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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
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パポプピ!コンペイ島

16/08/15 コンテスト(テーマ):第114回 時空モノガタリ文学賞 【 パピプペポ 】 コメント:8件 冬垣ひなた 閲覧数:1354

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≪夏休みの日記≫桂木 英太
 8月○日、はれ。おじいさんのいる島へ、初めて行くことになりました。
 お父さんとお母さんは、仕事があるから東京でおるすばんです。
 代わりにおじさんのムラタさんといっしょで、たのしい旅になりそうです。



「グブォァ、ゲロゲロー!」
「だ、大丈夫か、英太!もうすぐ島が……見えてきたぞ、ほら」
 東京から離れ、英太を乗せた小さな船は、青い海に描かれた白い波をザブザブかき分けて進む。かれこれ一時間半は揺られていた。都会暮らしの10歳児にはヘビーな長旅だ。
 船酔いでふらふらする英太の肩を抱き、ムラタの指さす海の上には、こんもりした緑色のオムライスみたいな島がある。
「あれがコンペイ島(トウ)だ」



 ちっちゃい島だけれど、ここはお母さんとムラタさんのふるさとです。
 島の上の方には赤い大きな建物が立っていて、これはコンペイトウを作る工場で、島の人たちはここで働くか、海で魚をとりながら暮らしているそうです。
 ぶじに船が着くと、島の人たちがぼくらを待っていました。



「おとん、これが英太だ」
「おじいさん、すげぇ……」
 生まれて初めて会う祖父の顔は毛に覆われていた。三毛だ。大きな図体の猫が二本の足で立っている。握手した。肉球だ。本物の肉球!
「パポプピ!」
「うぉ」
「ははは、『パポプピ』はここの言葉で『ようこそ』って意味だ」
「クポック、ペポパパウポポポオポポペパプ?」
「……?」
「今のは、『よく来た、腹減ってないか?』って言ったんだ」
 英太は荷物を持って祖父たちとともに、海辺の家へ向かう。祖父だけでない、コンペイ島の住人は猫の着ぐるみのように見えた。それ以外は人間と変わりない。
 だが、喋る言葉はピポとかパぺとか、やたらとパ行が多い、謎の方言だ。
「例えば、『パピプペポ』。その言葉で、二度とこの島に帰らなかった者もいる」
「ニャーじゃないんだ」
「まあ、猫じゃないからな」
「猫でないなら何さ、ムラタさん」
 そう口を尖らせてみたが、ムラタは答えなかった。



 おじいさんの家は古くてガタがきていましたが、夕食のお魚はとれたてでおいしかったです。
 お母さんからのお土産を渡したら、それはマタタビの木で、よっぱらいになったおじいさんはゴキゲンでペポペポ言いながらおどりました。
 猫おどり、面白かったな。



 翌日、島の頂上にある赤い壁の工場を、英太はムラタと一緒に訪れた。
「うわぁ暑い!」、英太は思わず声を上げた。入り口の温度計は室温45℃だ。それだけでなくやけに湿気がある。中には2メートル近い大きさの、斜めに傾いた釜が、左右に分かれてたくさん並んでいて、ひっきりなしに『ザー、ザー』という音が響いた。
 割烹着姿の猫たちは、釜の番をしているようだ。
 ガスバーナーで熱された釜には、小さなグラニュー糖がたくさん入っていて、それはゆっくり時計回りに回転する。傾斜があるので上のグラニュー糖は流れ落ちてくる。その音が鳴っているのだ。
「小さいね」
「まだ一日目だからな」
 猫はのっそりと動き、小さな柄杓で何かを釜の中に振りかけた。そして鍬でそれを混ぜる。
「何してるの?」
「糖を溶かしたシロップをかけているんだ」
 釜は30秒で一回転する。英太は5分程じっと見ていたが、何も起こらない。
「コンペイトウ、出来ないぞ」
「ははは、そりゃ2週間かかるからな」
 英太は唸った、ついでに腹が鳴る。コンペイトウを腹一杯食べるために朝食を抜いたのに、あんまりだぁ。



 8月×日。最初はのんびりした楽な仕事だなと思いました。
 けれど、熱い釜の前で朝夕シロップをかけつづけ、それで大きくなるのは1日1mmです。
 丸くなり、だんだん角が生えてきて、色や味のついたシロップをかけて、釜ごとに出来た七色のコンペイトウを口に入れた時のやさしい味は感動しました。
 待っている間も、おじいさんたちとカブトムシをとったり、つりも教えてもらい、うれしかったです。



「な。手間のかかる仕事だろう、かといって誰が褒めてくれる?」
 それが悔しくて島を出たのさ、俺や姉さんは。ボソリとムラタは呟く。
「そんなことないよ、ぼくが褒める」
「ありがとう」
 波止場でかがんだムラタの首筋にファスナーがあって、少し黄色い猫の毛がはみ出していた。島に戻りたいのかな、と英太は思う。
 英太もいつか自分のファスナーを見つけるだろうか。人でも、猫でもない、マイペースな生き方。
 二人を乗せた船が、港を遠ざかる。
 さよなら、コンペイ島。
 見送る島のみんなは声を枯らし叫んだ。
「パピプペポォォォ!」
「ねえ、なんて言ってるの?」
 ムラタは深く帽子をかぶり、言葉を口にした。
「……『がんばれよ』、だってさ」
〈おしまい〉


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このストーリーに関するコメント

16/08/16 冬垣ひなた

≪補足説明≫
左・中央の写真と、作品内の描写等は大阪・堺市にある堺プチミュージアムでこんぺいとう作り体験をしたときに勉強させていただいたものです。

16/08/20 冬垣ひなた

海月漂さん、コメントありがとうございます。

金平糖職人が一人前になるには何年もかかるそうです。実に幼心をくすぐるお菓子ですが、作るのは大変なんですね。そのまま表現するとやや説教臭くなるので、子供の世界と大人の世界のバランスが取れた、ほんわかした世界観で仕上げました。メルヘンチックなお話を描くのも初めてですが、楽しんでいただけて良かったです。

16/08/24 泡沫恋歌

冬垣ひなた 様、拝読しました。

とってもメルヘンチックなお話ですね。

猫たちが金平糖を作ってると思うとなんだか微笑ましい。

宮沢賢治の世界みたいで、読んでいてとても楽しかった♪

16/08/30 冬垣ひなた

泡沫恋歌さん、コメントありがとうございます。

もうちょっと文体が可愛かったり構成練った方が良かったなと思いましたが、それは次回以降の課題にしたいと思います。島の住人として色々動物や宇宙人などを考えましたが、猫がよく合うような気がしました。楽しんでもらえたら本望です(*^^*)

16/09/01 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

いろんな謎が残るファンタジーでしたが、爽やかな読後感がいいなあと思いました。
素敵な夏休みの思い出になりましたね♪

16/09/05 冬垣ひなた

そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

友人とこんぺいとう作りを体験した記念にと思い、結構勢いで書いた感がありますが、楽しんで頂けて良かったです。しかしテーマのパピプペポはとても難しかった(汗)。

16/09/08 あずみの白馬

冬垣ひなた様、拝読させていただきました。
現実の金平糖の作成体験と架空の島「コンペイ島」が見事に組み合わせられた名作だと思いました。
「パピプペポ」に込められた思いも重なって、良作であったと思います。

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