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左足の小指さん

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月の駅まで

12/09/30 コンテスト(テーマ):第十四回 時空モノガタリ文学賞【 駅 】 コメント:0件 左足の小指 閲覧数:1503

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母が過労で入院したと父から連絡があった。
僕は、急いで母の入院する病院に向かったが、おかしい・・母は、専業主婦で3ヶ月前には父が定年になり、これからは二人でのんびり旅行でもと言っていた・・そんな母が過労だなんて・・
病室には痩せ細った母がベットにいた。
母は、心配させまいと僕には言わなかったのだと言った。
それは、父の事であった。父は、大きな駅で駅長をしていた。定年後、1ヵ月程は、何事もなく過ぎたのだが、ある日、朝早くネクタイを締め、どこかへ父は出て行った・・しばらくして、以前勤めていた駅から電話があり、迎えに来てくれと言う。
母が迎えに行くと父は、駅長室の中に座っていた。
本人が駅長室に入るのも大変だったらしいが、母が父をそこから出すのも大変だったと言う。又、それから家に帰るのも一筋縄ではいかなかったらしい。
父は、仕事が終わってないと言い張るのだ・・
小さな駅なら良かったかもしれないが、大きな駅であるから、父が自分がまだ駅長だと思い込んでいる事でトラブルが頻発した。
ある時など暴力沙汰になり、母は、関係者や警察に謝りに回ったと言う。
父は、自分がまだ駅長である・・と思い込んでいる以外は普通なのだという。
その一週間後、僕は父と九州の山の上にある駅に向かっていた。
その駅に降り立つと役場の方が待っていてくれた。

挨拶もそこそこに父は、構内を歩き始め、線路の方へ行ってしまった。
「こんなに大きな駅だとは思いませんでした。こんなに立派な駅なのに無人駅なんですか」
「ええ、近くに大きな工場が立つ予定で、駅は建ったんですが、肝心の工場が建設中止になりまして・・」

私は、母の話を聞いてから、父に説明を試みたのだが、根負けしてしまい、それならいっその事、父が通える駅を探してみようと思いたち、ここへやって来たのだった。
「こちらで駅の仕事や管理をして下さるなら、わずかですが、委託料も出ます」
役場の人の話は、願ったり叶ったりだ。住み込みも構わないと言う。ただ、父の年齢から一人では、困ると言う。当然だ。
しかし、母は、まだ、入院しているし、父は、出勤したがっているし、ええい!仕方がない、僕は、両親が歳をとってからの子であるから、まだ20代である。背負うものもないのであるから、仕事を辞め、父とこの村に越して来た。

無人駅になる位であるから、さぞや暇なのであろうと思っていたが、定年が来ても働く父とその子であるから、何でもやり始めるときりがない・・根っからの貧乏性なんだろうか・・
クタクタになって、乗客に教えてもらった近くの露天風呂に向かう。風呂につかり、上を見ると、星が凄い事になっている。まさに手が届かんばかりにあふれかえっているのだ。
田舎には何も無いと言う人がいるが、僕からすると何でもとんでもない位の量があるというのが住み始めてからの感想である。
やっとこれから髪を洗おうか・・と言う時に駅の方から爆音がした。
ガス爆発か!父の事が心配になり、駅に走る。
「水だ!バケツに持って来い!」
怒鳴る父を発見した。ホッとすると同時に消火用ホースを持って走った。
「ここにつっこめ」
言われるまま、ホースを入れたが、それは蒸気機関車の水タンクの入り口だった。
駅に着いて、凄い煙に家事か!と思ったが、機関車の煙だった。
こんな夜中に・・しかも8620型、現存はしているだろうが、なぜこの駅に?
「この水は綺麗なんだろうな?」
「湧き水の池からですから綺麗ですよ」
機関車の心配か・・父らしい
「石炭を積み込むのを手伝ってくれ、私は切符の発券だ」
振り向くと待合室に客が数人・・運行表を間違って覚えていたのだろうか?
僕は、機関車から降りてきた機関助手と石炭を積む際、機関助手の一人の具合が悪い事を知った。
8620の機関士と父が何やら話をしている・・僕に気がつくと父が僕にこう言った。
「母さんももうすぐ退院だし、二人なら何とかやっていけるな。母さんを頼むぞ」
「機関助手の代わりをしようと思っているらしいけど、父さんじゃ無理だ。石炭の量から長距離なのは分かるだろ?」
「しかし、人数が足らなければ運行に支障をきたす」
「僕が行くよ」
「帰りも時間が掛かるぞ」
「時刻表通りさ」
僕は、機関車に乗り込んだ。
「圧力計よし、水面計よし」
ホームにベルが鳴り響く
「発車」

僕は、助手の指示を受けながら釜に石炭を入れていく、交代になり、やかんから水を直接飲み込んだ。想像以上にへたばった。
しびれる手を休めながら、外を見て、驚いた。僕は、客車に行って客の切符を見せてもらった。
なるほど父が言った「帰りも時間が掛かるぞ」はこういう事だったのか。
確かに時間が掛かりそうだ。

駅では父親がぽつりとつぶやいた
「この頃、走っているのを見ないと思っていたら空を走っていたのか」


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