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白沢二背さん

白沢二背と申します。現在、月に一度もペースで執筆中。

性別 男性
将来の夢 恐竜になる事
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自殺した、幽霊

16/08/16 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:0件 白沢二背 閲覧数:886

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 君は橋の欄干に凭れている。君は本日、会社をクビに成った。峠は越えて、既に人通りも疎らで、あった。君の隠し【ポケット】では、携帯電話のアラームが響き、君は其れを無視し続けていた。君の名前は一之瀬洋子。此の界隈では、ちょっとした有名人である。曰く「会社をクビに成りそう」だの、「実際クビに成った」だの、「再就職先でも」だの。何か有る度に此の調子では、周囲の人間も慣れっこに、成ってしまう。君は、本日二度目と成る、後悔の真っ只中で、あった。「幽霊は、自殺したら生き返るのかな」「痛そうだな」「厭だな」。溜め息を吐いて、君は、橋元を覘いてみる。一瞬にして眩暈がし、よろよろと、後方へと後退る。「もう一度、だけ」。と、君はよろめいた儘で欄干を。矢っ張り、駄目だ。君には、死ぬ度胸なんて、無い。御握りの包みを開き齧り付くと頬一杯に味が広がる。鮭の甘味が口腔に広がり、君は其れだけで満たされた気分に成った。橋の手摺りではゆっくりとしていると、不意に聞き覚えの無い声が響いた。ちょっとハイトーンで味気の無い声だ。君は、うっかり御結びを転がし、「嗚呼嗚」、と其れを拾い上げる。もう一度耳慣れない声で「其れ、食べないのなら」「頂戴」と、声がする。辺りを見回しても人気は無く、其れで君は「ゆゆゆ幽霊!?」と、寝言を吐いた。幽霊ならば言う訳が無い。少なくとも「御握り食べたい」なんて、言わない。君はもう一度周囲を見渡し、周囲に誰も居無い事を確認するのだった。

 翌朝、同じ橋へと追い着くと、一際、沢山の人集りが出来ていた。君は、「何だろう」「自殺かな」「此れ」と、吐いて、人混みの行列に加わるのであった。と、不意に誰かが大声を挙げ、君は欄干に身を寄せる。其処には、女の子が蹲っては、居て、継いで「消防! いや、救急車だ! ! 早くっ」と、男の人の声が並ぶ。君は、すっかり狼狽し、疲弊し切った面持ちで、帰途を拱くのであった。すると、だが、女の子は厭々として君を見付けると「御姉ちゃん! !」と、叫ぶ。一瞬、眩暈がしたが、君は、其れを受け入れる他、無かった。

 翌日、君は会社を辞めていた事も相俟って、女の子の身元を調査せざるを得なくなった。「御父さんは!?」「御母さんも!?」「御爺ちゃん、御婆ちゃんも、居無いのねっ!?」。困ってしまった。女の子は厭々と続けるだけで、君の話に耳も向けない。此れでは八方塞がりで、ある。唯、御握りだけは好く食べて、此れが走査の第一歩と成った。「君、一昨日の晩、此の辺りに居たでしょ?」。「ううん」此方の言に女の子は首を振って応え、唯、其れが確信を強めるのだった。

 君は橋の欄干に凭れている。此処から見える、凡ての家が、候補である。少女の身元は、已然、芳しくなく、泣く泣く君は古歌を、詠む。「古池や、蛙飛び込む水の音」。「きゃ、きゃ」。此れでは埒が明かない。少なくとも、住所か来た方向を訊ねねば。君は、そうっと、女の子に近寄り、リュックの中身を打ち寛がせる。出て来た、身分証明書と地図と、赤丸の付いたペンライトが。「やった」。君は陽気に成って御握りの包みを開く。むしゃむしゃ。頬張る姿はあどけない物だ。君は、残りの半分を隠し【ポケット】に、仕舞うと、更に残りの半分を、放り込んだ。夕暮れ時にして夕飯時に、君は、両親に当たる人物を、訪ねた。「御母さんよ」「ほら」。と、背中を押すと、女の子は「嗚〜呼。此れで御姉ちゃんとも御別れ、かあ」と、呟く。彼女の両親は「有り難う御座います」「此の娘ったら、もう」「本当、心配してたんですよ」「本当に、本当に、有り難う御座いました」。と、頭を垂れ、次いで「御礼に成るか」「分かりませんが」と、告げた。

君は、橋の欄干に腰掛けて、居る。此処から見える風景が好きだし、此処から眺める蛙等が、愛しい。君は、女の子を送り届け、其の足で或る、謝礼を貰った。曰く、彼女の両親に拠ると、「自殺した幽霊は一日だけ」「生き返る事が、出来る」と謂う。詰まり、初日に聞いたあの、「食べないなら」「頂戴」「其れ」は、本物の幽霊だったのかもしれない。君は、御握りを頬張り、むしゃむしゃと近場、其の片隅にてで『あの夏の一声』を、思い返すので、あった。






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