と二人が思案したところで久秀が何か思いついたかのように口を開いた。
「ふむ……、かくなる上は謀反を起こし、信長を斬るしかあるまい」
 これには光秀も驚き、止めに入った。
「久秀殿! お気持ちはわかりますが、既にあなたは二度も謀反されております! いずれも赦されているとはいえ、今度ばかりはタダでは済みますまい」
「心配するな。ああ見えて信長殿は、武功を挙げた者には甘い。二度あることは三度ある。天下人になる好機……、はははは」
 光秀の助言などどこ吹く風と言った風情で、久秀は自分の命の次に大切にしている茶器『平蜘蛛』に茶を淹れて一気に飲み干した。そして光秀に続けた。
「お主もともに戦わぬか?」
 光秀はしばらく考えた後、
「お気持ちはわかりますが、今は機が巡ってはおりませぬ。せめて待たれるのがよろしいかと」
「そう、か。まあ無理強いはせぬ」
 光秀を誘ったが断られてしまった。これは案の定と言うところであろうか。

 その年の秋、久秀は信長についてから三度目の謀反を宣言すると、彼の居城である信貴山城に入った。難攻不落のこの城で、信長を迎え打つ算段だ。
 彼には勝算があった。越後の上杉謙信が上洛を目論んでおり、信長はそちらの対応もしなければならず、事実上のはさみ打ちに出来る。さらに石山本願寺、顕如の支援も得られたため、風はこちらに吹くと読んだのだ。

 ところが、頼みの上杉謙信が、現在の石川県にある七尾城まで来たところで、関東の北条氏政を警戒してか上洛を中止。顕如は鉄砲兵二百名を出してくれたが、それだけでは信長に対抗出来るものではなかった。
 勝機と見た信長は、家臣の佐久間信盛を差し向け、茶器『平蜘蛛』を出すなら命だけは助けると申し出た。
 久秀はその申し出を拒否、攻め入るのならこの茶器を壊すとまくしたて、あくまで戦争にこだわった。

 信長はこれに激怒し、本人こそ出ないものの、羽柴秀吉、筒井順慶、佐久間信盛、そして明智光秀ら、総勢四万の兵を結集させ、信貴山城に攻め入らせた。
 難攻不落と言われた城だけあって、久秀軍はわずか八千の兵しか無いが、信長軍は思わぬ苦戦。しかし筒井順慶のスパイであった森好久の策略により、顕如が出したはずの鉄砲兵が信長に寝返ると、一気に形勢は逆転。信長軍は久秀を打つのみとなった。

「謙信にも裏切られ、まさか好久が裏切るとはな……」
『平蜘蛛』を手に久秀は自分の人生を振り返っていた。信長を裏切り続けたツケがついに来たと、死を覚悟したその時、茶をともにした明智光秀がやってきた。
「久秀殿! どうか降伏してくだされ! 今からでもその茶器を出せば命だけでも助かるはずです!」
 しかし久秀はなんと屋敷に火を放ち、こう言った。
「自分の引き際ぐらい心得ている。わしは裏切りの人生を送って来た。力だけでは天下人にはなれぬと示すために、な」
「久秀殿!」
「だが命運も尽きたようじゃ。光秀よ、すぐ下がれ!」
 光秀があわてて下がったその時、久秀は体に巻いた爆薬に火がつき、そのまま茶器『平蜘蛛』もろとも粉々に砕け散ってしまった。

 かくして松永久秀は、六十年余りの生涯を閉じた。

 その五年後、明智光秀は【本能寺の変】を起こすことになる。彼の心の中には、久秀の想いがあったのであろうか、それは誰にもわからない……。


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このストーリーに関するコメント

16/09/08 冬垣ひなた

あずみの白馬さん、拝読しました。

『この平蜘蛛の釜と俺の首の二つは やわか信長に見せさるものかわ』、凄まじい辞世の句ですが、松永久秀の話は興味深いエピソードが一杯ありますね。私はこの話、テーマ「お茶」の時に断念したので、今回あずみのさんに書いていただけてすごく嬉しかったです。
信長を最後まで裏切った久秀の事も、光秀の胸中にあったかもしれません。あの世で二人語り合う、そんなことも考えてしまいました。

16/09/08 あずみの白馬

> 閲覧数注意 さま
こちらで自作自演は一切しておりません。貴重なご意見ありがとうございます。

> 冬垣ひなた さま
冬垣さんもこのテーマにチャレンジしていたのですね。書いていただいて嬉しいとのもったいないお言葉、ありがとうございます。
あの世で二人で語り合う二人……、そんな姿を想像してしまいますね。ありがとうございました。

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