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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
将来の夢 この世で最も面白い物語を見つけ出したい。
座右の銘 Do what you enjoy, enjoy what you do.

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コンビニ 「ハイ、ハニー!」

12/09/28 コンテスト(テーマ):【 コンビニ 】 コメント:8件 鮎風 遊 閲覧数:2886

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「いらっしゃー、まっせー」
 ふらりと立ち寄った高見沢一郎に、コンビニ特有の挨拶が飛んでくる。そして弁当を取り上げレジへと。
「あたためますか?」
「うん、あっためて」
 コンビニ定番の会話だ。
 それからプラスチック袋を手にし、外へと出る。そこに若者たちが物憂げにたむろしている。別段驚くことではない。日常化した風景だ。
 だが、彼らの横を通り過ぎる時にふと思い出す。高見沢にとって忘れられないコンビニを。

「Hi, honey !」
 高見沢がドーナツ2個と紙コップのコーヒーをレジに置いた。その瞬間、間髪入れずに声が掛かってきた。それに未だ眠気が残る声で怠(だる)そうに返す。
「Morning, Maam」
 体重100キロはあるだろうか、おばちゃんはレジ越しに、それに応えてニコッと笑ってくれた。多分その意味は、今日からの一週間、あんたも頑張りなさいよ、という激励かも。
 いやまったくその通りだ。事実、昨日の日曜日は誰とも話していない。そんな孤独な休日を、メランコリーな気持ち一杯で乗り越えて、新たな月曜日の朝を迎えた。そして週一番に交わす会話、それは……「Hi, honey !」/「Morning, Maam」。
 単純なものだが、週初めのこのお決まりの挨拶、正直これで一週間頑張ってみるかと、高見沢は気持ちを切り替えることができた。

 アメリカ・ケンタッキーでの単身赴任、三度目の冬を迎えていた。身体の芯まで凍える極寒の時節だ。外へは出られず、ただただダダッ広い借り上げアパートで、一人何もすることもなく日曜日を過ごさなければならない。
 だが、この状況は気が狂うほど寂しいということではなく、とにかくやるせないのだ。
 もし家族と一緒ならば、アメリカでの生活はきっと楽しいものだろう。だがアメリカでのチョンガー暮らし、いわゆるアメチョンは地獄だ。レストランでの一人食事、周りは家族客ばかり、その中でぽつりと一人。しかもメイン・ディッシュは威厳を持たせてなかなか出てこない。新聞でも読もうかと広げると、雰囲気を壊すなと鋭い視線が突き刺さってくる。
「ああ、日本の赤提灯が恋しいよ」
 こんな嘆きを何度呟いたことだろうか。

 そもそも赴任して、前任者からアパートを引き継いだ時に予感した。こんなトホホな生活を。
「おい、高見沢、このベッドで寝る時は端っこで寝ろよ」
 目の前には巨大なキングサイズ・ベッドが。高見沢は、ガールフレンドのために隣のスペースを空けておけよ、という前任者からの気の利いた助言かと思った。しかし、次の講釈を聞いて、高見沢はズルズルッと。
「勘違いすなよ。おまえ夜に、おしっこに行きたくなるだろうが。このベッド広くってなあ、真ん中で寝てたら、うまく脱出できなくって……お漏らししそうになるんだよ」
 これでなんとなくアメチョン生活のイメージが湧いてきた。そして、こんな忠告から始まったケンタッキー単身赴任、まったくその通りだった。それからというものは苦(にが)い澱(おり)のようなものが心の奥底に……どろりと。

 安アパートだが、スペースだけはある。玄関を入ると、絨毯が敷き詰められたリビングが原っぱのように広がる。だが一人じゃどう扱って良いものやら。そこは単に奥の部屋への通り道。やがてしっかりと踏み固まちゃって……一本道に。そう獣道となったのだ。
 また高見沢は典型的な日本人。巣は狭い方が安心する。そのためかキッチンに、とは言ってもゆうに八畳のスペースがあるが、テレビ、パソコン、本棚、デスク、もちろん冷蔵庫にチン、ありとあらゆる生活道具を持ち込んだ。要は日本での単身赴任生活、手を伸ばせば何でも手が届く、そんな空間をわざわざ具現化させたのだ。

 世間ではきっと楽しいはずの日曜日、誰も高見沢の陋屋(ろうおく)に遊びに来てくれない。ホントは見つけて欲しい隠れ屋で鬱々と時を過ごす。気持ちはメランコリーの極限に至ってしまい、そんな心情を歌にでもするかと、侘びしい男の一人遊びを。そして出来上がった曲は……まったくのドド演歌。

『冬のケンタッキー一人旅』

♫  見つけて欲しい隠れ屋の
  広いベッドの端っこで
  男は一人 涙を凍らせる

  獣道 その果てに
  チンと音する部屋がある

  早く遊びに来てくれよ
  あ〜あ、君を待つ

  冬のケンタッキー 一人旅   ♫


 毎週月曜朝一番、コンビニのおばちゃんからの……ハイ、ハニー!
「あのおばちゃん、今でも落ち込んでそうな誰かに声掛けてるのかなあ」
 高見沢は生き延びられたことに感謝し、アメリカのコンビニを懐かしく思い出したのだ。そんな時に、誰かが入店したのだろう、背後からコンビニ店員の……無機質な声が聞こえてきた。

「いらっしゃー、まっせー」


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このストーリーに関するコメント

12/09/28 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

まさか、ご自分の体験談ではないと思いますが・・・寂しさがヒシヒシと伝わって来ました。
海外での単身赴任の侘しさはとても想像を越えてます。
ネットがなかったら、牢獄と同じですね。

12/09/28 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

実は……ほぼ体験談でして、
さらに語れば長編小説になりますわ。

12/09/29 そらの珊瑚

鮎風さん、拝読しました。

日本のコンビ二はマニュアル通りなのでしょうけど、誰も同じようなトーンで挨拶や掛け声をしますね。丁寧だけど、ちょっと寒々しく感じてしまうこともあります。
それと対比するような、アメリカのコンビ二のおばちゃんの声かけ。温かく感じられたことでしょうね。

12/09/30 ドーナツ

拝読しました。

異国での一人暮らし、慣れるまでは寂しさひとしお。なれてもやはり寂しいです。
高見沢くん アメリカですか。
アメチョン、
この言葉、流行りそうですよ。

演歌ですね。誰に歌わせようか、いま考えてます(笑

12/10/05 草愛やし美

鮎風 遊さま拝読しました。
ハイハニーの言葉、アメリカでは何の気なしの挨拶言葉だったかもしれませんが、傷ついた寂しい人には女神の言葉なんですね。
異国での単身赴任、我が家でも3度あります。合計で言えば、12年ほどなります。まあ行った先はいつもシカゴが基点だったので、高見沢さんよりはずっとましだったかもしれません。
全く知らない異国だと大変でしょうね。息子もアルゼンチンに行って4年になり、かなり慣れたようです。それでも言語はもちろん、文化や習慣など違うので苦労はありそうです。
ハイハニー、いい習慣の言葉ですね。

13/11/29 鮎風 遊

そらの珊瑚さん

コメントありがとうございます。

アメリカのコンビ二のおばちゃん、優しいですよ。

13/11/29 鮎風 遊

ドーナツさん

コメントありがとうございます。

高見沢はアメチョン。
わびしさも蹴飛ばして、生き延びました。

13/11/29 鮎風 遊

草藍さん

コメントありがとうございます。

ハイハニー、高見沢にとっては蜜の味だったようですよ。

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