1. トップページ
  2. 分からないその答え

かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

投稿済みの作品

1

分からないその答え

16/08/08 コンテスト(テーマ):第114回 時空モノガタリ文学賞 【 パピプペポ 】 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1099

この作品を評価する

「今日のパピプペポ当番、誰だった?」
「増子さんだよ」
「もう車出さないと、お寺さん待ってるよ」
 私はピタリと足を止めて聞き耳をたてた。そっと階段の陰に隠れる。パピプペポ当番、何それ?  パピプペポってなんなの? 流れていた涙がぴたりと止まった。
「ああ、増子さん。やっと来た。もうパピプペポは積んであるから」
「悪い悪い。トイレ行ってたんだよ」
 火葬場の職員がスタッフエリアへの扉の前で話しているのだ。どうやら仕事の話のようなのだが斎場にパピプペポという語感は、なにやら似つかわしくない。私は隠れたまま聞き耳を立てる。
「じゃあ、お寺さんによろしく」
 初老の増子さんは車の鍵を受けとるとスタッフエリアに入って行った。きっとあの先に裏口があるのだろう。残った二人は待ち合い所の方へ去る。私は増子さんの後を追うことにした。喪服で尾行。街中じゃ目立つだろうが火葬場なら見つかっても迷子になったと言いわけできる。
 スタッフエリアへの扉を開けてそっと忍び込む。廊下が真っ直ぐ続いていて、どんつきにガラスの覗き窓がついた扉がある。どうやら増子さんはあの扉から外へ出たらしい。壁に「給湯室」と名札が掲げてある扉がある。泣きつかれた喉はカラカラに渇いていたが、今はそれよりパピプペポだ。
 ヒールが音を立てないように爪先立って歩き、裏口の扉に手をかけた。鍵はかかっていない。覗き窓から見える範囲に人はいない。扉をそっと開けた。キキーッとブレーキ音がして扉の真ん前で真っ黒なバンが急停止した。窓を開けて益子さんが首を突きだす。
「あんた、ダメだよ。ここは関係者以外立ち入り禁止なんだから」
 私の頭の中では『ごめんなさい、道に迷っちゃって……』という言葉が浮かんでいたのだが、出てきた言葉は違った。
「パピプペポってなんですか?」
 しまった、と思った時には増子さんの眉間にシワがよっていた。
「あんた、立ち聞きしてたんかい」
「すみません……」
「しょうがない人だなあ」
「しょうがないついでに教えてください! パピプペポってなんですか?」
 私は黒塗りのバンの真ん前に立って通せんぼした。増子さんはあっけにとられ口をぽかんと開けた。
「教えてくれるまで、どきません」
 増子さんは口をぱくんと閉めると軽くため息を吐いた。
「一緒に行くかね?」
 私はバンの助手席に飛び乗った。
 車は10分ほどで「黒厳寺」という寺の山門をくぐった。車の音を聞きつけてお坊さんが五人出てきた。増子さんがなにやら挨拶をしている隙に、後部座席を覗いてみた。積まれていたのは白い絹の袋。骨壺を納める袋だ、いくつもある。
 お坊さんたちが骨壺をどこかへ運んでいく。何往復かですべての袋が下ろされると増子さんは車に乗り込みエンジンをかけた。私も慌てて助手席に戻る。帰り道、私は増子さんに聞いてみた。
「無縁仏の納骨ですか?」
「いや、今日はパピプペポだけだね」
「パピプペポってお骨なんですね」
「まあね」
「だれのお骨なんですか」
「色んな人のだよ。火葬が終わって骨壺にお骨を納めるだろ。その時に入りきらなかったお骨を集めて、ああして供養してもらうのさ」
「なんでそれをパピプペポって呼ぶんですか?」
 赤信号で止まり増子さんはしばし考え込んだ。
「半濁音だからだよ」
「半濁音?」
 アクセルを踏みながら増子さんはすらすらと答えた。
「バが濁音、パが半濁音。濁ってもいない、清みきってもいない、ちょうど真ん中。お釈迦様が目指した中道を表すんだよ」
「なんでハ行なんですか」
「ハは何番目の行だい?」
「ア、カ、サ、タ、ナ、ハ。六番目です」
「六道輪廻がこれで終わって成仏できるように、ってことだよ」
「そんな意味があったんですか」
「いや、俺が適当に考えた」
「え、ウソ!?」
「さあ、ついた」
 バンは火葬場の裏手に回ると静かに止まった。増子さんは、さっさと車を下りてしまう。私はその背中を追う。
「本当の意味なんて誰も知らないよ」
「意味が分からないままなんて気持ち悪くないですか?」
「この世は意味が分からないことだらけさ。生きている意味、死んでいく意味、みんな分からずに過ごしてる。そうだろ?」
 私は分かったような分からないような、もやもやした頭のまま増子さんの後についていく。増子さんは私の真っ赤な目を覗きこんで言った。
「長生きしなさいよ。考え続けたら、いつかパピプペポの意味も分かるかもしれない」
 私はお礼を言うと待ち合い所に戻った。
 母はまだ業火の中に居て、まだまだ待ち時間があった。私はこれから骨壺に納められるお骨と、パピプペポになるお骨とに分かれる母の事を思う。人は死ねば皆、骨になる。パピプペポになる。それはなんだか可笑しいような、寂しいような不思議な気持ちで。私は静かに母のパピプペポを待った。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン