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守谷一郎さん

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幽霊だとは気づかない

16/08/11 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:2件 守谷一郎 閲覧数:1119

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夜勤をあけて四畳半の狭苦しいアパートに帰ってくると物の配置が換わっていた。というよりも散らかされていた。
最近、いつもだ。
脂ぎった顔を洗おうとして洗面台をみると洗顔料の蓋が空いたままになっている。
仕事に行く前に使う習慣はないし、むしろ朝帰りをしてから何かする気力など湧かない。片付けをしてから家をでるのが常だった。
そうすると、これは何者かに荒らされたと考えるのが自然だろう。
何者とは誰か?
俺は幽霊だと睨んでいる。
ストーカーに狙われるほど俺が魅力的だとは思えないし、泥棒ならタンスの奥に隠した一年分の給料袋の束にいつまでも気が付かないはずがないからだ。
そもそも、こんなオンボロアパートを狙うなんて泥棒として才能がない。間が抜けている。
となれば、この湿気に溢れた部屋にでそうなのは、まあ幽霊くらいしか思い当たる節がない。
気味が悪いが、実害は部屋が散らかるくらいか。
片付けは嫌いではないし、仕事も忙しい。警察に行く手間を想像すると多少のことに目をつぶってしまった方が楽な気がした。
というわけで、俺は今のところ寛容な精神でこの状況を受け入れている。

いつものように慌てず、何か食べようとキッチンに行くとシンクには使った覚えのない食器が水につけられ、食べかすが浮いていた。
はあ、とため息をつきスポンジに洗剤を泡立てる。
ずぼらな同居人と住んでるみたいだ。
受け入れると言ってもやはり面倒は面倒だ。
一息つくため着替えようと思ったらタンスからはでろっと舌みたいに赤い服が飛び出ている。
俺、こんな趣味の悪い服買ったか?
最近の幽霊は服もプレゼントしてくれるらしい。
部屋を散らかすことにちょっぴりでも罪悪感を持ってくれているのだろうか。
そんなほほえましい想像もしてみた。ほほえましくもないか。

初めは、幽霊がいる部屋にいられるか、とすぐに出ていこうと考えたこともある。
ただ、最近は仕事が忙しくなり、ただでさえキツイ工場夜勤の拘束時間が随分伸びた。
昼夜もわからず、自律神経がおかしくなっていくのが自覚できた。
このままではいけない、そう思いつつも何かを変えるための元気すらない。
生きている方が苦しい、そんな状況だった。
それがいつからだろう。
この部屋に奇妙な同居人が暮らし始めたころ、体の芯からスッと重いものが取り除かれ、楽になっていくのを感じたのだ。
もしかしたらコイツは座敷童子みたいに人を幸せにしてくれる、そんな幽霊なのかもしれない。俺は幽霊に対しての考えを改めた。
それなら多少部屋を汚すくらいは我慢しようというものだ。
幽霊の素行を大目に見る自分がおかしくて、クスッと笑いが漏れた。
その瞬間蛍光灯が切れてしまったのか、明かりが消えた。
最近入れ替えたばかりの気がするが、これも幽霊が悪さするのかふとした拍子に電気がよく点滅する。まあそれもどうでもいい。貯金さえ無事ならそれでいい。

暗くなった部屋で何気なく窓の外を見ると、黒い街が作るでこぼこの地平線から薄いオレンジ色の光が漏れ出ているのが見えた。もうすぐ日が昇りそうだ。
もう朝なのだ、と思うと何だか眠くなってきた。
夜勤で無理するとそうした感覚も真逆になるが、今は慣れてしまったのかそんなに辛くもない。
ふぁーと豪快なあくびがでる。蛍光灯が一瞬また点滅したがすぐ切れた。
さっさと寝よう。
と、そうだ、寝る前に一応幽霊に警告しておこう。念のため。
俺の貯金にだけは手をだすなよ。手を出したら俺の方がお前を呪ってやる。
まあ幽霊がお金を使うこともないか、と一人でまたおかしくなって安らかに眠りについた。
・・・

ある晩、五畳半のアパートで男女が会話している。
「ねえ、正人の部屋って幽霊でるってホント?」女が尋ねる。
「お!そうなんだよ」男がそれに答える。
「なんで嬉しそうなのよ、気味悪いでしょ」
「まあ気味悪いことは気味悪いんだけどさ。それよりも便利なんだよな」
「便利?」
「んー、例えば朝時間がないから食器をそのままにしておくだろ。そしたら帰ってきたときには洗ってあったりさ。ほかにも、だしっぱなしにしてあった洋服が片付いてたり、とか」
「なにそれ?家政婦さん?」
「はは。一応大家に相談したら過労死した前の住人じゃないかって脅かしてきたよ。掃除好きだったらしいし、だらしない俺にはまあちょうどいい幽霊かな」
「ふーん、まあ正人がいいならそれでいいけどさ」
「いいのいいの。むしろありがたい。しかもこの前さ、タンス漁ってたら結構な量の現金みつけちゃったんだよね」
「え、それって」
「前の住民のへそくりだろうなあ。まあ、事故物件に住んだ役得ってことで受け取っておくよ」
「えー、いいの?」
「いいんだよ。幽霊がお金を持っててもしょうがないだろ?それに、そもそも幽霊なんて本当にいるはずないしな」


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このストーリーに関するコメント

16/08/12 クナリ

ラストでのことの真相暴露とともに、これではいよいよ本格的に呪いが降りかかるのでは……という気味悪さが残り、印象的な作品でした。

16/08/13 守谷一郎

クナリさん、コメントありがとうございます!
夏らしいお話にしたかったので読んで気味悪さを感じてもらえてよかったです笑

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