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ひーろさん

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殺された記憶

16/08/10 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:4件 ひーろ 閲覧数:1243

時空モノガタリからの選評

死に絡む関係者が幽霊として出会うという設定の面白さと、あっと驚くオチが鮮やかなショートショートだと思います。主人公が「冷たい人間」であるというところなどが伏線として生きていますね。復讐するにも幽霊の世界、さてどうなることやら、先を想像させる終わりかたも良かったです。

時空モノガタリK

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 僕は幽霊。誰かに殺された。
 実は、殺された時のショックで、ほとんどの記憶をなくしてしまった。僕を殺したのは誰なのか、何も覚えていない。殺される間際の恐怖の感覚だけは、いまだに鮮明に残っていて、僕を嫌な気分にさせる。
 僕を殺した憎き殺人鬼を見つけ出し、何とかしてやらないと気が済まない。呑気に成仏なんてできやしないというのに、それが誰なのか、さっぱり見当もつかないではないか。
ということは、殺されたわけではないのか。いや、じゃあこの嫌な感じは何なのだ。

 僕は考えを巡らす。もしかして、僕自身が自殺したとは考えられないか?
 いいや。すぐに反論。それはあり得ない。そんな、自分を自分で殺してしまうような愚かな人間ではなかった。自分か相手、どちらか一方が犠牲になれば命が助かる状況に遭遇したとする。そんな時は、どんな手を使っても相手を陥れる。それが自分にとって大切な人でも、だ。僕はそういう冷たい人間だった。だから、反感を買っても仕方ないかもしれないが、誰かに殺される筋合いはない。

 何かの事故に巻き込まれて死んだ可能性は?
 これにもすぐに反論できる。僕はそんな間抜けで、不注意な男ではなかったはずなのだ。何事にも注意深く、何をするにも用意周到。事故が起こりそうな場所になど初めから行くはずがない。僕はそういう人間だった。現に、何かで絞めつけられた時の首の跡以外、大きな傷は見当たらないのである。

 ならば、病魔に襲われて死んだ可能性は?
 それもあり得ない、と僕は反論する。僕は健康そのもの。病気に侵されるような柔な男ではなかった。だから、寿命を全うしたわけでもない。僕はまだ若かったのだ。希望にあふれた未来ある僕を、犯人は……。とにかく僕は健康だった。間違いない。

 よって、僕は僕以外の誰かによって、故意的に殺されたことになる。

 やはり何度考えても、この結論しか出てこなかった。僕は誰かに殺された。そう確信した。そして、殺される直前のあの恐怖が、僕の胸にむくむくと蘇ってくる。この恐怖こそが、僕が殺されたということの何よりの証拠であろう。実に嫌な気分だ。
 それにしても、これほど注意深い僕を殺してしまうとは、犯人はきっとかなり切れる頭脳を持ち合わせているのだろう。僕よりも……。何だかだんだん腹が立ってくる。許せない。犯人を見つけたら、呪い殺してやろうか。最近の僕の目つきは、凶悪な殺人鬼の恐ろしいそれと似ていると思う。きっと復讐してやるぞ。



 ある時、特に当てもなく、じめっとした狭い路地裏を歩いていると、壁に寄りかかって座っている男に出くわした。影の薄さから、彼が、僕と同じ幽霊なのだとわかった。
 どこかで見たことがあるような……。膨れ上がる期待を隠しきれず、明るい調子で彼に声をかけた。
「ごめんください、そこの幽霊さん」
 彼はゆっくりとこちらを向いて、弱々しく答えた。
「はい、オレに何か用でしょうか……」
 それからすぐに、彼は大きな声をあげた。
「あっ! お前はまさか!」
「あなたも僕に見覚えが? ということはやはり」
「あの時の!」
「やはり、僕を殺したのはあなたですね!」
 ついに見つけた、と僕は思った。しかし同時に、残念な気持ちが胸を占めた。彼はもうすでに死んでいる。どうやって復讐すればよいのだろう……。
「バカなことをぬかすな! それはこっちのセリフだ! はっきり覚えているぞ! オレを殺したのはお前だ!」
 彼は僕に向かって訳のわからないことを叫び始めた。僕が彼を殺した? 正気か?
「僕は殺された身ですよ。人殺しだなんて……」
「お前が忘れただけだろ……都合のいいやつめ! この、殺人鬼が! 償え! オレの人生を返せ!」
 彼の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。僕は圧倒されて、小さな声しか出せなくなっていた。
「だから、僕は」
 僕の言葉をすぱっと遮るように、彼は大きな声を張り上げてこう言い放った。


「お前なんか、殺人罪で死刑だよ! 当然だろ!」


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このストーリーに関するコメント

16/08/11 クナリ

引き込まれる冒頭から男との出会い、そしてラストまで、物語に求心力がありました。
絞殺の跡が、じつは……という、わずか一行での衝撃が素晴らしいですね。

16/08/13 ひーろ

クナリさん、感想いただきありがとうございます。
最後の一行にこだわったので、うれしいです。

16/08/20 奈尚

作品、拝見いたしました。
少しずつ伏線を張り、最後の一文で綺麗に落ちる展開運びが素晴らしかったです。なるほど、と思わず手を叩いてしまいました。
とても面白かったです。すてきな作品をありがとうございました。

16/08/23 ひーろ

奈尚さん、感想いただきありがとうございます。
なるほどと手を叩いてくださっている姿を想像して、書いた甲斐があるなあと感じています。こちらこそ、読んでいただけて感謝です。ありがとうございました。

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