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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 童話作家。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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『パピプぺポ』の記念日

16/08/08 コンテスト(テーマ):第114回 時空モノガタリ文学賞 【 パピプペポ 】 コメント:0件 ちほ 閲覧数:1000

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 生後六か月で喋るなんてことは有り得ないと思うのに、僕ら夫婦は娘サクラの口から飛び出す宇宙語から想像してしまう。あの言葉を話してくれないかなぁ、と。妻の方が僕よりずっとそう思っているようで、母親だけにわかるという子どもの宇宙語ってやつに真剣に耳を傾けている。そして、そこから『言葉』というものを導こうとあれこれと話しかけている。話しかければ娘は嬉しいようで、きゃあきゃあと機嫌よく笑う。
 娘が眠っている間に、僕らは食後のお茶を飲む。僕の仕事は、今日はお休み。娘とたくさん遊べると思っていたのだけど、赤ん坊は眠るのがお仕事だったっけ。
「ちっとも喋ってくれないわ」
「生後六か月で喋る子はいないよ」
「そうだけど……そういうあなたも、私が眠っているとき『仕込んで』いるじゃない?」
「なに、それ」
「『パパ』って、眠っているサクラの耳元で」
「うっ……でもっ、君も『ママ』って」
 僕らは思わず赤面したが、どちらの言葉を先に話すかという話になった。もちろん、娘が実際に話すことによってでしか答えの出ない会話である。妻は少し投げやりに、
「もう『パピプぺポ』でもいいから」と言い出す。そのときだった!

──『パピプぺポ』

 驚いた! 本当に『パピプぺポ』と……
「言ったのか!?」
「言ったの!?」
 慌てて僕らは自分の口を押さえた。だって、サクラは眠っている。……眠っている?
「あの、サクラ、眠ってるんだけど」
「……寝言?」
 妻の言葉に首を傾げる。まだ喋ることのできない赤ん坊が、果たして寝言が言えるのか? そんな大問題にぶつかってしまい、僕は考え込んでしまった。そんな時、また
 
──『パピプぺポ』

「ほら!」
 妻の嬉しそうな声。

──『パピプぺポ』

「あ……」
 僕らは、同時に間抜けな声を出してしまった。二人とも見てしまったのだ。娘のサクラは、口を動かしていなかった。でも、明らかに喋ったのだ。その……あまり嬉しくない方法で。
「……個性?」
「たぶん立派に個性で、そして僕らはその個性をサクラ本人のために伸ばしてあげるべきだろう」
 ちょっと待て! 自分で言っておきながら、なんだかこの個性って……深く考えるまでもなく……
「女の子がオナラでお話しするのって、私なんだか納得いかないんだけど」
「あぁ、確かにそうだった」
 いくら親らしいことを言ってみても、行きつく先はオナラで『パピプペポ』と喋ってしまうという現実で。
 目をぱっちり開けたびっくり顔のサクラを、妻は抱き上げた。きゃあきゃあと笑いだしたサクラの無垢な笑顔に「たくさん『パパ』と呼んでとか『ママ』と呼んでとか言ったけど、もう急がないから、慌ててオナラで喋らなくてもいいからね」と、僕はしっかり話しかけた。生後六か月の赤ん坊は喋らないけど、きっと僕らの言葉は通じている。
 サクラが大きくなったら、「生後六か月で喋ったんだよ」と教えてあげようか? オナラで、と言ったら女の子だから泣くかもしれない。そこの部分だけ、僕ら夫婦の秘密にしておこう。 
「とにかく、記念日にはなったよね? サクラが初めて喋った日(オナラでだけど)」
 立派な記念日じゃないかな?



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