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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

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将来の夢 プロ小説家になること!
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幽霊になってみた

16/08/02 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:1件 海見みみみ 閲覧数:1188

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 あのピーケーでゴールを決めていたら、僕らの高校は全国大会に出場していた。
 でも現実はあまりに非情だ。僕はゴールを外し、全国大会への夢は一瞬にして断たれてしまった。僕がシュートを一回失敗しただけで。
 チームメイト達は『気にする事はない』と言ってくれた。でも彼らが心の中でどう思っているのかはわからない。気づくと僕の耳には『お前のせいで全国大会に行けなかった』という心の声が聞こえてきた。
 その内学校にいても、家にいても、僕を批難する声が聞こえてくるようになる。
『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』
「やめてくれぇ!」
 僕の心は次第に壊れていく。両親や他の大人に相談するには、もはや手遅れだった。
 自分は生きていてはいけない存在なんだ。そう確信し、自分の人生を諦める。
 そして僕は十階建てのビルから飛び降り、死んだ。今度はちゃんと自殺というゴールに自分をシュートできたわけだ。

「いやはや、この度の人生誠にお疲れ様でした」
 突如聞こえてきた声。そこに立っていたのは礼服姿のフクロウだった。
「あなたは?」
「私はあの世への案内人でございます」
 礼服のフクロウが礼儀正しく挨拶をする。
「僕は、死んだんだよな?」
「はい、確かに亡くなられました。今ご遺体は棺に納められ、もう時期お葬式が行われます」
「そうか……」
 僕はようやく楽になれたんだ。もう僕を責める声は聞こえてこない。これで安心してあの世へ行ける。
「それじゃあ案内人さん、早速あの世へ連れて行ってもらってもいいかな?」
「よろしいのですか。せめてお通夜の様子だけでもご覧になっては」
「僕はもうこの世に未練がないから」
 というよりは、この世にいるのが怖くて仕方なかった。行けるものなら早くあの世に行きたい。それが正直な気持ちだ。
「まあ、そう言わず。少しくらい覗いていきましょうよ、ね?」
 しかし案内人は食いさがる。何か理由でもあるのだろうか。
「それじゃあ、お通夜だけなら」
 結局押しに弱い僕は、案内人の言う事を聞く事にした。

 葬式、お通夜の会場。中に入るとそこは息苦しいくらいの沈黙に包まれていた。
 今はお焼香の最中で、親戚が列をなしている。彼らはみな目に涙を溜めていた。
 お焼香の順番が回っていき、親戚が終わると次は僕の学校関係者の番になった。そこにいたのは、
「部長……」
 サッカー部の部長、それに部員が全員集まっている。僕の心臓は止まっているはずなのに、動悸がしてきた。
 部長がお焼香を終える。喪主である父と目があうと、急に部長は地面に顔をつけた。
「申し訳ありませんでした!」
 予想外の言葉。それに僕はあっけにとられる。
「本当は私達が彼の気持ちをもっと考え、真摯に受け止めるべきだったのです。それなのに、私達は彼の異変を放置していました。これは私達が彼を見殺しにしたも同然です」
「「本当にすみませんでした!」」
 サッカー部の部員達が全員その場で土下座する。対して父は震えながら声をあげた。
「皆さん顔を上げてください。本来息子の異変に気付くべきなのは親である私の役目。それなのに私は仕事の事ばかりで、息子の事を気にもしていませんでした」
 父の目から涙があふれる。隣にいた母はその場で泣き崩れた。
 両親に部活の仲間、それに親戚達も含めみんなが一斉に泣き出す。その光景を見て、僕は震えていた。
「なんだよ、何をいまさら! 今になって泣かれたって、嬉しいわけないだろう! ふざけるな!」
 僕の叫び声は式場の人間には聞こえない。僕が幽霊だからだ。
 唯一叫びを聞いた案内人は、僕の肩を叩いた。
「それなら、なんであなたも泣いているのですか?」
 案内人に言われ、初めて自分が泣いていたのだと気づく。さらに案内人は続ける。
「辛い事も多かったでしょう。でもこれだけの人があなたのために泣いてくれている。それはとても幸せな事です。これがあなたの人生だったんですよ」
 案内人の言葉が胸に染み入る。僕は恨まれてなんかなかった。むしろ僕はこんなにも沢山の人に愛されて生きていたんだ。僕の両目から涙があふれた。
「そうだね、なんて素晴らしい人生だったんだろう。それなのに、僕は」
 案内人に言葉を返す。それから僕は式場のみんなに向け語りかけた。
「みんなごめん。そしてありがとう。今の僕には、ありがとうと言う言葉しか思いつかない。だから、本当にありがとう。」
 僕の言葉は部長達には聞こえなかっただろう。だがそれでも僕は感謝したかった。僕を愛してくれたみんなの想いに。

 あの世に行ったら、そこに待っているのは天国か、地獄か、それとも。それはまだ、僕にもわからない。
 でも、僕は今度こそ自分の人生を簡単に諦めず生きていきたい。そう覚悟した。


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このストーリーに関するコメント

16/08/11 上村夏樹

おひさしぶりです。上村です。

自殺という結末だけを見ると悲しい出来事でしたが、彼が愛されていることに安心しました。彼がもう一度生を受けることがあれば、今度は自分や他人と向き合える人生を送れるのかなぁと、希望が見えるお話でした。

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