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aloneさん

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幽霊の恩返し

16/08/22 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:0件 alone 閲覧数:942

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ピンポーン!
インターホンが鳴って確認しに行くと、画面には見知らぬ女が映っていた。
長い髪に白いワンピース。テレビなどでよく見る典型的な姿に、もしや幽霊では……という疑念が起こる。
無視しようか。でも、怒らせてしまうともっとヒドイことになってしまうかも。
恐るおそる応答ボタンに手を伸ばし、勇気を振り絞って押し込んだ。ピッという機械音に心臓が跳ね上がる。
スピーカーから外の音が流れ込んできた。ザァザァという雑音に混じり、声が聞こえてくる。
「あ、幽霊でーす!」
拍子抜けした。配達員が「郵便でーす」とでも言っている調子だ。
あまりの軽さにこちらも思わず答えてしまう。
「いま行きます」
言ったそばから後悔する。けれど今度こそ無視するわけにいかなくなった。居留守だったらまだしも、応答してしまったわけだし、行くとまで言っちゃったわけだし。
仕方なく玄関に向かってドアを開けた。そこにはやはりフィクションでよく見る幽霊の姿があった。
「先ほどはありがとうございました」
幽霊はハキハキとした調子で話すと、突然頭を下げた。ますます状況が分からない。
「ちょ、ちょっと待って。まったく意味が分からないんだけど」
え?と言って幽霊が顔を上げた。長い髪の間から顔が覗いたけれど、綺麗な顔をしていて安心する。傷だらけや腐りかけでなくて良かった。
「えっと……先ほど百円玉を拾いませんでした?」
唐突な質問に面食らったが、帰り道に落ちていた百円玉を拾ったことを思い出す。百円ぐらいなら届ける必要もないだろうと財布にしまったのだ。
もしやあの百円玉はこの幽霊のものだったのか? なら――
「ごめんなさい。すぐ返すんで憑いたり呪ったりするのは勘弁してください」
すぐさま謝り、財布を取りに行こうとする。
だが幽霊に呼び止められた。
「だ、大丈夫です! というより持ってこないでください!」
「え、どういうこと?」
「実はあの百円玉はある僧が落としたもので、それが偶然私のワンピースの裾に乗ってしまったんです。取ろうにも僧が知らず知らず清めてしまったらしく触れられなくて困っていたところを、あなたに助けていただいたというわけです」
欲に目が眩んだだけだけど、珍しいこともあるものだ。
「そういうわけで恩返しに伺いました!」
「恩返し?!」
一体何をしてくれるのかと期待していると、幽霊は勝手に家に上がり込んできて一番近くのドアに向かった。
「絶対に中を覗かないでくださいね」
そう言って幽霊はドアのなかに消えた。
ああ、鶴の恩返しパターンね。なんて馬鹿なことを思っていたが、ようやく気付く。
そこはトイレじゃないか……!

幽霊に呼びかけてみたが何の応答もなく、トイレを占拠されて三日が経った。
用は近所の公園のトイレで足したが、さすがに我慢の限界が来ていた。恩返しどころか何ひとつしてもらっていない。
「おい、幽霊! もういい! 開けるぞ!」
最後に呼びかけてみるが、やはり返答はなかった。
覚悟を決め、ノブを回した。カチャリと呆気ない音を立て、ドアはゆっくりと開いた。
次の瞬間――飛び込んできたのは、見渡す限りの観衆と、耳をつんざく歓声だった。
「おおっと! ここで耐え切れず四番がドアを開けてしまったァ!
 これによりただいまのレースの結果が確定。四番の記録は三日と五時間二十二分で、惜しくも二位!」
スタジアムに実況の声が響き渡り、歓声と怒号が入り乱れた。そこに落ち着いた女性の声が入る。
「それではただいまのレースの結果をお知らせします。

☆★☆★☆
単勝:六番 九三〇日
複勝:六番 二三〇日/四番 一七〇日/壱番 三六〇日
枠連:四-六 二六一〇日
ワイド:四-六 六二〇日/壱-六 一〇二〇日/壱-四 八〇〇日
二連単:六>四 四五八〇日
三連複:壱-四-六 五二一〇日
三連単:六>四>壱 三一三三〇日
☆★☆★☆

 最低掛け日数である一〇〇日に基づいております」
「しかし夢のある話ですなァ。三一三三〇日というと約八十五年でしょう。今回のレースだけで転生後の寿命を平均寿命以上勝ち取るとは羨ましい限りだ」
「きっとこのまま転生受付所に行って来世を満喫するのでしょうね」
「くぅー! わたしも早く転生したい!」
「そういえば今回はどうでした? 買ってましたよね」
「その話はしないでくれェ! とにかくまだまだ実況はやめられません!」
「なるほど。そっとしておきましょう」
「では今回のレースはこれにて閉幕!
 次回はドキドキ後部座席。生者が運転する自動車の後部座席に勝手に乗り込み、我々に気づいてブレーキを踏むまでの距離を競い合います! お楽しみにィ!」
「さいきん首や手足の忘れ物が多いので、死者の皆さんはお気をつけてお帰りください」
「生者の皆さんは後部座席にお気をつけてお帰りくださァい!」


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