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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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清純派でいこう

12/10/01 コンテスト(テーマ):第十六回 時空モノガタリ文学賞【 テレビ 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2470

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 そろそろ横になろうか。
 と、栄二が居間をたとうとしたとき、妻の美紀が甲高い声をあげた。
「まただわ」
「どうした?」
「消したはずのテレビが、またついたの」
 彼女は首を傾げながら、リモコンボタンを押した。42インチ画面は暗くなった。
「押し方があまかったんだろ」
 栄二が寝室の襖をあけたとき、
「まただー」
 さっきよりずっとテンションの高い妻の声に、一瞬栄二もぎくりとなって、居間をふりかえった。
 美紀はリモコンと、明るくなった画面を交互にみやりながら、茫然とたちつくしている。
「どれ、どれ」
 栄二は彼女の手からリモコンをうけとると、電源ボタンを力いっぱい押した。テレビは消えなかった。
「電池が切れたのかな………」
 と彼は、テレビ本体の電源スィッチを直接押した。画面は一度、暗くなった。がすぐ、ぱっと明るくなった。
「こういうことが最近、何回となくあるのよ」
「明日にもメーカーに電話してきてもらえばいい」
「買ってそんなに日がたたないのに」
「欠陥品を買わされたのかもしれないな」
 栄二はふと画面に目をやった。光がそこで、またたいたような気がした。いやそれは、光ではなかった。画面の中から二つの大きな目が、じっとこちらをみている。瞳の中央で瞳孔が、きりりと引締まるのがわかった。
「気持ちわるい」
 そのあまりの生々しさに、おもわず美紀はふるえあがった。
「なにかの番組だろ」
 笑いながら栄二は、チャンネルを変えた。が、目はそのまま残った。
「あれ」
 何度押しなおしても、目はそこにあった。
「ええい!」
 癇癪をおこした彼が、電源のコードをソケットから引き抜いた。
「いやーっ」
 テレビも目も、消えなかった。依然として、こちらの二人を凝視している。
「いったい、どうなってるんだ………」
 二人は途方に暮れて顔をみかわした。
 夫妻はその夜、なんども寝床からでては、襖をあけて、居間のテレビをうかがった。画面の目がそのつど、ギョロリとこちらを向き、あわてて寝床にとびこむという行為を二人は朝方まで繰り返した。

「なんだかあの目、わたしたちに興味をもってるみたいね」
 出勤前の食卓で美紀が、落ち着きをとりもどした顔でいった。
「どうやら、悪気はないようだな」
 栄二にも、あれが無邪気な子供のような目に思えてきた。何度も夜中に確かめているうちに、いつしかかれらはそんな印象をもつにいたった。彼は会社に出かけ、美紀はそれから掃除に洗濯と専業主婦の仕事にいそしんだ。
 自分に関心をもっている相手に、常にみまもられている………いまもテレビの中からみつめるまなざしは、いつしか彼女にそんな印象を抱かせるようになっていた。まんざら悪い気持ちではなかった。
 栄二は夕方、早くに帰宅した。あのまなざしが、忘れられない。彼もまた妻と同じ心境でいたらしい。
 その夜二人は、テレビの前に坐って、画面の中の目と神妙な態度で向いあっていた。
「私たちもっと、次元の高い生き方をめざさなきゃ」
 そんな言葉が自然と美紀の口からでた。一日、目にみられているとなぜか、ふだんの自分たちの無秩序な生活がおもいしらされ、自戒の念にとらわれた。
「そう思って、会社の休み時間に、これを書いたよ」
 と栄二は、鞄からノートをとりだした。
 ノートには、自室で送る彼と妻との行動がシナリオ風に描かれていた。
「―――お茶を飲んで話をかわしながら、じつに幸せだなという顔になって、そうだね、いちど、屈託のない笑いをかわそうか」
「両親の行く末をしんみりと気遣うところもいれたほうがいいわ」
 そのようなやりとりはふだん、テレビのホームドラマをみているときに、二人がかわす会話だった。ストーリや俳優たちの演技に、いちいち文句をつけながら結構たのしんでいた。いま、それとそっくり反対のことがおこっていた。 いまみているのは、テレビのほうで、自分たちはいってみれば出演者だった。
日を追うごとに、テレビの眼にうつる自分たちを、できるかぎりよくみせるために、念をいれてシナリオを作り、ときには別の部屋で稽古までして、本番に臨むようになった。
 ここのセリフはもっと強調しようとか、二人の位置をいろいろ変えたりして、まるで名プロデューサーさながら、じぶんたちが納得するまで何度もNGをくり返した。

「ねえ、今夜あたり、ラブシーンもいれてみましょうか」
 妻がふとそんなことをいいだしたのは、テレビの前で演技をはじめて一週間もたったころだった。
 栄二はかぶりをふった。
 ドラマのなかにそんな場面がでてきたらきまって、どちらもきまずそうに目をそらしている二人だったのだ。
「僕たちはあくまで、清純派でいこうじゃないか」
 二人は顔をみあわせると、そのうちとうとうこらえきれなくなって、ぷっとふきだした。


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