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水面 光さん

■ホームページ「水面文庫」 http://www.minamo-bunko.com/ 忙しい中でも身を粉にして執筆活動しております。ジャンルとしては現代ファンタジーが中心でございます。よろしくどうぞー

性別 男性
将来の夢 物書きでメシを食う
座右の銘 人の心は変わらないから自分が変われ

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あんたすすけてるぜ

16/08/15 コンテスト(テーマ):第116回 時空モノガタリ文学賞 【 裏切り 】 コメント:0件 水面 光 閲覧数:749

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「素敵な方ですねって、完全に見た目で言ってんだろ。そりゃ人は100パー見た目だが少なくともわしはそんな無慈悲なことを言うつもりはない。心配しているとか言って腹の中じゃムカついてやがるんだろうが。それくらいすぐに察しがつくんだよ。わしは馬鹿じゃない」私は自分を制することができず、独り言をつぶやくくらいならまだ赦されるが、私はアイツに向かってわざわざ喉の膜を震わせて空気を振動させて音波を作り、アイツの耳の鼓膜を刺激して、そこにつながった神経を活性化させて、脳に私の考えを送り込んでやった。アイツは何か達観したように私に対して穏やかな、極めて穏やかな思念を同じように私の脳に送り込みやがった。「もう行ってきたよ。花さしておいたから」「うちには寄らないのか?」「来るんだったら電話しろって言ってたから」「おまえそんなに電話がしたくないのか?」「そういうことじゃない。あんたにはもううんざりなんだ。がっかりさせられてばかりいる。せいぜいあんたの城でのんびり余生を送ってくれ」私はそこまで聞いて頭の血管がブチギレそうになった。いやすでに毛細血管はお釈迦になっているはずだ。実際はそれに気付いてないだけ。もう駄目だ。もはや私の頭だけではない。頭が統括しているすべてがイカれちまっていた。顔を見に来るとか言うから私はてっきり今日アイツがここに来ることを想定していた。もちろん、タダじゃ済まないと思って何度もシミュレーションした。ああ言ってやろう、こう言ってやろう、こう言われたら、ああ言ってやろうというふうに。しかし結局のところアイツには何を言っても無駄だということに気付き、その世界一馬鹿馬鹿しい行為をすぐにやめた。何も言うまい。そう決めていた。それなのに! 「おまえがわしを馬鹿にしているのは知ってる。まかり間違ってもしおまえが心底わしを心配していると仮定してみよう。間違ってるんだよ、おまえの言っていることは全部な! わしとおまえのこの世界に対する考え方がまったく180度違うことをまず知れ。話はそれからだ」アイツは一つ鼻息を吹いて馬鹿にしていることに何か問題でもあるのかとでも言いたげな間を置き、至極落ち着いた声音でこう言った。「そんなことは知ってる。言われなくてもな。だが、あんたが言ったようにわいにはわいの考え方というものがある。死んだあの人が言ってただろう? 人の心は変えようがないと。変わるとしたら、あんたのほうが変わるしかない。わいが変わるわけにはいかんのだよ。あんたこそそれを知ったほうがいいんじゃないのか? 話はそれから始めようぜ」私はもう限界をとうに超えて、何と表現したらいいか、究極の境地に達していたとでも言おうか。そのときはっきりこう言う声がした。「殺人」「馬鹿言え、なんでわしが実の弟を殺さなくちゃならんのだ? あんまりじゃないか!」「殺人」「黙れ!」「ワタシは黙ることができない。なぜならワタシはおまえだからだよ」「よしてくれ! もうたくさんだ!」「やめることはできない。何度も言うようだがワタシはおまえだからだよ」「アイツは花をたむけさえすればいいと思ってる。死んだあの人のためなら、それくらいの出費は屁とも思っちゃいない。しかし、ただわしの顔を見るだけの行為に及ぶ気も、うちに来る前にコンビニで茶でも買ってきてやろうかという気も微塵もない。アイツはそういう野郎なんだよ!」「ホントにそう思うのか? 本当は心のどこかでまだ期待してやしないか?」「してない! これっぽっちもな!」「殺人」「うるさい黙れ!」アイツはすまして言った。「どうした? わいもこれ以上あんたと長話する気はない。わいのやるべきことはやった。じゃあな」「ちょっと待て! 一つだけ訊いておきたい。おまえはあの人を愛していたのか?」「当たり前じゃないか。訊くまでもない」「じゃあなんでわしを責める? あの人の一番の願いはわしらが仲良くすることではないか」「同じ質問をあんたにしてやる。事を荒だてているのはあんたのほうじゃないか。わいはもうわかったんだ、あんたと同じように、あんたには何を言っても無駄だってことに。こんなにがっかりさせられることがこの世界に他にあると思うか? つくづくだぜ、あんたには」「殺人」「よせ! わしは殺したくなんかない! 嘘じゃない! ただ、仲良くはできないだろうな、ハハ! それは間違いない、お互いに疑いあってる、仲良くできるはずがない」「殺人」「おまえの言いたいことはわかったよ、もういい、消えろ!」「何度も言わせるな、ワタシはおまえだよ」アイツはこんなことをしている暇があったらカネ稼ぎをしたほうが賢明だと言わんばかりに私に言った。「もういいか? 一つ言いたい。あんたすすけてるぜ、顔が」私は暑くて汗をかいているのではない。決して──。「アイツを愛している?」「もちろんだ」


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